パーティーはお開きになり、宝城一史、珀、琴葉、そして彰人と隼人の5人は浅桜家の使用人にホテルの会議室へと案内された。ここから、国家の最重要機密事項について話し合う会合が行われる。隼人が盗聴防止の結界を張る。
会議室はシックな趣深い雰囲気で、琴葉は緊張していた。こんな重要な会議に参加するのは初めてだ。でも、貴族としての役割を果たさなければならない。深呼吸をして心を落ち着け、背筋を正す。
パーティーの主催である浅桜茂彦と美麗は少し経ってから、それぞれの秘書を連れて部屋に入ってきた。宝城側一同、優雅に立ち上がり、丁寧に礼をする。貴族としての基本だ。
「こちらが会合を申し入れたのに、遅れてすまんね」
「いえ、主催側はお忙しいでしょうから」
珀が仕事モードに入っている。いつもとのギャップに、琴葉は思わずときめいてしまう。だが、集中を欠いてはダメだとすぐに気を引き締めた。
「早速だが、本題に入りたい。——昨今のヒエラルキー批判について、下院での月城家当主の演説以来、平民の間で貴族政を批判する動きが高まっておる。いくつか活発なグループはあるが、特に目に見えて支持を得ているのは——」
「革命の会」
「そう、革命の会じゃ。そして我々浅桜家は、革命の会は月城家の後ろ盾により、急速に力を伸ばしていると考えておる。じゃが、その証拠は手に入っておらん……そこで、宝城家に声をかけさせてもろうた。単刀直入に言おう、手を組まぬか」
宝城と浅桜は別に敵対関係ではない。ただ、浅桜としてはできれば勢力を伸ばして宝城よりも上に立ちたいと思っているくらいだろう。だが、状況が状況だ。ここで言う「手を組む」とは、山梨の大戦含め、これまでに集めた情報をお互いにすべて開示し合い、対月城の体制を整えようということ。生半可な覚悟で応じていい話ではない。
情報を漏らすということは、大きなリスクを伴う。もし浅桜家が手のひらを返して月城側についたら?神楽家同様、貴族を裏切ったら?
もちろん、対貴族の姿勢をあらわにしている月城と貴族がつながるのは容易ではない。可能性としては低いが……とはいえ、ゼロではないのだ。何らかの取り引きをしていることだってあり得る。
浅桜は宝城がそう疑うのを承知で、最初に一つ考えを明かした。「革命の会を月城が操っているのではないか」というものだ。これによって、月城に対して分析を行っていること、貴族を救おうと考えていることを同時に示すことができる。
一史はゆっくりと息を吐いて、話し始めた。
「茂彦様のお考えはわかりました。しかし、いささか我々にとってリスクが大きいように感じられます。浅桜家が月城家と裏でつながっていない証拠はない……」
「僭越ながら……宝城家当主様。それはこちらも同じでございます。そのリスクを承知の上でのご提案です。これ以上、貴族政批判の動きが強まれば、私たちのこれまでのやり方は通じなくなっていくでしょう。それを阻止するためにも、早急に手を組まなければならないと考えます」
美麗が立場をわきまえながらも、芯のある声で発言する。珀への愛と芸術への熱が異常なだけで、この浅桜美麗という女は元来、その名の通り美しく麗しい、気高き貴族令嬢なのである。
一史が目を瞑る。しばしの沈黙に、会議室の緊張感が高まる。
「乗らせていただきましょう。茂彦様には、山梨の大戦以後の上院会議で救われていますしね」
「うむ。では、浅桜で集めた情報をそちらに渡そう」
秘書を介して、データのやり取りがなされる。それから、お互いがどこまで月城のしっぽを掴んでいるか確認し合ったが、どちらも確たる証拠を上げられていないことがわかった。
「宝城家の力をもってしても、やはり月城の情報は掴めぬか……。しかし、そちらの楽師どのが月城の手に落ちているとは、心が痛い。先天の能力以外の力も付与されていたのだろう?非人道的な所業の極み……」
「ええ。許されざることです。それに、死者の能力の再現など、冒涜でしかありません」
「神楽佑の音を仮想質量に変換する能力か……。強大な力じゃが、それを再現できたということは、我々の予想もつかないような技術を持っているのではなかろうか」
情報のすり合わせと協力体制の確認で、話し合いはどんどん進んでいく。琴葉は必死で頭を回しながら、なんとか話についていった。何かを提案する余力はなかったが。
「囚われの身となっている音夜様について、ひとつご意見があるのですが、よろしいでしょうか」
美麗が発言した。茂彦は黙り、一史や珀も発言を促す。
「音夜様が二重スパイであれば、の話です。私の能力を使えば、音夜様の元へ折り紙を飛ばし、連絡を取り合えるかもしれません」
美麗の能力は、自らの血を混ぜた絵の具で絵を描くことで、それを現実にする、というものだ。美麗自身の感覚に頼ったなんとも不可思議な能力で、彼女ができると思ったことは大抵実現可能。
美麗の説明によれば、作戦の内容はこうである。まず、音夜の所有物に美麗が絵を描いてメッセージを含ませ、折り鶴にする。それを所有者のもとへと届ける絵を別のキャンバスに描き、鶴を飛ばす。音夜が二重スパイでこちらのメッセージを読み取り、開いた紙に情報を記して送り出せば、こちらに戻ってきて情報交換ができるのではないか、というのだ。
「美麗さん。……それは、本当に可能なのかい?能力的な観点で、なんというか常識からかけ離れているような気がするんだけど……」
一史が驚いて美麗に問う。
「月城の技術レベルによるかと。例えば、音夜様が能力の干渉を一切受けない場所に閉じ込められているのであれば、折り鶴は届かず、その場に落ちてしまいます。ですが、たとえそこで他の月城の者に拾われても、何も見えないように処置を施すことは可能です。その紙の所有者が触れることで内容を見られるようにしておけば、こちらの意図が月城に漏れることはないでしょう。怪しまれても、何も書かれていないただの折り鶴でしかないのですから」
「改めて聞くと、本当にとんでもない能力だ……そうか。それなら、音夜くんと連絡が取れるね。まあ、もう少し詰めなければなさそうだけど。とにかく、先に進めそうでよかった。ありがとう、美麗さん」
さらに今後の動向を予想しつつ作戦を練り、琴葉たちが会議室を後にしたのは、夜が更けてからしばらく経った頃だった。貴族界に、いや日本に立ち込める暗雲に、みな不安を抱えつつ、それぞれが必死に考えをめぐらせていた。
会議室はシックな趣深い雰囲気で、琴葉は緊張していた。こんな重要な会議に参加するのは初めてだ。でも、貴族としての役割を果たさなければならない。深呼吸をして心を落ち着け、背筋を正す。
パーティーの主催である浅桜茂彦と美麗は少し経ってから、それぞれの秘書を連れて部屋に入ってきた。宝城側一同、優雅に立ち上がり、丁寧に礼をする。貴族としての基本だ。
「こちらが会合を申し入れたのに、遅れてすまんね」
「いえ、主催側はお忙しいでしょうから」
珀が仕事モードに入っている。いつもとのギャップに、琴葉は思わずときめいてしまう。だが、集中を欠いてはダメだとすぐに気を引き締めた。
「早速だが、本題に入りたい。——昨今のヒエラルキー批判について、下院での月城家当主の演説以来、平民の間で貴族政を批判する動きが高まっておる。いくつか活発なグループはあるが、特に目に見えて支持を得ているのは——」
「革命の会」
「そう、革命の会じゃ。そして我々浅桜家は、革命の会は月城家の後ろ盾により、急速に力を伸ばしていると考えておる。じゃが、その証拠は手に入っておらん……そこで、宝城家に声をかけさせてもろうた。単刀直入に言おう、手を組まぬか」
宝城と浅桜は別に敵対関係ではない。ただ、浅桜としてはできれば勢力を伸ばして宝城よりも上に立ちたいと思っているくらいだろう。だが、状況が状況だ。ここで言う「手を組む」とは、山梨の大戦含め、これまでに集めた情報をお互いにすべて開示し合い、対月城の体制を整えようということ。生半可な覚悟で応じていい話ではない。
情報を漏らすということは、大きなリスクを伴う。もし浅桜家が手のひらを返して月城側についたら?神楽家同様、貴族を裏切ったら?
もちろん、対貴族の姿勢をあらわにしている月城と貴族がつながるのは容易ではない。可能性としては低いが……とはいえ、ゼロではないのだ。何らかの取り引きをしていることだってあり得る。
浅桜は宝城がそう疑うのを承知で、最初に一つ考えを明かした。「革命の会を月城が操っているのではないか」というものだ。これによって、月城に対して分析を行っていること、貴族を救おうと考えていることを同時に示すことができる。
一史はゆっくりと息を吐いて、話し始めた。
「茂彦様のお考えはわかりました。しかし、いささか我々にとってリスクが大きいように感じられます。浅桜家が月城家と裏でつながっていない証拠はない……」
「僭越ながら……宝城家当主様。それはこちらも同じでございます。そのリスクを承知の上でのご提案です。これ以上、貴族政批判の動きが強まれば、私たちのこれまでのやり方は通じなくなっていくでしょう。それを阻止するためにも、早急に手を組まなければならないと考えます」
美麗が立場をわきまえながらも、芯のある声で発言する。珀への愛と芸術への熱が異常なだけで、この浅桜美麗という女は元来、その名の通り美しく麗しい、気高き貴族令嬢なのである。
一史が目を瞑る。しばしの沈黙に、会議室の緊張感が高まる。
「乗らせていただきましょう。茂彦様には、山梨の大戦以後の上院会議で救われていますしね」
「うむ。では、浅桜で集めた情報をそちらに渡そう」
秘書を介して、データのやり取りがなされる。それから、お互いがどこまで月城のしっぽを掴んでいるか確認し合ったが、どちらも確たる証拠を上げられていないことがわかった。
「宝城家の力をもってしても、やはり月城の情報は掴めぬか……。しかし、そちらの楽師どのが月城の手に落ちているとは、心が痛い。先天の能力以外の力も付与されていたのだろう?非人道的な所業の極み……」
「ええ。許されざることです。それに、死者の能力の再現など、冒涜でしかありません」
「神楽佑の音を仮想質量に変換する能力か……。強大な力じゃが、それを再現できたということは、我々の予想もつかないような技術を持っているのではなかろうか」
情報のすり合わせと協力体制の確認で、話し合いはどんどん進んでいく。琴葉は必死で頭を回しながら、なんとか話についていった。何かを提案する余力はなかったが。
「囚われの身となっている音夜様について、ひとつご意見があるのですが、よろしいでしょうか」
美麗が発言した。茂彦は黙り、一史や珀も発言を促す。
「音夜様が二重スパイであれば、の話です。私の能力を使えば、音夜様の元へ折り紙を飛ばし、連絡を取り合えるかもしれません」
美麗の能力は、自らの血を混ぜた絵の具で絵を描くことで、それを現実にする、というものだ。美麗自身の感覚に頼ったなんとも不可思議な能力で、彼女ができると思ったことは大抵実現可能。
美麗の説明によれば、作戦の内容はこうである。まず、音夜の所有物に美麗が絵を描いてメッセージを含ませ、折り鶴にする。それを所有者のもとへと届ける絵を別のキャンバスに描き、鶴を飛ばす。音夜が二重スパイでこちらのメッセージを読み取り、開いた紙に情報を記して送り出せば、こちらに戻ってきて情報交換ができるのではないか、というのだ。
「美麗さん。……それは、本当に可能なのかい?能力的な観点で、なんというか常識からかけ離れているような気がするんだけど……」
一史が驚いて美麗に問う。
「月城の技術レベルによるかと。例えば、音夜様が能力の干渉を一切受けない場所に閉じ込められているのであれば、折り鶴は届かず、その場に落ちてしまいます。ですが、たとえそこで他の月城の者に拾われても、何も見えないように処置を施すことは可能です。その紙の所有者が触れることで内容を見られるようにしておけば、こちらの意図が月城に漏れることはないでしょう。怪しまれても、何も書かれていないただの折り鶴でしかないのですから」
「改めて聞くと、本当にとんでもない能力だ……そうか。それなら、音夜くんと連絡が取れるね。まあ、もう少し詰めなければなさそうだけど。とにかく、先に進めそうでよかった。ありがとう、美麗さん」
さらに今後の動向を予想しつつ作戦を練り、琴葉たちが会議室を後にしたのは、夜が更けてからしばらく経った頃だった。貴族界に、いや日本に立ち込める暗雲に、みな不安を抱えつつ、それぞれが必死に考えをめぐらせていた。



