クロスロード -警視庁捜査一課・千木良藍-

 話が終わるころには、小百合は咽び泣いていた。

 彼女の口から出てきた言葉の数々は、聞いているだけで胸糞が悪くなるようなものばかりだった。村を、村の人間を忌むのも、至極真っ当だ。

 藍は無理に話させてしまったことに多少の罪悪感を抱きながらも、手ごたえを感じていた。これで、小百合の動機の見当はついた。

 そこへ、一人の捜査員が入室してきた。そして、藍に耳打ちをする。

 北鳴門署に監察官が派遣されたこと。そして――。

 藍が頷くと、捜査員は取調室から出て行った。

「麻植さん、」

 いましかない。

 取り乱しているいまなら、必ずボロが出るはずだ。

「村を出てから、後藤田晋也さんには会いましたか?」

「……会うわけないやろっ。そもそも、うちが村を出る前にあの人は失踪しとったんやから」

「そうですよね。それは、何年前のことでしたっけ」

「いちいち聞かんで……」

「……十四年前で、合っていますか?」

 小百合は答えようとしない。

 それを肯定と取った藍は、さらに言葉を続ける。

「だとしたら、昨日のあなたの反応はおかしいですね」

「反応……?」

「思い出してください。わたしがあなたに、後藤田晋也の顔写真を見せたときです」

 あのとき、小百合は顔色一つ変えずに答えたのだ。

 後藤田晋也。実和子の父だと。

「あの顔写真は、少なくとも失踪から十二年のときを経て撮られたものです。当時より、かなり老けてたと思うんですけど」

「それが、何?」

「相手は、あなたに乱暴を働いた男です。その男が失踪して長らく消息がわかってなかったのに、最後に見た姿よりも老けた状態で写真に写っていたら、普通は恐怖に感じ動揺を隠せないのでは?」

 小百合が、桃色の唇を噛み締める。

「麻植さん、まだわたしたちに話してないことがあるでしょ」

「……もしあるとしたら、それは何やと思う?」

 真っすぐな瞳でそう問い掛けてくる小百合を、藍は見つめ返す。

 その質問には答えずに「ところで」と話を転換させた。

「あなたは、後藤田晋也が今回の事件の犯人だと思いますか?」

「そんなこと、なんでうちに聞くんよ」

「現実的にありえるかどうか、後藤田親子と同じ村で育ったあなたの目線から、話を聞きたいんです」

「……他人の家の事情なんて、知らんよ」

 苛立っているのか、小百合は投げやりにそう答えた。

「あんなに小さな村なんです。知らないことはないでしょう?」

「ほんまに知らんって。ただ、あの体じゃ無理やろ」

「……あの体、というのは?」

「あの人、足悪いやろ。そんな中で、大人二人殺せるわけがない」

 小百合の返答に、藍は前のめりになっていた体を椅子の背もたれに預けた。

 その反応を見て、小百合もどうやら自分の間違い(・・・)に気づいたようだ。

「なんで知ってるんですか? 後藤田晋也は足が悪いということを」

「それは……っ!」

 反論しようとするも、小百合は返す言葉が見当たらなかったようで、そっと唇を結んだ。

「後藤田晋也の失踪後、一度も彼に会ってないあなたが知るはずない」

 もう一度、藍はテーブルに身を乗り出した。

「彼の足の怪我は、失踪当夜――十四年前に負ったものだからです」

 藍の口の端が、くいっと持ち上げられた。

 すべてのピースが気持ちのいい音を立てながら、はまっていく。

 歪だったパズルは、藍の頭の中で一枚の大きな絵となった。

 その絵は虚無でありながらも、どこか温かさを感じる、複雑なものだった。

「ねえ、麻植さん」

 なぜ、こんな事件が起きてしまったのか。

 すべての答えは、彼女が持っているはずだ。

「あなた、後藤田晋也に会いましたよね?」