『極大魔力ゴーレム砲塔損傷! 再装填不能!』
 『げぇえええ! 極大魔力ゴーレム砲を斬りやがったぁああああ! なんだあのオッサン!』
 『闇のスモークも全て消失しました! スモーク噴出口破損! 使用不能!』

 なにやらデカゴーレムの頭の上で、損傷やら破損やらとヤイヤイ騒いでいる。
 だから言わんこっちゃない。故障している機械を無理に動かせば、もっと故障するんだ。そんな事誰でも知ってるぞ。

 『クソ~! しょせんオッサンだ! 叩きつぶしてやる!』

 ズズズとデカゴーレムが右腕を振り上げたかと思うと、一気に振り落としてきた。

 が……

 ―――遅すぎる!

 「一刀両断! せいっ!」

 俺の斬撃が、デカゴーレムの拳に直撃するとパックリと二つに割れてボロボロと崩れ落ちる。

 やはりだ―――手応えが無さすぎる。

 『右アーム損傷! 五指部分は完全に消失!』
 『なんだとぉおお! バカなぁあ!』

 想像以上に深刻な故障らしいな。もはやただの木偶人形だぞ。俺のような一般兵にさえ押し負けている。

 『ふざけるな! 魔道具大国ノースマネアの最高傑作を舐めるなよぉお! 魔力ゴーレム砲! 魔力ガトリングガン! 魔力迫撃砲! 全ての砲門をひらけ!』

 なんだ!?

 デカゴーレムから筒みたいなのがいっぱい出てきたぞ!

 ―――まさか!?

 『全兵装同時使用! フルアタックだぁああ! 残存魔力が尽きるまで撃ちまくれぇ! 射撃開始ぃいいい!!』

 筒の先端から、魔力を帯びた光がこれでもかという程、飛び出してくる。

 やっぱり!

 ―――魔力漏れしまくりじゃないか! 完全に壊れ始めたぞ!

 俺は再び【闘気】を練り上げて、体内に循環させていく。

 「もういい加減に休ませてやれぇええ!」


 ――――――【一刀両断!】

 「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」
 「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」

 「うぉおおお!!!」

 俺は全ての光に一刀両断の斬撃を浴びせ続ける。

 魔力漏れをここまで起こすなんて完全に不良品状態だぞ! そんなものを動かすんじゃない! 周りの迷惑も考えろ! 

 『うわわぁああ! オッサンが全ての砲撃を斬りまくっています! もうわけわかりません!』
 『バカ者! わけわからんとはどういう報告だ……って、本当にオッサン全部たたっ斬ってやがるぅうう! せいせい言ってるぅううう!』

 俺は【闘気】を込めて【一刀両断】を放ち続ける。
 所詮は故障により漏れ出た魔力だ。さしたる威力があるはずもなく、こんなもんいくらでも対応できる。

 斬りまくること数分、だいぶ漏れ出てくる魔力の光が少なくなってきた。

 『魔力残量あと5%! 30秒後に尽きます! オッサンの斬撃止まりません!』
 『バカな……フルアタックだぞ……全ての火力を使用しているんだぞ……あんなせいっせいっ意味不明なこと言ってるだけのオッサンに……』

 ついにデカゴーレムは沈黙した。
 魔力の光はいっさい飛んでこなくなる。

 『もう魔力が残っていません! メイン魔導エンジン停止!』

 どうやら魔力漏れはなんとか止めることが出来たらしい。
 だが、デカゴーレムの頭の上はずっと騒がしい。また新たな問題が発生しているのだろう。

 さて……スゥウウウウウウ

 俺は今日一番深く息を吸い込み、下腹に力を入れる。

 【闘気】が俺の体中をめぐっていく。オッサンにできる限りの最大「闘気」を練り上げていく。

 安物の愛剣を正眼に構えなおして―――呼吸をスッと止める。


 「うぉおおおおおおお! これで最後だ! 一刀―両―――断! せい―――っ!!」 


 俺はデカゴーレムに渾身の一撃を脳天から見舞った。


 ―――カチンッ

 剣を鞘に納める音とともに頭部から下に向かって一筋の剣閃が入り、デカゴーレムの体が2つにズレていく。

 『バカなぁあああ! 最高硬度のキングゴーレムを剣で斬るだとぉおおお! あのオッサンなんなんだぁああ! ふわぁあああ!』

 なるほど、本来であればオッサンごときが斬れるような代物ではないのだろう。
 あらゆる装備が正常に機能していれば、俺には近づくことすら出来なかったのかもしれない。

 だがな―――

 「整備不足の故障機械ぐらいなら、オッサンでも十分対応可能だ!」

 左右に完全に真っ二つとなったデカゴーレムは、ズズーンと、大きな地鳴りを立てて崩れていった。

 その瓦礫の山から数人の兵士がはい出てきて、指揮官らしき奴が叫んでいる。

 「全軍退却~~!!」

 その声をかわきりに、ノースマネアの残存兵は退却を開始する。

 「クソ~~あのオッサンは悪魔だ!」
 「うわぁああ~キングゴーレムがやられたぁ、なにあのオッサン~」
 「くそ~ここまでして何の戦果もあげずに本国には帰れん。退却しつつ残存兵力を再編成。こうなったら山岳部隊に合流する! 現地の2号機の稼働準備をさせろ!」

 戦場にいた敗残兵たちが何やら叫びながら逃げて行った。

 ふぅうう~~なんとかなったな。

 流石に動きまくったから、オッサン汗ぐっしょりだ。
 白ティーシャツがヤバイ……早く宿屋に帰って着替えたいよ。

 「アレシア! 大丈夫か?」

 俺は、アレシアの方を振り向いた。かなり弱っていたからな、苦手な暗闇で随分と無理したのだろう。
 アレシアの傍には、リエナとヌケテルもいた。

 3人とも目を見開いて俺を凝視している。

 もっと言えば、周辺にいたナトル兵たちも同じくだ。
 みんな固まって、若干プルプルしている。


 え、もしかして……


 ―――俺、臭ってる?