だが、助太刀したくてもヴェルザードが間にいて手は出せない。

「師匠、私は大丈夫」

 背中を押さえながらクローレが体を起こすも、ガルドの戦斧に翻弄され、地面を転げ回るばかりだ。

 そこへリリスが回り込み、短剣を振りかざす。

「あんたのその体、切り刻んであげるわ!」

 キージェが叫ぶ。

「クローレ、マント!」

 即座に反応したクローレが腕を広げ、脚を軸に回転しマントをはらませると、リリスの短剣がはじけ飛ぶ。

「師匠、さっそく役に立った!」

「いいぞ!」

 二人の連携に苛立ったヴェルザードが杖を振り、黒い魔力の刃が弧を描いてキージェに襲いかかる。

 小柄なリリスは木々を蹴りながら高速で駆け抜け、咆哮を上げたガルドが戦斧を水平に振り回す。

 三方向からの攻撃が一気に殺到した。

 ――舐めやがって!

 キージェのストームブレイドが一閃し、剣圧が木々の葉を散らし、黒い魔力の刃を粉砕、嵐撃絶刃(ブリッツセーバー)が決まったかに思われた。

 だが、ヴェルザードは卑劣に笑い、杖を地面に突き立てる。

「同じ手にかかるかよ! くらえ、闇の茨!」

 地面から黒い茨の鎖が突き上がり、キージェの足を絡め取る。

 ――チッ!

 狙ってやがったか。

 キージェが動けなくなった隙に、両手に短剣を握ったリリスがクローレに飛びかかる。

「死になさい!」

「私だって、やられっぱなしじゃないからね!」

 クローレはマントをはらませながらフレイムクロウで対抗し、炎弧旋回(ジャイロブレイズ)を繰り出す。

 炎の軌跡がリリスを弾き飛ばし、短剣が木の幹に突き刺さった。

「生意気ね」と、リリスは短剣を抜くと茨に足を取られて動けないキージェに狙いを変えた。

「師匠!」

「俺のことは構うな」

 と、言ったそばからガルドも戦斧を振り上げ、キージェに襲いかかる。

 ――くそっ!

 かろうじてキージェは魔力の茨を剣圧で切り裂き、戦斧をストームブレイドで受け止めた。

 火花が飛散し、金属がぶつかり合う甲高い音が森を貫く。

 猛獣並みのガルドの力と体重に押され、キージェの腕が一瞬しびれたところを、ヴェルザードが腕を振るって茨を波打たせ、地面にたたきつける。

 キージェの体は縫いつけられてしまった。

「もらった!」と、リリスが両手から短剣を放つ。

 頬をかすめ、痛みが走る。

「キージェになんてことするのよ!」

「かすり傷だ」

 駆けつけようとするクローレを手で制するが遅かった。

 ガルドがクローレの背後から乱暴に銀髪をつかみ、醜悪な笑みを浮かべる。

「雪狼のついでにこいつの銀髪も売り飛ばしてやるか」

「カツラにはいいかもね」と、リリスも細い目で蔑む。

「痛いじゃないのよ!」

 クローレは顔をゆがめ、フレイムクロウを振り回すが、銀髪が自縄自縛の鎖となって身動きが取れない。

「てめえら、離しやがれ」と、キージェは叫んだ。

「ほらほら、おっさん、おとなしく見てろって」

 ガルドの挑発にリリスも乗る。

「本当はそそられてるんじゃないの」

 ――だったら、どうだってんだよ!

 否定はできねえが、許せねえ。

「させるかっ」

 しかし、ようやく茨を寸断して抜け出し、ストームブレイドを構えたものの、大事な銀髪に短剣を突きつけられていてはキージェも手が出せない。