だが、残った黒衣騎兵はさすが精鋭中の精鋭だ。

 数が減って空きができた広場を縦横無尽に駆け回る。

 しかも、人馬一体となって疾風幽影(シャドウストライド)で突進をかましてくる。

 右にいたかと思えば左、目前に迫ったかと思えば消えている。

 キージェはその動きを見切って対応しているが、クローレはつられて右往左往するばかりだ。

 クレアの矢も的を外し始めた。

 一騎がクローレに迫る。

 フレイムクロウを構え、正面から受けようとしている。

 宿に目をやると、クレアが矢をつがえている。

 ――だめだ。

 キージェは手のひらを向けて腕を伸ばし、クレアを制すると、クローレの背中を押した。

「伏せろ!」

「ちょ、え!?」

「幻影だ」

 突進してきた黒衣騎兵は正面衝突するかと思えば、クローレを素通りしていく。

「え、嘘!?」

「本物はこっちだ」

 キージェはストームブレイドを背後に突き出し、クローレを軸にして旋回し嵐を巻き起こす。

「うぐぁっ!」

 背後に回った敵の背後を捕らえ、一気に剣を振り上げた。

 油断を誘う思惑を見切られ、驚愕の表情を浮かべた敵兵が太ももから血を噴いて落馬する。

 瞬時に白い矢となったミュリアが飛びかかり、息の根を止める。

 キージェはクローレを片手で抱き寄せた。

「俺から離れるなよ」

 女が荒い息と共にうなずく。

「しぶといやつらめ」と、オスハルトは残りの二騎をまとめ隊列を組み直すと、二人を囲んで馬を駆る。

 キージェは目で敵を追いながら笑みを浮かべた。

「俺たちには続きがあるんだ。邪魔すんじゃねえよ」

 コクコクとうなずくクローレがキージェに強く絡みつく。

 ――今じゃねえって。

 だが、終わりの時が近づいていた。

 オスハルトは包囲の輪をいったん広げ、左右に馬を操りながら波状攻撃を仕掛けつつ、再び三騎並んで二人と正対した。

 キージェは敵をにらみつけたままかたわらのクローレに耳打ちした。

「二人でやるぞ」

「これで終わらせる!」

 クローレはフレイムクロウを垂直に構え炎をまとわせた。

 血と藁の燃えかすの臭いが炎を揺るがせ、広場が一瞬静まりかえった。

 オスハルトの左右から二騎が突進。

 炎気(フレイムハート)障壁(イージス)を展開したクローレに、敵は怯まず突っ込んでくる。

 キージェが渾身の嵐撃絶刃(ブリッツセーバー)を繰り出すと、クローレの火焔を巻き込んだ渦が敵を飲み込み、炎上させる。

 だがそれは罠だった。

「甘いぞ、女!」

 フレイムクロウを振り抜いていたクローレは無防備な体勢をさらしていた。

 その隙を狙っていたオスハルトが剣を振り下ろす。

「死ね!」

 だが、その剣は空を切った。

「甘いのはおまえだ!」

 そこにいたのはクローレではなかった。

 女を背後にかばったキージェが哀れみの目でかつての盟友と視線を交えたその瞬間、ストームブレイドが一閃、旋回し、血しぶきと共に剣をつかんだままの腕が宙を舞う。

「グアッ!」

 片腕を失ったオスハルトは体勢を崩して落馬した。