夏休みに入り、能力の訓練や学徒動員の実地演習、前期の勉強内容の復習、ピアノの練習と忙しい日々を過ごしているうちに、すぐに8月に入った。8月12日が珀の誕生日であるため、今日は珀に内緒でプレゼントを買いに行くことにしている。
以前の庶民デートの時、珀が意外と安物に興味を示していたので、今回は庶民向けのお店でプレゼントを選んでみることにした。隼人やメイド、使用人、護衛など様々な人にサプライズの協力を仰いだところ、庶民のお店に行くのは危ないからやめた方がいいと止められたが、珀のために素敵なプレゼントを買いたいと言ったら、護衛を去年の倍に増やすのなら、と条件付きでOKを出された。
「いいですか、琴葉様。この護衛の青柳と赤井とともに行動をしてください」
隼人が何度も繰り返し忠告し、琴葉はそれに頷いて車に乗り込む。庶民の店でも浮かないように地味な服装を選んだが、護衛の数で貴族だとバレてしまいそうだ。今日は去年の二の舞にならないように慎重に行動しなければならない。そう、去年はこのプレゼントを買うタイミングで鈴葉と美麗にさらわれたのだから。
事前に調べておいた庶民向けの商店街に護衛と共に入っていく。
「見て見て!お貴族様だ」
「ほんとだ、護衛がたくさん」
結局すぐに貴族だとバレてしまった。平民たちは琴葉のために道を開け、アーケードの両側から琴葉を眺める。多くの人からの視線に、琴葉は早くお店に入ってしまおうと思い、少し足を早めた。それを察したのか、赤井と青柳の二人も琴葉の左右の後ろをペースを上げてついてくる。
下調べの時に目をつけていた雑貨屋に護衛数人とともに入った。ひとまず視線から解放されて、ほっとため息をつく琴葉。
「い、いらっしゃいませ!」
緊張した面持ちで店員が言う。やはり貴族が来ることなどほとんどないのだろう。やめた方がよかっただろうかと思うが、珀を喜ばせたい気持ちが勝ってしまう。
「な、何かお探し、でしょうか……?」
「ええと、婚約者にプレゼントをしたいのですが、何かちょうどいいものは……」
「そ、そうなのですね。当店は——雑貨屋ですので、様々なものを取り扱っておりますが、例えばこちらのコーナーは置き時計を置いていて……シックなものから可愛らしいものまでございます。反対側のこちらの棚には、ルームフレグランスがありまして、この表からお好みの香りの系統を見つけ出すことが可能です」
店員は商品の説明を始めた途端、緊張を忘れたのかすらすらと喋り出した。琴葉は静かに頷きながら説明を聞く。
「いかがでしょう。何か目を惹かれるものはございましたか?」
「そうですね……まずはフレグランスを選んでみようと思います。ありがとうございます」
ルームフレグランスが並んでいる棚の前に立ち、少し考える。この間の庶民デートの時、香水のお店でリビング用のルームフレグランスを買ったから、また新しいものを買うのは芸がないだろうか。でも、寝室用もあるみたいだし——。柑橘系の香りのものもあり、珀が好きそうなスッキリした香りが漂っていた。
置き時計の方も手に取って見てみる。以前、珀とデジタル時計とアナログ時計のどちらがいいか、という話をしたことがあった。琴葉は別にどちらでもいいと思っていたが、珀はできればアナログの方がいいと言ったのだ。珀曰く、針の向きでどれくらい時間が経ったかや今が1日の中でどの時間帯なのか直感的にわかりやすいのだと言う。デジタル時計は数字しか書いていないため、時刻はわかっても焦りが生まれないらしい。
目の前にあるのは黒に近い茶色の木枠で囲まれたアナログの置き時計だ。時計版の文字はシンプルな算用数字で、針は少しおしゃれな形をしている。何より面白いのは、時計のすぐ隣にカレンダーがついているところだ。魔形討伐に大学の授業に貴族としての仕事、とにかくやることが多くて忙しい珀はカレンダーと睨めっこしていることが多い。常に予定が詰まっているからだ。
こんなに珀にふさわしい置き時計はないのではないだろうか。これは決定だ。
次に琴葉はマグカップが置かれている棚に移動する。普段、珀はコーヒーを飲みながら仕事をする。少しずつ飲むため、最終的には冷め切ってしまうといつもこぼしていた。棚には、保温性の高い蓋付きのマグカップが置いてある。蓋はワンタッチで開けることができ、仕事の邪魔にはならなそうだ。これも買おう。
琴葉は二つの商品を買うことに決め、護衛にその旨を告げると、赤井の方がレジで会計をしてくれた。丁寧にラッピングしてもらい、渡す時のおしゃれな紙袋もつけてもらう。いい買い物ができたと琴葉は少し嬉しくなって、足取り軽く店を後にした。
「琴葉様、庶民の街では大きな車を停めるところがあまりないらしく、少々遠いところまで歩くことになってしまいました。大丈夫でしょうか」
護衛が運転手からの連絡を伝えてくれる。
「ええ、かまいません」
相変わらず目立ってはいるが、誰も近づいてこない。入ってきたところとは反対側からアーケードを抜け、護衛と一緒に歩く。するとすぐに、刺激臭が流れてきた。護衛たちが顔をしかめ、口元を覆う。
「なんだ?」
「これは避けて行った方が……」
「でも、運転手が示している駐車場はこの先だぞ」
臭いを我慢し、琴葉を守る陣形で護衛たちは前に進むことに決めた。少し進むと、刺激臭の原因が明らかになる。
「ここは……」
あまりの惨状に琴葉はショックで立ち尽くしてしまった。そこは——
「スラムだ……」
護衛の一人が呟く。そう、目の前に広がっていたのは、ボロボロの屋根が欠けた家々、窓同士を結んだ紐にかけられた洗濯物、ゴミだらけで足の踏み場もない地面。紛れもない、スラム街だった。商店街は比較的綺麗だったというのに、すぐ近くにこんなところがあっただなんて。
「おい!お貴族様がいるぞ!」
「施しか!?」
「おめぐみをもらいにいけ!」
痩せ細った子どもたちが琴葉に気づき、飢えたギラギラの瞳を向けて走ってきた。琴葉はそれに気づくも、目の前の景色を信じられず、動けないでいる。護衛が子どもたちを突き飛ばした。
「琴葉様をお守りしろ!」
「何をする!施しをしにきたわけではない、帰れ!」
子どもたちは困惑した顔をしたのち、すぐに騒ぎ出した。
「お前らが俺らから金ぶんどっていくから!俺らはこんなにひもじい思いをしているんだ!」
「ふざけんじゃねえ!施ししねえなら入ってくんな!」
騒ぎを聞きつけた大人たちも群がってくる。
「お貴族様じゃねえか、施ししてくれねえんだな?」
「いっぱい持ってるくせに」
「もらうだけもらって与えやしないんだ、俺たちはずっと見捨てられてるんだからよ、仕方ねえって」
「わたしの子どもは栄養が足りなくて死んでいった!お前たち貴族のせいだ!」
「能力があるんだか知らないが、あたしらが何をしたって言うんだね!何が違ってそっち側にいるんだい、それでいて何もくれないんだと、じゃあ早く出てってくれよ」
どんどん人が集まってくる。囲まれてしまった。護衛たちはジリジリと後退りをして、スラム街を抜けようとしている。
毎日の生活の中で少しずつ少しずつ芽生えては溜まる違和感が、貴族を目の前にしたことで、明確な憎悪という像を結び、爆発する。一人の男が拳を振り上げて琴葉めがけて真っ直ぐ突っ込んできた。
「やめろ!」
すんでのところで青柳が受け止め、その隙に赤井が琴葉を抱え、一目散に逃げ出した。
「俺はお前らのこと、ぜってえ許さねえからな」
「いずれその貴族の座から引き摺り下ろしてやる」
背中に向かって投げかけられる怒鳴り声は悔しさと悲しみが滲んでいた。琴葉はせめて病気や怪我だけでも良くなるようにと、赤井に抱きかかえられたまま目を閉じて手を組み、能力を発動させる。淡い光の玉がスラム街に降り注ぎ、刺激臭が少しだけ薄れた気がした。
何人かは追ってきていたようだったが、その光の粒を目にして、驚き固まってしまった。
「申し訳ございません、琴葉様。危険な場所に入ってしまいました。運転手には商店街の表に回ってもらうよう指示したので、そちらへ向かいます」
大勢の護衛が非常に急いで商店街を通り抜けていく様は明らかに異常で、皆が振り返るが、そんなことは気にしていられない。護衛は一刻も早く琴葉を無事に宝条家に帰さなくてはならないのだ。スラム街に入れてしまった上に、琴葉の身に何かあったら解雇処分は間違いない。
「こちらです!」
運転手が真っ青な顔で白い手袋をつけた手を挙げる。
「お疲れ様です。ありがとうございました」
琴葉はことの重大さがわかっているからこそ、護衛にせめてもの労いの言葉をかける。これが珀にバレてしまったらまずい。
「珀様と隼人様にはこのことは報告いたしません。皆さんは私を守るために全力で仕事してくださったのです。それに、結果として私は怪我も何もしておりません。プレゼントも無事のようですし、お気になさらないでくださいませ」
護衛たちは顔を見合わせて、感謝の言葉を述べたが、首を振った。
「いいえ、護衛対象を危険な場所に連れて行くことなど、護衛失格です。報告は正確にいたします。お気遣いありがとうございます」
この件はすぐに隼人に伝わり、その場にいた護衛はこっぴどく叱られたようだった。だが、琴葉のお願いで処分は軽く済んだようだ。
隼人は琴葉のサプライズに協力すると言っている手前、ことの次第を珀に報告することはできず、頭を抱えていた。琴葉はプレゼントを自室に丁寧に置き、珀は喜んでくれるだろうかと想像する。その幸せな想像を邪魔するように、スラム街の景色が頭をよぎって、その度に無理やり頭からかき消した。
以前の庶民デートの時、珀が意外と安物に興味を示していたので、今回は庶民向けのお店でプレゼントを選んでみることにした。隼人やメイド、使用人、護衛など様々な人にサプライズの協力を仰いだところ、庶民のお店に行くのは危ないからやめた方がいいと止められたが、珀のために素敵なプレゼントを買いたいと言ったら、護衛を去年の倍に増やすのなら、と条件付きでOKを出された。
「いいですか、琴葉様。この護衛の青柳と赤井とともに行動をしてください」
隼人が何度も繰り返し忠告し、琴葉はそれに頷いて車に乗り込む。庶民の店でも浮かないように地味な服装を選んだが、護衛の数で貴族だとバレてしまいそうだ。今日は去年の二の舞にならないように慎重に行動しなければならない。そう、去年はこのプレゼントを買うタイミングで鈴葉と美麗にさらわれたのだから。
事前に調べておいた庶民向けの商店街に護衛と共に入っていく。
「見て見て!お貴族様だ」
「ほんとだ、護衛がたくさん」
結局すぐに貴族だとバレてしまった。平民たちは琴葉のために道を開け、アーケードの両側から琴葉を眺める。多くの人からの視線に、琴葉は早くお店に入ってしまおうと思い、少し足を早めた。それを察したのか、赤井と青柳の二人も琴葉の左右の後ろをペースを上げてついてくる。
下調べの時に目をつけていた雑貨屋に護衛数人とともに入った。ひとまず視線から解放されて、ほっとため息をつく琴葉。
「い、いらっしゃいませ!」
緊張した面持ちで店員が言う。やはり貴族が来ることなどほとんどないのだろう。やめた方がよかっただろうかと思うが、珀を喜ばせたい気持ちが勝ってしまう。
「な、何かお探し、でしょうか……?」
「ええと、婚約者にプレゼントをしたいのですが、何かちょうどいいものは……」
「そ、そうなのですね。当店は——雑貨屋ですので、様々なものを取り扱っておりますが、例えばこちらのコーナーは置き時計を置いていて……シックなものから可愛らしいものまでございます。反対側のこちらの棚には、ルームフレグランスがありまして、この表からお好みの香りの系統を見つけ出すことが可能です」
店員は商品の説明を始めた途端、緊張を忘れたのかすらすらと喋り出した。琴葉は静かに頷きながら説明を聞く。
「いかがでしょう。何か目を惹かれるものはございましたか?」
「そうですね……まずはフレグランスを選んでみようと思います。ありがとうございます」
ルームフレグランスが並んでいる棚の前に立ち、少し考える。この間の庶民デートの時、香水のお店でリビング用のルームフレグランスを買ったから、また新しいものを買うのは芸がないだろうか。でも、寝室用もあるみたいだし——。柑橘系の香りのものもあり、珀が好きそうなスッキリした香りが漂っていた。
置き時計の方も手に取って見てみる。以前、珀とデジタル時計とアナログ時計のどちらがいいか、という話をしたことがあった。琴葉は別にどちらでもいいと思っていたが、珀はできればアナログの方がいいと言ったのだ。珀曰く、針の向きでどれくらい時間が経ったかや今が1日の中でどの時間帯なのか直感的にわかりやすいのだと言う。デジタル時計は数字しか書いていないため、時刻はわかっても焦りが生まれないらしい。
目の前にあるのは黒に近い茶色の木枠で囲まれたアナログの置き時計だ。時計版の文字はシンプルな算用数字で、針は少しおしゃれな形をしている。何より面白いのは、時計のすぐ隣にカレンダーがついているところだ。魔形討伐に大学の授業に貴族としての仕事、とにかくやることが多くて忙しい珀はカレンダーと睨めっこしていることが多い。常に予定が詰まっているからだ。
こんなに珀にふさわしい置き時計はないのではないだろうか。これは決定だ。
次に琴葉はマグカップが置かれている棚に移動する。普段、珀はコーヒーを飲みながら仕事をする。少しずつ飲むため、最終的には冷め切ってしまうといつもこぼしていた。棚には、保温性の高い蓋付きのマグカップが置いてある。蓋はワンタッチで開けることができ、仕事の邪魔にはならなそうだ。これも買おう。
琴葉は二つの商品を買うことに決め、護衛にその旨を告げると、赤井の方がレジで会計をしてくれた。丁寧にラッピングしてもらい、渡す時のおしゃれな紙袋もつけてもらう。いい買い物ができたと琴葉は少し嬉しくなって、足取り軽く店を後にした。
「琴葉様、庶民の街では大きな車を停めるところがあまりないらしく、少々遠いところまで歩くことになってしまいました。大丈夫でしょうか」
護衛が運転手からの連絡を伝えてくれる。
「ええ、かまいません」
相変わらず目立ってはいるが、誰も近づいてこない。入ってきたところとは反対側からアーケードを抜け、護衛と一緒に歩く。するとすぐに、刺激臭が流れてきた。護衛たちが顔をしかめ、口元を覆う。
「なんだ?」
「これは避けて行った方が……」
「でも、運転手が示している駐車場はこの先だぞ」
臭いを我慢し、琴葉を守る陣形で護衛たちは前に進むことに決めた。少し進むと、刺激臭の原因が明らかになる。
「ここは……」
あまりの惨状に琴葉はショックで立ち尽くしてしまった。そこは——
「スラムだ……」
護衛の一人が呟く。そう、目の前に広がっていたのは、ボロボロの屋根が欠けた家々、窓同士を結んだ紐にかけられた洗濯物、ゴミだらけで足の踏み場もない地面。紛れもない、スラム街だった。商店街は比較的綺麗だったというのに、すぐ近くにこんなところがあっただなんて。
「おい!お貴族様がいるぞ!」
「施しか!?」
「おめぐみをもらいにいけ!」
痩せ細った子どもたちが琴葉に気づき、飢えたギラギラの瞳を向けて走ってきた。琴葉はそれに気づくも、目の前の景色を信じられず、動けないでいる。護衛が子どもたちを突き飛ばした。
「琴葉様をお守りしろ!」
「何をする!施しをしにきたわけではない、帰れ!」
子どもたちは困惑した顔をしたのち、すぐに騒ぎ出した。
「お前らが俺らから金ぶんどっていくから!俺らはこんなにひもじい思いをしているんだ!」
「ふざけんじゃねえ!施ししねえなら入ってくんな!」
騒ぎを聞きつけた大人たちも群がってくる。
「お貴族様じゃねえか、施ししてくれねえんだな?」
「いっぱい持ってるくせに」
「もらうだけもらって与えやしないんだ、俺たちはずっと見捨てられてるんだからよ、仕方ねえって」
「わたしの子どもは栄養が足りなくて死んでいった!お前たち貴族のせいだ!」
「能力があるんだか知らないが、あたしらが何をしたって言うんだね!何が違ってそっち側にいるんだい、それでいて何もくれないんだと、じゃあ早く出てってくれよ」
どんどん人が集まってくる。囲まれてしまった。護衛たちはジリジリと後退りをして、スラム街を抜けようとしている。
毎日の生活の中で少しずつ少しずつ芽生えては溜まる違和感が、貴族を目の前にしたことで、明確な憎悪という像を結び、爆発する。一人の男が拳を振り上げて琴葉めがけて真っ直ぐ突っ込んできた。
「やめろ!」
すんでのところで青柳が受け止め、その隙に赤井が琴葉を抱え、一目散に逃げ出した。
「俺はお前らのこと、ぜってえ許さねえからな」
「いずれその貴族の座から引き摺り下ろしてやる」
背中に向かって投げかけられる怒鳴り声は悔しさと悲しみが滲んでいた。琴葉はせめて病気や怪我だけでも良くなるようにと、赤井に抱きかかえられたまま目を閉じて手を組み、能力を発動させる。淡い光の玉がスラム街に降り注ぎ、刺激臭が少しだけ薄れた気がした。
何人かは追ってきていたようだったが、その光の粒を目にして、驚き固まってしまった。
「申し訳ございません、琴葉様。危険な場所に入ってしまいました。運転手には商店街の表に回ってもらうよう指示したので、そちらへ向かいます」
大勢の護衛が非常に急いで商店街を通り抜けていく様は明らかに異常で、皆が振り返るが、そんなことは気にしていられない。護衛は一刻も早く琴葉を無事に宝条家に帰さなくてはならないのだ。スラム街に入れてしまった上に、琴葉の身に何かあったら解雇処分は間違いない。
「こちらです!」
運転手が真っ青な顔で白い手袋をつけた手を挙げる。
「お疲れ様です。ありがとうございました」
琴葉はことの重大さがわかっているからこそ、護衛にせめてもの労いの言葉をかける。これが珀にバレてしまったらまずい。
「珀様と隼人様にはこのことは報告いたしません。皆さんは私を守るために全力で仕事してくださったのです。それに、結果として私は怪我も何もしておりません。プレゼントも無事のようですし、お気になさらないでくださいませ」
護衛たちは顔を見合わせて、感謝の言葉を述べたが、首を振った。
「いいえ、護衛対象を危険な場所に連れて行くことなど、護衛失格です。報告は正確にいたします。お気遣いありがとうございます」
この件はすぐに隼人に伝わり、その場にいた護衛はこっぴどく叱られたようだった。だが、琴葉のお願いで処分は軽く済んだようだ。
隼人は琴葉のサプライズに協力すると言っている手前、ことの次第を珀に報告することはできず、頭を抱えていた。琴葉はプレゼントを自室に丁寧に置き、珀は喜んでくれるだろうかと想像する。その幸せな想像を邪魔するように、スラム街の景色が頭をよぎって、その度に無理やり頭からかき消した。



