「うわぁ~~ミレーネの【結界】凄いですね! バルドさま!」
 「ああ! 凄いだろう! なんといっても聖女だからな!」

 俺は【結界】に瞳を輝かせているリエナを見て、少し誇らしくなった。
 ミレーネは本当に立派な大人になった。あの泣き虫な女の子が、聖女にまでなって人々の希望となっている。

 人々の希望であるミレーネの【結界】は、その光の壁をドンドン広げていく。

 俺はリエナとミレーネのいる中央教会に向かっていた。
 宿屋の方はアレシアとセラに任せている。

 といってもミレーネの【結界】はすでに王都全域をカバーし終えているので、宿屋に魔物が侵入してくることも無いだろう。今はナトル王国全土へとその光の壁を広げている最中だ。

 「にしてもバルドさまは本当にアンパンが好きですね~~」
 「はは、そうだな。でもミレーネも負けず劣らずのアンパン好きだぞ~」

 俺が背負うバックパックには、アンパンがたくさん詰め込んである。
 ちょっとした差し入れだ。長時間の激務だろうから、サッと糖分補給できるアンパン。

 これだけの【結界】を広げつつ維持するのは大変なことだ。
 オッサンごときが出来ることなど知れてるだろうが……

 大事な愛弟子が頑張っているのだからな。

 何かやってやりたい。


 ―――ドーンっ!!


 俺たちが目指すその教会から、凄まじい音が鳴り響く。

 「ば、バルドさま! 地面が……!」

 グラグラと揺れる大地。
 何か異変が起こったようだ。

 「―――とにかく教会へ急ぐぞ!」



 ◇◇◇



 「バルドさま~~教会に近づくにつれて揺れが大きくなって……な、なんですかっ! あれ!!」

 リエナが驚愕の声をあげた方向には、半壊した教会から何か大きな半円ドームのようなものが見える。

 「まさかっ……魔物ですかっ!」
 「ああ、そのようだな」
 「で、でも! ミレーネが【結界】を広げているのにどうして魔物がいるの!」

 たしかにリエナの言う通りだが、現に魔物は暴れている。
 まずはこいつを何とかしないとダメだ。

 オッサンでも対応できる魔物ならいいのだが―――


 教会に近づくにつれて魔物の全貌が明らかとなりはじめる。

 「―――ば、バルドさま! あれは!」  
 「ああ……」

 「あれはドラゴンタートル(亀形竜種)!? なんて大きさなの! しかも首が3つもある! これは魔物ランクS級超えてSS級ですよ! こんなのにどうやって対抗すればいいの!」
 「……いや、リエナ。よく見てみろ」

 「ええっ……良く見るというかデカすぎて、さっきから余すことなく見えまくってますけど……あ! まさか……」

 「あれはドラゴンではないぞ」

 「あ……やっぱり。えと、一応理由を聞いてもいいですか?」

 リエナが何故か理由を聞いてきた。
 誰でもわかると思うが一応説明するか―――


 「―――――――翼がない!!」


 そう、とても単純明快なことである。

 「リエナ、前にも言ったがドラゴンってのは翼の生えた魔物だ(実際に見たことはないけど)」
 「あ……はい」

 「よく観察してみろ。背中に何がついている?」
 「えと……甲羅です……」

 「これでわかったな?」
 「え……どういう」

 「要するにあれはカメだよ。厳密にはカメのでかいやつだ。だからそこまで不必要に恐れなくていいんだ」
 「ええっ! さすがにそれはどうなんだろう……でもバルドさまが自信満々すぎるよぅ……」

 「安心しろリエナ。俺は昔、あれの首8つある奴を討伐したことがある。正直たいしたこと無かったよ」
 「首8っつぅううう!? それ、もう神話に出てくる魔物なんじゃ……」
 「はは、面白い冗談だなリエナ。たしか、ヤマタノなんとかっていうカメだったぞ。ただデカいだけの奴だ」

 暫くの沈黙が続いた後、リエナがなにやらブツブツ呟きはじめた。

 「ふ~~大丈夫! 大丈夫よ、リエナ! ちょっと解釈が違うだけなの! カメドラゴンのカメなところが多いと思えばカメよ、あれ! そうよ、バルドさまを信じるの! うぅうう~~リエナ~~ファイトッ!!」

 おお、掛け声まで出して。リエナも気合じゅうぶんだな。
 そうだ、しっかり分析すれば、大抵のことはいくらでも対処できるんだ。


 大きな爆発音から駆け出すこと数分後―――俺たちは教会の入り口に到着した。

 「バルドさまっ! ミレーネが!!」
 「む……」

 半壊した教会の奥に、ミレーネがいた。
 彼女は魔物から子供たちをかばっているようだ。

 ―――ミレーネ……

 頑張ったんだな。

 本来ならこんなカメごときに、ミレーネの【結界】が破られるわけがない。
 礼拝堂に大きな穴が開いている。恐らくは地中から出てきたのだろう。普段のミレーネなら魔物の接近を察知できたかもしれないが、【結界】の展開に多くの力と注意力を割いているからな。

 それでも頑張ったのか。
 無理を押してでも。
 彼女の表情をみればわかる。

 必死に恐怖と戦っている。

 ―――さて、俺も彼女の元先生だ。

 だったら……

 弟子ばかりにやらせるわけには―――


 「―――いかないなぁ!」


 俺は地に両足をしっかりと固定して、グッと拳を握る。
 一気に【闘気】が全身を巡りはじめる。


 グゥウ! グゥオオオオオ!


 カメの首のひとつが、ミレーネと子供たちを包む結界にむけて大きな口を開く。

 「あ、あの光は……まさかあんな至近距離でブレスを吐く気なの!?」

 リエナが、緊迫した声を上げる。

 ―――ぶれす? 吐く?

 ああ、こいつもか。宿屋を襲撃したトカゲと同じだな。
 前回のやり取りでオッサンは完全に理解しているぞ。これはアレ(ゲ〇)を吐く気だ。


 俺は、地を蹴り。でかいカメとの距離を一気に詰める。


 ―――神聖な教会で、聖女や子供たちにそんなもの吐くんじゃないぃいいい! この不届き者が!


 「―――【一刀両断】――――――せいっ!」


 俺の掛け声とともに、カメの首が宙を舞った。