白城の医療事務所は、島国の霧が窓を曇らせる夜、詩のような静寂に包まれていた。深山蓮は机に座り、白い髪を指で梳きながらカルテを広げる。屈強な体躯に白い瞳が淡く輝き、赤ピンクのネクタイが胸で揺れ、黄緑と赤ピンクのマフラーが肩を優しく覆う。彼は白城の医療の語り部として、愛の純粋さがもたらす肉体の変質を記録する。患者の名は龍鳳——白城の白の上級保安官。三笠への重度片想いが、詩的共鳴による遺伝子変化を誘発し、崩壊の序曲を奏でた。
深山はペンを握り、カルテに詩のように記す。手は穏やかだが、瞳に微かな哀歌が宿る。

症例番号:WC-0262
 患者名:龍鳳

性別:男性 / 職業:白城の上級保安官

主訴:皮膚剥離、骨音発、臓器変質、進行性崩壊

既往歴:特記事項なし。三笠(同僚)への重度片想いを自認(詳細非開示)。詩的共鳴による後天的遺伝子変化確認。
診断名:
恋慕性肉体崩壊症(Affectional Somatic Collapse Syndrome)
•強い恋愛感情が肉体を愛・記憶へ変質させる症候群。結晶心臓のみ残る詩的崩壊。
発症経過:
患者は約3週間前、三笠への報われぬ想いが契機で発症。初期:皮膚花弁様剥離(愛の開花)。患者自陳「三笠の名を思うと、肌が花びらに変わる」との記述あり。中期:骨が旋律を発し、愛の痛みを奏でる。末期:臓器が相手記憶に変質、身体水溶性崩壊。痛み自覚なし、末期まで無自覚進行。
進行の特徴:純粋感情が加速。遺伝子配列保有者限定だが、詩的共鳴で後天発症。最終的に心臓結晶化、身体消滅。
治療経過:
感情詩化転写・無恋領域遮断施行も、純粋想いの強さで無効。共鳴儀式回避(感染リスク)。予後不良。
予後:
進行性・不可逆。最終的に水溶崩壊と結晶残存。愛の同化が、肉体を詩に変える。
所見:
本症は純粋愛が身体を蝕む象徴。結晶心臓は永遠の残響。白城の霧のように、愛は溶け、旋律を残す。追跡調査要。
担当医:深山蓮

深山はカルテを閉じ、事務所の奥室へ向かう。患者のベッドは霧の柔光に照らされ、龍鳳は白いシーツに横たわる。かつての屈強な保安官の体は今、花弁のように散り始め、白い髪が枕に優しく広がる。白い瞳は穏やかに天井を仰ぎ、痛みのない微笑を浮かべる。深山はベッド脇に腰を下ろし、黄緑のマフラーを指で撫でながら観察する。赤ピンクのネクタイが彼の胸に淡い影を落とす。
「龍鳳くん、感じるかな。三笠くんの記憶を」
深山の声は静かだが、患者の反応は詩的だ。龍鳳は囁く。
「先生……骨が、歌うよ。彼の旋律……肌が、落ちる」
皮膚が花弁のように剥がれ、床に散る。中期の骨音が微かに響き、愛のメロディを漏らす。深山は触診し、臓器の変質を記録——記憶の欠片が内臓を染め、水に触れると溶解が始まる。患者の瞳に、三笠の幻が優しく宿る。
「詩に書いて。想いを、外へ」
深山は紙を差し出すが、龍鳳の指は弱く、旋律だけが残る。霧の湿気が体を濡らし、末期の崩壊が加速。痛みなく、身体が水に溶けていく。
霧の深まる夜、龍鳳の体が溶け、心臓だけがクリスタルとして輝いた。白い瞳は消え、結晶に永遠の光が宿る。深山はそれを掌に収め、カルテに「病死」と記す。恋慕性肉体崩壊症は、愛を結晶に変え、肉体を詩に還す。白城の医療事務所に、また一つの旋律が刻まれた。
(終)