白銀荘の一角にある小さな居酒屋「雪月」。暖簾をくぐると、温かい光と酒の香りが迎えてくれる。カウンターには常連客が数人、静かに酒を楽しんでいた。
「おつかれさまでした」
カラ松が店に入ると、既にカウンターの奥にサキマの姿があった。普段の制服ではなく、白いシャツにジーンズという私服姿だ。
「お疲れ様」
サキマがビールジョッキを持ち上げて軽く会釈する。
「今日の訓練はきつかった?」
「フッ、あの程度でオレが音を上げると思うかい?」
カラ松は隣の席に腰を掛けながら、いつものナルシスト口調で答えた。しかし、内心では今日の射撃訓練で全く的に当たらなかった自分に落ち込んでいた。
「マスター、ウイスキーを」
「麦茶でいいんじゃないかな?」
サキマが苦笑いする。
「…バレてたか」
カラ松の肩が小さく落ちた。
「じゃあ、麦茶で」
マスターが麦茶を持ってくると、カラ松は恥ずかしそうにそれを受け取った。
「唐揚げも頼む。カラ松だけに、唐揚げが好きなんだ」
「…(駄洒落…正直、つまらないかな? 言わないでおこ。頑張ってるからさ……)」
サキマは黙って自分のビールを飲んだ。
しばらく沈黙が続いた後、カラ松が口を開いた。
「サキマ教官は、昔から警官だったんですか?」
「いや、実は違う」
サキマの白い瞳が遠くを見つめる。
「昔は、君と同じような若者だった」
「え?」
「信じられないかもしれないけど、僕も昔はカッコつけたくて仕方がない青年だった。金のアクセサリーとか着けまくって、バイクに乗って、自分が世界で一番クールだと思っていた」
カラ松は麦茶を飲みかけて、むせた。
「サキマ教官が? あの厳しいサキマ教官が?」
「そう。でも、ある日、事件に巻き込まれた。金血呪詛病(ホモtheゲイ)に襲われた老人を見て見ぬふりをして、その場から逃げてしまったんだ……(金血呪詛病って、誤って金血を摂取してしまった銀血の白者が、ごく稀に成る病のことで……完治方法は未だに無く、死んだ方が良いとされてる)」
サキマの表情が暗くなった。
「その老人は怪我をした。僕が助けていれば、もっと軽い怪我で済んだかもしれない……(正直、助けるのは無理。触れないと分かってるけど、本当に見過ごせなかった……) その時、気づいたんだ。本当のカッコよさって、見た目じゃない。人のために行動できることなんだって」
「それで警官に?」
「そうだね。最初は罪悪感からだった。でも、訓練を重ねていくうちに、人を守るという仕事にやりがいを感じるようになった」
唐揚げが運ばれてきた。カラ松は一つつまんで口に運ぶ。
「サキマ教官…実は俺、今日の射撃訓練、全然ダメだったんです」
「知ってる」
「えっ?」
「君の悔しそうな表情を見ていた。でも、それでいいんだ」
「どういうことですか?」
「完璧な人間なんていない。大切なのは、失敗を恐れずに挑戦し続けることだ。君は今日、50回の腕立て伏せを完走した。それは、昨日の君にはできなかったことじゃないかな?」
カラ松は頷いた。
「少しずつでいい。毎日成長していけば、必ず目標に辿り着ける」
「サキマ教官…ありがとうございます」
「それと、もう一つ」
サキマが振り返る。
「君のそのナルシストな部分も、完全に捨てる必要はない」
「えっ?」
「自分を愛することができない人間は、他人を愛することもできない。君のその自信は、時として人を勇気づける力になる。ただし、それが空回りしないように、実力を身につけることが大切だ」
カラ松の胸に、温かいものが広がった。今まで、兄弟たちからは「イタい」と言われ続けてきた自分の性格を、初めて肯定してくれる人に出会えた気がした。
「俺、頑張ります。絶対に立派な警官になって見せます」
「楽しみにしている」
夜が更けていく中、二人は静かに酒を酌み交わした。カラ松にとって、それは新たな人生の始まりを感じさせる、特別な夜だった。
外では月が白銀の光を投げかけ、二人の未来を静かに見守っていた。
「おつかれさまでした」
カラ松が店に入ると、既にカウンターの奥にサキマの姿があった。普段の制服ではなく、白いシャツにジーンズという私服姿だ。
「お疲れ様」
サキマがビールジョッキを持ち上げて軽く会釈する。
「今日の訓練はきつかった?」
「フッ、あの程度でオレが音を上げると思うかい?」
カラ松は隣の席に腰を掛けながら、いつものナルシスト口調で答えた。しかし、内心では今日の射撃訓練で全く的に当たらなかった自分に落ち込んでいた。
「マスター、ウイスキーを」
「麦茶でいいんじゃないかな?」
サキマが苦笑いする。
「…バレてたか」
カラ松の肩が小さく落ちた。
「じゃあ、麦茶で」
マスターが麦茶を持ってくると、カラ松は恥ずかしそうにそれを受け取った。
「唐揚げも頼む。カラ松だけに、唐揚げが好きなんだ」
「…(駄洒落…正直、つまらないかな? 言わないでおこ。頑張ってるからさ……)」
サキマは黙って自分のビールを飲んだ。
しばらく沈黙が続いた後、カラ松が口を開いた。
「サキマ教官は、昔から警官だったんですか?」
「いや、実は違う」
サキマの白い瞳が遠くを見つめる。
「昔は、君と同じような若者だった」
「え?」
「信じられないかもしれないけど、僕も昔はカッコつけたくて仕方がない青年だった。金のアクセサリーとか着けまくって、バイクに乗って、自分が世界で一番クールだと思っていた」
カラ松は麦茶を飲みかけて、むせた。
「サキマ教官が? あの厳しいサキマ教官が?」
「そう。でも、ある日、事件に巻き込まれた。金血呪詛病(ホモtheゲイ)に襲われた老人を見て見ぬふりをして、その場から逃げてしまったんだ……(金血呪詛病って、誤って金血を摂取してしまった銀血の白者が、ごく稀に成る病のことで……完治方法は未だに無く、死んだ方が良いとされてる)」
サキマの表情が暗くなった。
「その老人は怪我をした。僕が助けていれば、もっと軽い怪我で済んだかもしれない……(正直、助けるのは無理。触れないと分かってるけど、本当に見過ごせなかった……) その時、気づいたんだ。本当のカッコよさって、見た目じゃない。人のために行動できることなんだって」
「それで警官に?」
「そうだね。最初は罪悪感からだった。でも、訓練を重ねていくうちに、人を守るという仕事にやりがいを感じるようになった」
唐揚げが運ばれてきた。カラ松は一つつまんで口に運ぶ。
「サキマ教官…実は俺、今日の射撃訓練、全然ダメだったんです」
「知ってる」
「えっ?」
「君の悔しそうな表情を見ていた。でも、それでいいんだ」
「どういうことですか?」
「完璧な人間なんていない。大切なのは、失敗を恐れずに挑戦し続けることだ。君は今日、50回の腕立て伏せを完走した。それは、昨日の君にはできなかったことじゃないかな?」
カラ松は頷いた。
「少しずつでいい。毎日成長していけば、必ず目標に辿り着ける」
「サキマ教官…ありがとうございます」
「それと、もう一つ」
サキマが振り返る。
「君のそのナルシストな部分も、完全に捨てる必要はない」
「えっ?」
「自分を愛することができない人間は、他人を愛することもできない。君のその自信は、時として人を勇気づける力になる。ただし、それが空回りしないように、実力を身につけることが大切だ」
カラ松の胸に、温かいものが広がった。今まで、兄弟たちからは「イタい」と言われ続けてきた自分の性格を、初めて肯定してくれる人に出会えた気がした。
「俺、頑張ります。絶対に立派な警官になって見せます」
「楽しみにしている」
夜が更けていく中、二人は静かに酒を酌み交わした。カラ松にとって、それは新たな人生の始まりを感じさせる、特別な夜だった。
外では月が白銀の光を投げかけ、二人の未来を静かに見守っていた。



