夢蛍病の症例報告
白城の医療事務所は、島国の霧が窓を覆う深夜、儚い光の気配に震えていた。恵山は机に座り、白い髪を指で払いながらカルテを広げる。屈強な体躯に白い瞳が穏やかに輝き、ブルーハワイのかき氷を手に持つ——白城の軍医であり、志賀の助手だ。かき氷の青が霧に滲む中、彼は患者の運命を記録する。患者の名は利根——白城の白の上級保安官。三笠への重度片想いが、蛍の命を模した病を呼び込んだ。
恵山はペンを走らせ、カルテに丁寧に記す。手は青い氷で冷たく、瞳に微かな悲しみが宿る。

症例番号:WC-0266 患者名:利根
性別:男性 / 職業:白城の上級保安官
主訴:無痛性傷痕、喉詰まり、昏睡、全身痛、発光、蛍吐出
既往歴:特記事項なし。三笠(同僚)への重度片想いを自認(詳細非開示)。
診断名:夢蛍病(Dreamfirefly Disease)
•原因不明の突発性疾患。蛍の一生を模した進行で、昏睡・発光・死亡に至る。
発症経過:患者は約1ヶ月半前、発症直前に腕・脚に無痛性傷痕出現。直後、喉詰まり感、呼吸・発声困難、昏睡状態へ。第1期:1ヶ月昏睡継続、生命維持装置で安定。第2期:覚醒後、9ヶ月間ほぼ正常に活動。患者自陳「三笠を想うと、胸が光る」との記述あり。第3期:全身痛(VAS 8/10)、喉変形、抑うつ状態。第4期:指先・足先発光、食道閉塞、蛍吐出。死亡3日前から蛍頻出、未治療で衰弱進行。
進行の特徴:蛍の命に似た進行。治療は「思い人」が蛍を飲み込むのみ有効。昏睡5ヶ月超で死亡リスク増。
治療経過:生命維持装置で第1期を管理。三笠不在で蛍飲み込み不可。抑うつ管理に抗鬱薬試行も効果薄。予後不良。
予後:進行性・不可逆。未治療で第4期末に死亡。蛍の光が、命を散らす。
所見:本症は愛の想いが蛍に変わり、命を奪う。白城の霧のように、儚く光り、消える。追跡調査要。
担当医:恵山

恵山はカルテを閉じ、事務所の奥室へ向かう。患者のベッドは霧の淡光に照らされ、利根は白いシーツに横たわる。かつての屈強な保安官の体は今、衰弱し、白い髪が枕に散らばる。白い瞳は虚ろに天井を仰ぎ、指先が微かに光る。恵山はベッド脇に座り、ブルーハワイのかき氷を脇に置き、観察する。
「利根くん、起きて。三笠くんに蛍を……」
恵山の声は優しいが、利根の喉から小さな蛍が光り、ふわりと浮かぶ。利根は囁く。
「先生…三笠くんに…届かない…光が、痛い…」
全身の痛みが彼を縛り、食道の閉塞が命を削る。恵山は脈を測り、蛍の吐出を記録——三笠不在が、治療を阻む。患者の瞳に、蛍の光が揺れる。
「三笠くんに会えば治るってさ、利根くん。それが救いだよ」
恵山は促すが、利根の体は光を放ち、蛍が部屋を満たす。霧の夜、蛍の群れが最後の輝きを残し、利根の息が止まった。白い瞳は閉じ、光が霧に溶ける。恵山はシーツを整え、カルテに「病死」と記す。夢蛍病は、愛を光に変え、命を散らす。白城の医療事務所に、また一つの蛍が刻まれた。
(終)