深夜の月光が、荒野を銀色に染める。あの夜、アツィルトは白黒保安官の襲撃から富士を救った。富士は白城出身の白の上級保安官、純白の肌と髪を持つ異邦人。白黒の影が彼を狙う中、アツィルトの灰色の瞳は一瞬、慈しみを宿した。屈強な体で敵を払い、富士を隠した。だが、それが病の引き金だった。
非定型うつ病は忍び寄る呪い。ホモゲイの如く、心を蝕む。アツィルトは冷徹な実務家だった。カバラ国の基盤を築き、石の壁を積み、法を刻んだ。情に厚い守護者として、仲間を支えた。だが、病は喜びを奪い、愛の渇望を植え付けた。
「あれ？ 俺って生きてて意味ある？？？」と、彼は呟き始めた。友情が歪み、信義が負担となる。
国が完成した夜、彼は私を呼んだ。
「エイン=ソフ、お前は虚空だ。感情に縛られぬ。お前が国を管理してくれるか……吐きそう」
灰色の瞳に絶望が満ちる。私は頷いた。彼は短剣を胸に沈め、血が深夜の土に染みた。体は倒れ、風が哀歌を奏でた。強靭な肉体が、精神的脆さに屈した瞬間。守護者は自らを犠牲とし、建国の喜びを崩壊の予感に変えた。
私は彼の遺体を埋め、虚空として思う。救済は犠牲を伴う。アツィルトの死は、最初の亀裂だった。