早速、実地演習が始まった。それほど被害の大きくない、比較的弱い魔形が発生した地点へグループごとに向かい、貴族が見守る中、討伐を進めるというものだ。何か危険なことがあった時は、見守っている貴族や引率の教員が手を貸して素早く討伐をすることになっている。
学年ごとにグループを組み、学徒動員用のヘリコプターで移動する。学園の経済力に琴葉も千広も驚いた。3学年それぞれに専用のヘリコプターがあり、それぞれ10人以上が乗れるサイズのものだ。珀と婚約してからというもの、少しずつ高価なものに慣れ始めた琴葉も、恐る恐る乗り込む。
「ヘリコプターって揺れるって聞くけど、大丈夫かな」
「乗り物酔いしやすいタイプか?」
千広が不安そうに呟くと、悠火がぐいっと顔を近づけてきて、会話に混ざってくる。
「うーん、しやすいってほどではないけど、全く経験がないわけでもなくて……」
いつでも明るく、上機嫌な千広にしては歯切れの悪い回答だ。
「そうか。もし、何かあったらすぐに言って欲しい。周囲が助けられることもあるからな」
「ありがとう」
千広は驚いたように謝辞を述べる。さらりと気遣える悠火に心惹かれる人は多いだろうな、と琴葉は思った。実際、悠火はファンクラブがあるくらいにモテている。もちろん、琴葉は珀以外に興味はないが。
ヘリコプターが浮いて、メンバーからわっと歓声が上がる。しかし、皆この後の実地演習に緊張しているのか、すぐに黙り込んだ。ちなみに、ヘリコプターはそこまで大きくは揺れず、琴葉も千広も安心したのだった。
「今回、学徒動員2年グループの総指揮を取らせてもらう、新島家次期当主、新島悠火だ。ヘリの中で、実地演習における討伐の流れを確認しておきたい。酔いやすくない者は資料を見てほしい。無理はしなくていい」
しばらくして、悠火が積極的にメンバーをまとめ始めた。2年グループの12人は、それほど琴葉を目の敵にしてはおらず、平和を好むタイプであることが予想される。すぐに悠火の声に皆、耳を傾けた。
それから、向かう先の地理的情報、発生した魔形の特徴、強さ、討伐の流れが共有された。魔形討伐の定石に則って、防御の能力者が周囲を警戒しながら、攻撃の能力者が中心となり、魔形の弱体化を図る。魔形の力が弱まった頃、攻撃・防御はやめず、今度は浄化の能力者が中心となって魔形を消し去り、周囲の空気の淀みをも解消する、という流れを取ることになっている。この浄化の担当は12人の中で琴葉と千広のみだ。あとの10人は皆、攻撃か防御というのだから、やはり浄化は非常に貴重な能力と言える。
悠火の話を聞き、資料に目を通していると、すぐにヘリコプターは魔形発生地点の近くに到着した。
「総員!急いで現地に向かうように!」
「はい!」
張り切った悠火の掛け声と威勢のいい返事を合図に、実地演習がスタートする。琴葉と千広は最初のうちは出番はないため、いつでも能力を使えるように集中力を高めつつ、怪我人が出た時のための準備をしておく。
救急箱の中身を確認していると、すぐ近くから戦闘の音や掛け声が聞こえてくる。しばらく出番を待っていると、一人の女の子がふらふらと離脱してきた。
「大丈夫ですか!?」
「ど、どうしたの?怪我?」
二人とも焦って声をかけると、震え声で女の子が言う。
「ご……ごめんなさい、私……怖くて……」
琴葉と千広は顔を見合わせる。討伐配信を見たことがあっても、実際に魔形と対面するのは初めてなのだ。怖いのは当然だろう。
「今日は休んでいましょう、少しずつ慣れていけばいいのです」
「うんうん、ここに座っておきな!私たちはそろそろ出番だけど、防御の人たちが交代で見にきてくれるはずだから!」
「ありがとう……ございます」
その子は真っ青な顔のまま琴葉が敷いたレジャーシートの上に座り込んだ。ちょうどその頃、攻撃と浄化の交代の合図が、メンバーが持っている発信機に届く。すぐに防御の能力者のうちの二人が、交代にやってくる。ここは救護班のような役割なのだ。
「浄化のお二人!交代ですわ」
「ええ。お疲れ様です。ただいま、参ります」
「行ってきます!」
琴葉は千広と頷き合い、魔形討伐陣形の中心に向かう。
「浄化を行う!攻撃・防御のメンバーは陣形2に移れ!」
「はい!」
狼のような、もっとおどろおどろしい魔形が周辺に何体も倒れている。弱体化させられて、こちらの様子を伺っているだけの魔形もいるようだ。
「やりましょう!」
「うん!」
琴葉は手を組み、目線の先の木を見つめて集中力を高め、神楽の力を呼び覚ます。一方、千広は自身の足元に手をかざし、中心地から放射状に能力を行き渡らせようとしている。
淀んでいた空気は少しずつ生気を取り戻し、木の葉がが爽やかに揺れ始める。その場に倒れていた魔形たちが消滅し始め、弱体化していた魔形はあっという間に攻撃チームによって片付けられた。そうして、討伐の終わりが見え始めた頃——。
「おうおう、学園のお貴族様じゃねーの。こりゃ、潰し甲斐があるぜ」
「黙れ。さっさと片付けろ」
森の奥から、突如として5人の集団が現れた。皆、三日月を基調としたロゴが左胸についた、クリーム色のマントを着ている。
「いやいや、宣戦布告しねえと俺の気が済まねえのよ——。いいか、今から俺らはお前たち学園の学徒動員メンバーを潰す。この俺たち『革命の会』精鋭がな」
粗暴な男が自身の背中を見せる形でその集団の名前を口にする。浄化を続けていられない状態に、琴葉は祈るのを止めてしまった。そして、気づく。「革命の会」は先日の珀とのデートの時、ショッピングモールで演説を繰り広げていた人たちだ。
つまり、月城のヒエラルキー批判に賛同した過激派ということ。貴族の娘息子が通う学園に目をつけ、まずは警備が手薄な学徒動員から襲ったのだろう。
「我らは住民に被害が及ばないように、国から魔形討伐の任を受けてここに来ている!その邪魔をする者は誰であろうと容赦はしない」
悠火が淡々と返す。
「ああ?正義ぶってよぉ、めんどくせーのがいるなぁ。じゃあ、おめーから遊んでやっから」
「待て、命令に従え」
「あー、めんどくさ。へいへい」
粗暴な男と凍てつくような瞳の男が二、三言葉を交わしたのち、後者が何か合図を出した。開戦の合図だ。メンバーもそれに気づき、すぐに臨戦状態に入る。
「浄化の二人は、僕たちが守ろう」
すぐに防御の能力者のうち3人が琴葉と千広の周囲に結界を張る。千広は突然の敵の出現に怯えているのか、顔を覆い隠していた。悠火とそのほかの攻撃の能力者たちが連携して戦い始めた。魔形との戦いではない。人同士の戦いだ。どこかメンバーの動きが先ほどよりも硬い。とはいえ、敵もそこまでの実力はないようだ。ギリギリこちらが競り勝っている。
すぐに教員や待機していた貴族が救護班と連携して応援を呼び、戦闘に加わろうとしたその時だった。
「へええ?面白いことになったなぁ?ここにいるなんて思いもしなかったぜ」
粗暴な男が結界を突き破って琴葉たちのすぐ近くに迫ってきた。防御の3人が慌てて応戦するが、男の攻撃力の高さに敵わず、その剣先が千広に届きそうになる。
「やめてください!」
その瞬間、琴葉が男と千広の間に割って入り、男が驚いたように後退る。その隙を見計らって、悠火の炎が男を遠ざけた。人を焼くわけではない炎に当てられて、男はただ気絶してその場に崩れ落ちる。
その間に、他の敵は攻撃チームと貴族が倒してくれていたようで、なんとかその場は落ち着いた。
「千広、大丈夫か?怪我はないか」
「……うん、大丈夫……悠火さん、琴葉、ありがとう」
千広は恐怖でしばらく立てなかったが、悠火と琴葉がそばにい続けることで、なんとか帰れるところまで復活する。だが、それからしばらく、千広の顔色は優れなかった。
「魔形討伐自体は完了です。初回にしては連携を取れていましたし、それほど時間もかかっていませんでした。各自、報告書の記入と反省点の分析を忘れないように。それから——」
引率教員が少し逡巡して、こう続ける。
「先ほどの敵は無事拘束しましたが、皆さんに怪我がなくて本当によかったです。これは近くまで侵入を許した私の責任。申し訳ありませんでした。——この後、現場検証にいらしている方からいくつか質問をされるかと思います。答えたくない方は先に学園に戻りましょう。協力できる方は残ってください」
千広は学園に戻ると言った。琴葉は「革命の会」のことを伝えるために残ることにする。悠火は少し迷ったのち、残ることに決めたようだ。千広を見送るとき、とても心配そうにしていた。
「琴葉!!」
聞き慣れた声が、緊張感を一気に緩めてくれる。琴葉が振り返ると、そこにいたのは珀と隼人だった。現場検証の担当が自分の婚約者とは思わず、少し驚いた。
「琴葉が襲われたと聞いて、心臓が止まるかと思った。無事でよかった」
琴葉は去年、一度攫われている。その時のことを思い出してしまったのだろう。珀の目には不安が残っていた。琴葉は珀の腕の中で安心し、ほっと息をつくと、報告を始める。
「珀様。私は無事です。——襲ってきたのは『革命の会』。以前、ショッピングモールで演説をしていた、月城のヒエラルキー批判の過激派かと思われます。左胸の三日月のロゴは、月城のそれと酷似していました」
「あの集団か……」
「琴葉様。ご無事で何よりです。有益な情報、感謝いたします」
仕事モードの隼人がサッとメモを取る。それから、珀たちは戦闘の様子を生徒に聞いて周り、使われた能力の痕跡などを調査していた。
こうして、初めての学徒動員実地演習は、慌ただしく幕を閉じたのだった。
学年ごとにグループを組み、学徒動員用のヘリコプターで移動する。学園の経済力に琴葉も千広も驚いた。3学年それぞれに専用のヘリコプターがあり、それぞれ10人以上が乗れるサイズのものだ。珀と婚約してからというもの、少しずつ高価なものに慣れ始めた琴葉も、恐る恐る乗り込む。
「ヘリコプターって揺れるって聞くけど、大丈夫かな」
「乗り物酔いしやすいタイプか?」
千広が不安そうに呟くと、悠火がぐいっと顔を近づけてきて、会話に混ざってくる。
「うーん、しやすいってほどではないけど、全く経験がないわけでもなくて……」
いつでも明るく、上機嫌な千広にしては歯切れの悪い回答だ。
「そうか。もし、何かあったらすぐに言って欲しい。周囲が助けられることもあるからな」
「ありがとう」
千広は驚いたように謝辞を述べる。さらりと気遣える悠火に心惹かれる人は多いだろうな、と琴葉は思った。実際、悠火はファンクラブがあるくらいにモテている。もちろん、琴葉は珀以外に興味はないが。
ヘリコプターが浮いて、メンバーからわっと歓声が上がる。しかし、皆この後の実地演習に緊張しているのか、すぐに黙り込んだ。ちなみに、ヘリコプターはそこまで大きくは揺れず、琴葉も千広も安心したのだった。
「今回、学徒動員2年グループの総指揮を取らせてもらう、新島家次期当主、新島悠火だ。ヘリの中で、実地演習における討伐の流れを確認しておきたい。酔いやすくない者は資料を見てほしい。無理はしなくていい」
しばらくして、悠火が積極的にメンバーをまとめ始めた。2年グループの12人は、それほど琴葉を目の敵にしてはおらず、平和を好むタイプであることが予想される。すぐに悠火の声に皆、耳を傾けた。
それから、向かう先の地理的情報、発生した魔形の特徴、強さ、討伐の流れが共有された。魔形討伐の定石に則って、防御の能力者が周囲を警戒しながら、攻撃の能力者が中心となり、魔形の弱体化を図る。魔形の力が弱まった頃、攻撃・防御はやめず、今度は浄化の能力者が中心となって魔形を消し去り、周囲の空気の淀みをも解消する、という流れを取ることになっている。この浄化の担当は12人の中で琴葉と千広のみだ。あとの10人は皆、攻撃か防御というのだから、やはり浄化は非常に貴重な能力と言える。
悠火の話を聞き、資料に目を通していると、すぐにヘリコプターは魔形発生地点の近くに到着した。
「総員!急いで現地に向かうように!」
「はい!」
張り切った悠火の掛け声と威勢のいい返事を合図に、実地演習がスタートする。琴葉と千広は最初のうちは出番はないため、いつでも能力を使えるように集中力を高めつつ、怪我人が出た時のための準備をしておく。
救急箱の中身を確認していると、すぐ近くから戦闘の音や掛け声が聞こえてくる。しばらく出番を待っていると、一人の女の子がふらふらと離脱してきた。
「大丈夫ですか!?」
「ど、どうしたの?怪我?」
二人とも焦って声をかけると、震え声で女の子が言う。
「ご……ごめんなさい、私……怖くて……」
琴葉と千広は顔を見合わせる。討伐配信を見たことがあっても、実際に魔形と対面するのは初めてなのだ。怖いのは当然だろう。
「今日は休んでいましょう、少しずつ慣れていけばいいのです」
「うんうん、ここに座っておきな!私たちはそろそろ出番だけど、防御の人たちが交代で見にきてくれるはずだから!」
「ありがとう……ございます」
その子は真っ青な顔のまま琴葉が敷いたレジャーシートの上に座り込んだ。ちょうどその頃、攻撃と浄化の交代の合図が、メンバーが持っている発信機に届く。すぐに防御の能力者のうちの二人が、交代にやってくる。ここは救護班のような役割なのだ。
「浄化のお二人!交代ですわ」
「ええ。お疲れ様です。ただいま、参ります」
「行ってきます!」
琴葉は千広と頷き合い、魔形討伐陣形の中心に向かう。
「浄化を行う!攻撃・防御のメンバーは陣形2に移れ!」
「はい!」
狼のような、もっとおどろおどろしい魔形が周辺に何体も倒れている。弱体化させられて、こちらの様子を伺っているだけの魔形もいるようだ。
「やりましょう!」
「うん!」
琴葉は手を組み、目線の先の木を見つめて集中力を高め、神楽の力を呼び覚ます。一方、千広は自身の足元に手をかざし、中心地から放射状に能力を行き渡らせようとしている。
淀んでいた空気は少しずつ生気を取り戻し、木の葉がが爽やかに揺れ始める。その場に倒れていた魔形たちが消滅し始め、弱体化していた魔形はあっという間に攻撃チームによって片付けられた。そうして、討伐の終わりが見え始めた頃——。
「おうおう、学園のお貴族様じゃねーの。こりゃ、潰し甲斐があるぜ」
「黙れ。さっさと片付けろ」
森の奥から、突如として5人の集団が現れた。皆、三日月を基調としたロゴが左胸についた、クリーム色のマントを着ている。
「いやいや、宣戦布告しねえと俺の気が済まねえのよ——。いいか、今から俺らはお前たち学園の学徒動員メンバーを潰す。この俺たち『革命の会』精鋭がな」
粗暴な男が自身の背中を見せる形でその集団の名前を口にする。浄化を続けていられない状態に、琴葉は祈るのを止めてしまった。そして、気づく。「革命の会」は先日の珀とのデートの時、ショッピングモールで演説を繰り広げていた人たちだ。
つまり、月城のヒエラルキー批判に賛同した過激派ということ。貴族の娘息子が通う学園に目をつけ、まずは警備が手薄な学徒動員から襲ったのだろう。
「我らは住民に被害が及ばないように、国から魔形討伐の任を受けてここに来ている!その邪魔をする者は誰であろうと容赦はしない」
悠火が淡々と返す。
「ああ?正義ぶってよぉ、めんどくせーのがいるなぁ。じゃあ、おめーから遊んでやっから」
「待て、命令に従え」
「あー、めんどくさ。へいへい」
粗暴な男と凍てつくような瞳の男が二、三言葉を交わしたのち、後者が何か合図を出した。開戦の合図だ。メンバーもそれに気づき、すぐに臨戦状態に入る。
「浄化の二人は、僕たちが守ろう」
すぐに防御の能力者のうち3人が琴葉と千広の周囲に結界を張る。千広は突然の敵の出現に怯えているのか、顔を覆い隠していた。悠火とそのほかの攻撃の能力者たちが連携して戦い始めた。魔形との戦いではない。人同士の戦いだ。どこかメンバーの動きが先ほどよりも硬い。とはいえ、敵もそこまでの実力はないようだ。ギリギリこちらが競り勝っている。
すぐに教員や待機していた貴族が救護班と連携して応援を呼び、戦闘に加わろうとしたその時だった。
「へええ?面白いことになったなぁ?ここにいるなんて思いもしなかったぜ」
粗暴な男が結界を突き破って琴葉たちのすぐ近くに迫ってきた。防御の3人が慌てて応戦するが、男の攻撃力の高さに敵わず、その剣先が千広に届きそうになる。
「やめてください!」
その瞬間、琴葉が男と千広の間に割って入り、男が驚いたように後退る。その隙を見計らって、悠火の炎が男を遠ざけた。人を焼くわけではない炎に当てられて、男はただ気絶してその場に崩れ落ちる。
その間に、他の敵は攻撃チームと貴族が倒してくれていたようで、なんとかその場は落ち着いた。
「千広、大丈夫か?怪我はないか」
「……うん、大丈夫……悠火さん、琴葉、ありがとう」
千広は恐怖でしばらく立てなかったが、悠火と琴葉がそばにい続けることで、なんとか帰れるところまで復活する。だが、それからしばらく、千広の顔色は優れなかった。
「魔形討伐自体は完了です。初回にしては連携を取れていましたし、それほど時間もかかっていませんでした。各自、報告書の記入と反省点の分析を忘れないように。それから——」
引率教員が少し逡巡して、こう続ける。
「先ほどの敵は無事拘束しましたが、皆さんに怪我がなくて本当によかったです。これは近くまで侵入を許した私の責任。申し訳ありませんでした。——この後、現場検証にいらしている方からいくつか質問をされるかと思います。答えたくない方は先に学園に戻りましょう。協力できる方は残ってください」
千広は学園に戻ると言った。琴葉は「革命の会」のことを伝えるために残ることにする。悠火は少し迷ったのち、残ることに決めたようだ。千広を見送るとき、とても心配そうにしていた。
「琴葉!!」
聞き慣れた声が、緊張感を一気に緩めてくれる。琴葉が振り返ると、そこにいたのは珀と隼人だった。現場検証の担当が自分の婚約者とは思わず、少し驚いた。
「琴葉が襲われたと聞いて、心臓が止まるかと思った。無事でよかった」
琴葉は去年、一度攫われている。その時のことを思い出してしまったのだろう。珀の目には不安が残っていた。琴葉は珀の腕の中で安心し、ほっと息をつくと、報告を始める。
「珀様。私は無事です。——襲ってきたのは『革命の会』。以前、ショッピングモールで演説をしていた、月城のヒエラルキー批判の過激派かと思われます。左胸の三日月のロゴは、月城のそれと酷似していました」
「あの集団か……」
「琴葉様。ご無事で何よりです。有益な情報、感謝いたします」
仕事モードの隼人がサッとメモを取る。それから、珀たちは戦闘の様子を生徒に聞いて周り、使われた能力の痕跡などを調査していた。
こうして、初めての学徒動員実地演習は、慌ただしく幕を閉じたのだった。



