白城の訓練所は、島国の厳しい海風が吹き抜ける広大な敷地に広がっていた。霧のような朝靄が残る中、コンクリートの訓練場にキース＝ハウエルは立っていた。ジェイドの中立国から派遣された第1王子として、彼はここで白城の保安官たちに鍛えられることになっていた。白いトレーニングウェアに身を包み、静かに息を整えるキースの表情は、いつものように穏やかで優しかったが、その瞳の奥には微かな距離感が宿っていた。
「おはよう、キースくん！ 今日も張り切っていこう！」
明るい声が響き、朝日が駆け寄ってきた。白城の白の上級保安官――白い髪が朝日を浴びて輝き、白色の瞳が無邪気に笑う屈強な白人男性だ。やんちゃな笑顔を浮かべ、彼はキースの肩を軽く叩いた。朝日はいつもこうだ。甘えん坊で寂しがり屋の面が、こんな朝からムードメーカーとして爆発する。
「朝日さん、早いですね。昨夜の訓練の疲れは取れましたか？」
キースは柔らかく微笑み、控えめに尋ねた。温厚な物腰は周囲を和ませるが、心のどこかで一線を引いているのが朝日にはわかっていた。
「疲れ？ そんなの吹き飛ばすよ！ ほら、まずは基本の剣術から。君のフォーム、昨日も少し甘かったかな？ 僕が直してやるよ！」
朝日は木剣を一本差し出し、キースを訓練場の中央へ導いた。白城の伝統的な剣術は、島の荒波のように流れるような動きが命。朝日は自ら模範を示し、素早い斬撃を繰り出す。屈強な体躯がしなやかに動き、白い髪が風を切る。
キースは木剣を構え、朝日の指導に従った。優しい性格ゆえに、彼は素直に動きを真似るが、時折その瞳に影が差す。根暗な部分が顔を覗かせ、自己評価の低さが「本当に自分はこれでいいのか」と囁くのだ。朝日の剣がキースの肩をかすめ、軽い衝撃が走る。
「くっ……」
キースの息がわずかに乱れた。痛みより、コントロールの効かない内なる「野獣」の気配を感じたからだ。普段の温厚さが、ピンチの瞬間に荒々しい本能を呼び覚ます――それが彼の二重性だった。
「よし、そこ！ もっと力を抜いて、キースくん。君は優しいけど、時にはその『冷酷さ』を味方につけろ。僕みたいに、寂しい時は甘えちゃおう！」
朝日は笑いながらキースを抱き寄せ、頭を軽く撫でた。天真爛漫な仕草に、キースの頰がわずかに赤らむ。クールな王子が、こんな甘えを受け入れるのは珍しい。
訓練は続き、朝日の明るさがキースの葛藤を少しずつ溶かしていく。白城の海風が、二人の絆を優しく運んでいった。