学園の授業や学徒動員の実地演習、そして宝城家での日々の特訓により、琴葉は歌わずとも集中して祈ることで神楽の力を発動させることができるようになっていた。戦闘に参加する場合は、魔形発生地点の中心に立って浄化を行うのが最も効果があるとされているが、その場所で歌って舞うのは危険すぎる。そのため、別の方法を模索していたのだ。
また、琴葉の神楽の力は少し例外的なところがあり、宝城本家の祭壇を使うことによって最大威力の力を発揮することができると伝承には書かれているが、琴葉としてはそれでは現地に自ら赴くことができないため、その条件も取り払おうとしていた。
すなわち、目下琴葉が取り組んでいる課題は、「神楽の力の解釈を広げること」である。貴族としての役割を果たすため、戦闘に参加しつつ、最大威力の能力を発揮できるような新しい形を模索している、ということだ。
数ヶ月の間、さまざまな訓練、実験を繰り返してきた。強い魔形の危険な討伐に同行させてくれと珀に直談判し、反対を押し切って実験した。危険な魔形が出ているということは、その辺りの空気の淀みがひどいということ。それくらい淀んでいないことには、能力の発動範囲も測定ができないため、練習のためにはどうしても危険な討伐に参加しなければならないのだ。もちろん、珀と隼人が琴葉を護衛しながら、が絶対条件だったが。
だが、何度やってもどうしても半径5kmほどを一気に浄化するほどの威力を、祭壇を使わずに発動するのは難しく、せいぜい半径3km止まりだった。
今日は2つの討伐に連続で参加し、最大威力を引き出す練習をする予定になっている。琴葉は以前と比べて体力がついてきたため、繰り返し発動させることはできるようになってきているのだ。
「珀様。今日は護衛を増やしています。今日は珀様に、護衛として私を守っていただくのではなく、能力者としてアドバイスをしていただきたいのです」
「危険な魔形だが、大丈夫なのか……?」
琴葉が強くなるために考えて提案したことに対し、珀は渋る。それだけ危険な任務だから。
「ですが、浄化を行うのは、メインの魔形を攻撃チームが弱らせた後です。それに、危険であることは承知していますが、珀様と同等レベルの能力者と世間では騒がれているのです。守られてばかりの能力者など、貴族としてふさわしくありません」
毅然と反論する琴葉。珀は困った顔でため息をつく。
「……仕方ない。だが、危険と判断した場合にはすぐに止めるからな。——それにしても、お前、結構言うようになったよな」
「ええ。琴葉様は最近珀様にしっかりとご意見なさっていて素晴らしいです」
「隼人、お前はどこを褒めてるんだ」
「珀様に意見できる方など他にいらっしゃらないのですよ。貴重な人材ではありませんか!」
「一旦だまれ」
いつも通りの掛け合いに、琴葉は苦笑い。それから、少し表情が曇る。
「お嫌でしたら、おっしゃってくださいませ……」
「嫌なはずないだろう!むしろいい傾向だと思う。自分を形成する価値観が出来上がってきた証拠だからな。ただ……」
「ただ……?」
「お前に危険な目に遭って欲しくないだけだ。許せ」
珀は琴葉の手を握って困ったように笑う。琴葉は数秒フリーズして、少しふくれる。
「もう!珀様は過保護すぎます」
早速、1つ目の討伐地点へと向かう。移動手段はもちろん、珀の能力による転移だ。琴葉も最初の頃は毎回転移の感覚と便利さに驚いていたが、最近では慣れてきてしまった。いや、慣れてはいけないのだ。珀のレベルが当たり前になってはいけない。珀は1000年に1人と言われている逸材なのだから。
明らかに空気が淀んでいる。その中心を探し、転移先からさらに陣形を組んで移動する。すると、イノシシのような魔形が数匹、突進してきた。
「来たぞ!構えろ」
攻撃チームがそれぞれの能力を発動し、魔形を無力化する。中には一撃で魔形を薙ぎ倒した能力者もいて、琴葉はそれを少し離れた場所から見ていて驚いたのだった。隼人は後進育成のためか、少し手を抜いているようだ。
攻撃チームからの合図を受け取り、琴葉は防御の能力者に囲まれて中心へと躍り出る。守ってくれる周囲の人間を信じ、目を閉じて両手を組み、祈る。
——神様よ、大いなる意志よ、どうかこの地に平穏を。魔形を倒し、淀みを消し去る力を我が手に。
琴葉の体から淡い光がこぼれ出し、天に向かってふわふわと浮かび上がっていく。珀はその様子を遠くから観察していた。能力者、先輩としての視点で。
光の玉は徐々に数を増やし、周囲に広がっていく。それが行き止まったら、神楽の力による浄化は終了だ。ゆったりと広がる光は、かなり遠くまで進んだようだったが、ある程度広がったところで消えて行った。その瞬間、琴葉の膝がガクリと折れ、同時に魔形が塵となって消える。
汗をかき、息を切らしている琴葉に駆け寄り、水分補給をさせる。夏の暑い日に体力を使う討伐を行うのは、熱中症の危険もあるのだ。
「大丈夫か?」
「ええ。すぐに回復します」
琴葉は微笑んでそう答える。討伐による疲労にも慣れてきたようだ。討伐の配信からデータを集めていた隼人の部下から連絡が来て、効果範囲は半径3kmと少しだと分かった。
「何がダメなのでしょう。祭壇で舞う時と同じ感覚に寄せるように意識しているのですが……」
すると、浄化を観察していた珀が少し考えてから話し出した。
「これは一つの可能性でしかないが……祭壇で舞う時と寄せているから、最大威力にならないんじゃないか?」
「どういうことでしょうか……?」
「うまく説明しづらいが、なんというか、さっき見た浄化は少し型にはまっているような気がした。祭壇で舞う神楽が琴葉にとって理想形として認識されているんじゃないか?」
「え、ええ。それが最大威力の条件だと伝承にも書いてありましたし……」
琴葉は困惑する。祭壇は最大威力を発揮するためのものであり、神楽の力の重要なピースのはずだ。だから、討伐地点にいる時もその条件にできるだけ近づけるべきではないのか。
「これは俺の経験談なんだが、伝承は参考程度にした方がいい。最初は俺も伝承の言う通りに能力を使っていた。光の捉え方も、闇の捉え方も、それらの融合も。でも、だんだんとしっくり来ない感じがして、型にはまらずにやろうとしたら、突然力が伸びた。推測の域を出ない話だが、能力は遺伝で受け継ぐとはいえ、個人のものだから、個人の使い方によって最適解があるんじゃないかと思っている。琴葉の場合、戦いの場で浄化を使おうとしているわけで、それ自体は型から外れようとしているが、理想形へのこだわりが結果的にそれを妨げているのかもしれない……」
話している珀本人もあまり自信がなさそうだが、今の琴葉は可能性でもなんでも縋りたい状態であるため、とにかく参考材料として頭に入れておくことにした。
「でも、どのように個人の最適解を導き出せばいいのでしょうか」
「とりあえず、次は祭壇に近づけずにやってみればいいんじゃないか?」
「そう言われてみれば……これまでずっと祭壇の成功イメージが強くて、いつもそのイメージを使って能力を引き出していた気がします。そのイメージなしで発動できるようになればいいのかもしれません」
ひとまず、この後の浄化で祭壇のイメージを使わずに能力を発動してみることになった。
※ ※ ※
2つ目の討伐区域に到着し、すぐに攻撃チームが動き出す。先ほどのイノシシに似た魔形と強さはさほど変わらないが、すばしこい小さめの魔形であるため、攻撃を当てるのに若干苦労しているようだ。それでも、宝城を中心に集められた精鋭部隊だ。すぐに対応してみせる。
珀と一緒に離れた場所で待機していた琴葉は、浄化可能の合図にすぐ動き出した。今度は祭壇を意識せず、純粋に神に願いを届けるために祈ることにしている。そもそも、琴葉が能力を発現したときは、祭壇を使っていないのに半径5kmの最大威力が出ているのだ。できるはずだ。
防御の能力者に囲まれた状態で、目を瞑って神に願いを必死で伝える。祭壇は関係ない、ただただ純粋な祈り。
辺りが急激に静まり返る。水を打ったような静けさに、防御チームは唖然とした。そこから、琴葉を中心に力強い風が巻き起こる。周辺の木々がざわめき、誰もがわかるほどに淀んで汚れていた空気が途端に輝き出した。
琴葉から溢れ出した光の粒たちは勢いよく広がり、遠く遠く見えないところまで飛んでいく。手入れが行き届いたツヤのある黒髪が風に舞い上がり、淡い光に包まれた琴葉は、それはそれは美しく、幻想的だった。珀は自身の婚約者のあまりの美しさに、呆然とその場に立ち尽くした。
攻撃チームも防御チームも、琴葉を中心に外側を向いているため、琴葉が見えていないのが幸いだ。こんなの誰だって惚れてしまうではないか。
光が少しずつ少なくなり、最後の粒が天に昇っていったとき、ドシャっと音がして、琴葉がその場で座り込んでいた。珀は即座に愛する人の元へと駆け寄る。
「効果範囲が非常に広いため、計測に時間がかかっております」
隼人の部下から連絡が来て、安堵する珀。まさか、先ほどの雑なアドバイスで成功するとは思っていなかった。
「琴葉!」
「珀様、私、今回はうまく行った気がいたします」
「ああ、効果範囲が広くて測定に時間がかかっているという連絡が来た。成功したと見て間違いないだろう」
琴葉は安心したようににっこりと微笑んだ。その姿は神聖で、どこか遠い存在のように見える。珀は琴葉の成長に喜びを感じるとともに、離れて行ってしまうのではないかと少し不安を抱いてしまう。
「珀様。珀様のおかげで、祭壇なしで浄化ができるようになりました!もう感覚を掴んだので、次からもきっとできると思います。ありがとうございます」
「本当にお前はすごいな……」
どこにも行ってほしくなくて、珀は琴葉をその腕の中に閉じ込める。
測定の結果、発動範囲は半径8kmに至り、祭壇を使った時よりも威力が強かったことが判明した。実際、発動の様子を見ていた珀もその違いは明らかだったと言っている。
こうして琴葉は、伝承とは異なる形で、目的通り現地で最大威力の神楽の力を発揮することができるようになったのだった。その夜、珀がいつもの数倍琴葉に甘えて、琴葉が少し不安そうにするそんな珀を精一杯抱きしめていたのは、二人だけの秘密だ。
また、琴葉の神楽の力は少し例外的なところがあり、宝城本家の祭壇を使うことによって最大威力の力を発揮することができると伝承には書かれているが、琴葉としてはそれでは現地に自ら赴くことができないため、その条件も取り払おうとしていた。
すなわち、目下琴葉が取り組んでいる課題は、「神楽の力の解釈を広げること」である。貴族としての役割を果たすため、戦闘に参加しつつ、最大威力の能力を発揮できるような新しい形を模索している、ということだ。
数ヶ月の間、さまざまな訓練、実験を繰り返してきた。強い魔形の危険な討伐に同行させてくれと珀に直談判し、反対を押し切って実験した。危険な魔形が出ているということは、その辺りの空気の淀みがひどいということ。それくらい淀んでいないことには、能力の発動範囲も測定ができないため、練習のためにはどうしても危険な討伐に参加しなければならないのだ。もちろん、珀と隼人が琴葉を護衛しながら、が絶対条件だったが。
だが、何度やってもどうしても半径5kmほどを一気に浄化するほどの威力を、祭壇を使わずに発動するのは難しく、せいぜい半径3km止まりだった。
今日は2つの討伐に連続で参加し、最大威力を引き出す練習をする予定になっている。琴葉は以前と比べて体力がついてきたため、繰り返し発動させることはできるようになってきているのだ。
「珀様。今日は護衛を増やしています。今日は珀様に、護衛として私を守っていただくのではなく、能力者としてアドバイスをしていただきたいのです」
「危険な魔形だが、大丈夫なのか……?」
琴葉が強くなるために考えて提案したことに対し、珀は渋る。それだけ危険な任務だから。
「ですが、浄化を行うのは、メインの魔形を攻撃チームが弱らせた後です。それに、危険であることは承知していますが、珀様と同等レベルの能力者と世間では騒がれているのです。守られてばかりの能力者など、貴族としてふさわしくありません」
毅然と反論する琴葉。珀は困った顔でため息をつく。
「……仕方ない。だが、危険と判断した場合にはすぐに止めるからな。——それにしても、お前、結構言うようになったよな」
「ええ。琴葉様は最近珀様にしっかりとご意見なさっていて素晴らしいです」
「隼人、お前はどこを褒めてるんだ」
「珀様に意見できる方など他にいらっしゃらないのですよ。貴重な人材ではありませんか!」
「一旦だまれ」
いつも通りの掛け合いに、琴葉は苦笑い。それから、少し表情が曇る。
「お嫌でしたら、おっしゃってくださいませ……」
「嫌なはずないだろう!むしろいい傾向だと思う。自分を形成する価値観が出来上がってきた証拠だからな。ただ……」
「ただ……?」
「お前に危険な目に遭って欲しくないだけだ。許せ」
珀は琴葉の手を握って困ったように笑う。琴葉は数秒フリーズして、少しふくれる。
「もう!珀様は過保護すぎます」
早速、1つ目の討伐地点へと向かう。移動手段はもちろん、珀の能力による転移だ。琴葉も最初の頃は毎回転移の感覚と便利さに驚いていたが、最近では慣れてきてしまった。いや、慣れてはいけないのだ。珀のレベルが当たり前になってはいけない。珀は1000年に1人と言われている逸材なのだから。
明らかに空気が淀んでいる。その中心を探し、転移先からさらに陣形を組んで移動する。すると、イノシシのような魔形が数匹、突進してきた。
「来たぞ!構えろ」
攻撃チームがそれぞれの能力を発動し、魔形を無力化する。中には一撃で魔形を薙ぎ倒した能力者もいて、琴葉はそれを少し離れた場所から見ていて驚いたのだった。隼人は後進育成のためか、少し手を抜いているようだ。
攻撃チームからの合図を受け取り、琴葉は防御の能力者に囲まれて中心へと躍り出る。守ってくれる周囲の人間を信じ、目を閉じて両手を組み、祈る。
——神様よ、大いなる意志よ、どうかこの地に平穏を。魔形を倒し、淀みを消し去る力を我が手に。
琴葉の体から淡い光がこぼれ出し、天に向かってふわふわと浮かび上がっていく。珀はその様子を遠くから観察していた。能力者、先輩としての視点で。
光の玉は徐々に数を増やし、周囲に広がっていく。それが行き止まったら、神楽の力による浄化は終了だ。ゆったりと広がる光は、かなり遠くまで進んだようだったが、ある程度広がったところで消えて行った。その瞬間、琴葉の膝がガクリと折れ、同時に魔形が塵となって消える。
汗をかき、息を切らしている琴葉に駆け寄り、水分補給をさせる。夏の暑い日に体力を使う討伐を行うのは、熱中症の危険もあるのだ。
「大丈夫か?」
「ええ。すぐに回復します」
琴葉は微笑んでそう答える。討伐による疲労にも慣れてきたようだ。討伐の配信からデータを集めていた隼人の部下から連絡が来て、効果範囲は半径3kmと少しだと分かった。
「何がダメなのでしょう。祭壇で舞う時と同じ感覚に寄せるように意識しているのですが……」
すると、浄化を観察していた珀が少し考えてから話し出した。
「これは一つの可能性でしかないが……祭壇で舞う時と寄せているから、最大威力にならないんじゃないか?」
「どういうことでしょうか……?」
「うまく説明しづらいが、なんというか、さっき見た浄化は少し型にはまっているような気がした。祭壇で舞う神楽が琴葉にとって理想形として認識されているんじゃないか?」
「え、ええ。それが最大威力の条件だと伝承にも書いてありましたし……」
琴葉は困惑する。祭壇は最大威力を発揮するためのものであり、神楽の力の重要なピースのはずだ。だから、討伐地点にいる時もその条件にできるだけ近づけるべきではないのか。
「これは俺の経験談なんだが、伝承は参考程度にした方がいい。最初は俺も伝承の言う通りに能力を使っていた。光の捉え方も、闇の捉え方も、それらの融合も。でも、だんだんとしっくり来ない感じがして、型にはまらずにやろうとしたら、突然力が伸びた。推測の域を出ない話だが、能力は遺伝で受け継ぐとはいえ、個人のものだから、個人の使い方によって最適解があるんじゃないかと思っている。琴葉の場合、戦いの場で浄化を使おうとしているわけで、それ自体は型から外れようとしているが、理想形へのこだわりが結果的にそれを妨げているのかもしれない……」
話している珀本人もあまり自信がなさそうだが、今の琴葉は可能性でもなんでも縋りたい状態であるため、とにかく参考材料として頭に入れておくことにした。
「でも、どのように個人の最適解を導き出せばいいのでしょうか」
「とりあえず、次は祭壇に近づけずにやってみればいいんじゃないか?」
「そう言われてみれば……これまでずっと祭壇の成功イメージが強くて、いつもそのイメージを使って能力を引き出していた気がします。そのイメージなしで発動できるようになればいいのかもしれません」
ひとまず、この後の浄化で祭壇のイメージを使わずに能力を発動してみることになった。
※ ※ ※
2つ目の討伐区域に到着し、すぐに攻撃チームが動き出す。先ほどのイノシシに似た魔形と強さはさほど変わらないが、すばしこい小さめの魔形であるため、攻撃を当てるのに若干苦労しているようだ。それでも、宝城を中心に集められた精鋭部隊だ。すぐに対応してみせる。
珀と一緒に離れた場所で待機していた琴葉は、浄化可能の合図にすぐ動き出した。今度は祭壇を意識せず、純粋に神に願いを届けるために祈ることにしている。そもそも、琴葉が能力を発現したときは、祭壇を使っていないのに半径5kmの最大威力が出ているのだ。できるはずだ。
防御の能力者に囲まれた状態で、目を瞑って神に願いを必死で伝える。祭壇は関係ない、ただただ純粋な祈り。
辺りが急激に静まり返る。水を打ったような静けさに、防御チームは唖然とした。そこから、琴葉を中心に力強い風が巻き起こる。周辺の木々がざわめき、誰もがわかるほどに淀んで汚れていた空気が途端に輝き出した。
琴葉から溢れ出した光の粒たちは勢いよく広がり、遠く遠く見えないところまで飛んでいく。手入れが行き届いたツヤのある黒髪が風に舞い上がり、淡い光に包まれた琴葉は、それはそれは美しく、幻想的だった。珀は自身の婚約者のあまりの美しさに、呆然とその場に立ち尽くした。
攻撃チームも防御チームも、琴葉を中心に外側を向いているため、琴葉が見えていないのが幸いだ。こんなの誰だって惚れてしまうではないか。
光が少しずつ少なくなり、最後の粒が天に昇っていったとき、ドシャっと音がして、琴葉がその場で座り込んでいた。珀は即座に愛する人の元へと駆け寄る。
「効果範囲が非常に広いため、計測に時間がかかっております」
隼人の部下から連絡が来て、安堵する珀。まさか、先ほどの雑なアドバイスで成功するとは思っていなかった。
「琴葉!」
「珀様、私、今回はうまく行った気がいたします」
「ああ、効果範囲が広くて測定に時間がかかっているという連絡が来た。成功したと見て間違いないだろう」
琴葉は安心したようににっこりと微笑んだ。その姿は神聖で、どこか遠い存在のように見える。珀は琴葉の成長に喜びを感じるとともに、離れて行ってしまうのではないかと少し不安を抱いてしまう。
「珀様。珀様のおかげで、祭壇なしで浄化ができるようになりました!もう感覚を掴んだので、次からもきっとできると思います。ありがとうございます」
「本当にお前はすごいな……」
どこにも行ってほしくなくて、珀は琴葉をその腕の中に閉じ込める。
測定の結果、発動範囲は半径8kmに至り、祭壇を使った時よりも威力が強かったことが判明した。実際、発動の様子を見ていた珀もその違いは明らかだったと言っている。
こうして琴葉は、伝承とは異なる形で、目的通り現地で最大威力の神楽の力を発揮することができるようになったのだった。その夜、珀がいつもの数倍琴葉に甘えて、琴葉が少し不安そうにするそんな珀を精一杯抱きしめていたのは、二人だけの秘密だ。



