気づいたらそこは、病院のベットの上だった。
体の調子が最大限良くなかった。
「音葉!?」
「音葉、目が覚めたか!」
横にいた母と父の声がした。
「お母さん、、、お父さん、、、」
私は裏山で倒れたことを思い出した。
…あっ宮春君、、、
「ねえ、私と一緒にいた子って、、、」
母は目が覚めるなりいきなり話し始める私に呆れた様子で話し出した。
「あの子ね、救急車呼んで車の通りやすい道まで運んでくれたのよ。」
「え!本当、、、?」
「ああ、男の子だって聞いたときはびっくりしたけどな。真面目そうだし、同じ学校らしいしな。」
父も言う。
…そこまで分かってるのか、、、
「奏汰は?」
聞くと二人とも目を逸らす。
「さっき帰っちゃったのよ。」
「そっか。」
母は迷いながら聞く。
「あなたといつもいる友達って、あの子?」
「うん、、、」
父は不思議そうに言った。
「彼氏じゃなくて?」
「そうゆうんじゃないよ!」
…関係性は難しいけど、何だろうこの気持ち、、もしかして本当に、、、
気づいていた。
本当は創輝が好きなことは分かっていた。
…だけど、、、
私にとって創輝はかけがえのないほど大切な存在になっていた。
心臓の痛みなんて忘れてしまうほどに。
笑っていて欲しいと思うし、何度もそうさせてくれた。
病気のことも、あの願いすら呟きたくなる。
父と母が一度帰った後、私は窓の外を見ながら口に出した。
「これ以上、一緒にいるべきじゃないのかも、、、」
「何で?」
驚いて声がした方を向く。
「奏汰、、、」
久しぶりに顔を合わせた弟がいた。
「荷物頼まれてただけだから。」
そう言って荷物を置く。
「ありがとう。」
でも奏汰は振り向かずに歩いて行ってしまいそうだから呼び止めた。
「奏汰。」
奏汰は立ち止まって私に言った。
「あの人のことも、突き放すの?」
何だか刺さってしまった。
奏汰も私が莉穂と玲花に会わなくなったことを知っていた。
多分創輝のことも一緒にいるのを見たことがあったのかも知れない。
私は、頑張って笑顔で言った。
「あの人は優しいから。」
「意味わかんない。だから嫌なんだよ。」
そう言って出て行ってしまった。
「優しい人に、重荷を背負わせちゃ可哀想だから、、、いつか分かってくれると思うんだよね。」
私は独り言を呟いた。
結局入院は早めに終わらせて家に帰ってから、裏山には行かなくなった。
外に出られるほど体調の良い日がかなり減ってしまったのもあるけど、創輝に会いたくなかったから。
母も当然心配した。
「あの子に、会わなくて良いの?連絡とかしないの?」
「うん。そのために連絡先も交換しなかったから。」
私は窓の外を眺めた。
「そう、、、」
母は部屋から出て行った。
この日は一月一日、初日の出だった。
「怒ってるかな、、、いや、そうゆうタイプじゃないか、、、」
創輝のことは気になったけど、あまり気にしないようにするしかない。
奏汰の言葉が耳に残る。
『あの人のことも突き放すの?』
あの言葉が出てきたのは、私と二人の友達との距離の空き方を近くで見ていたから。
多分心配してくれたんだと思う。
でもまた同じようなことをしようとしてる私を変に思うのも無理はない。
弟とは余計に距離が空いた。
結局あれ以来話せていない。
せっかく持った希望を、歌うなんて出来なかった。
私は何度決心してもダメだった。
何もやるべき事は解決しなかった。
こんな私でも、みんな悲しんでくれるような優しい人たちだ。
…これが今の私のやるべきことなのかもなー
何をするべきかなんて、本当は分かっていたのに。
人に気を遣われたくないわがままな奴で、甘えすぎるのも嫌で、これ以上関わってはいけない気がするという自分の勝手な判断で約束も守れない。
だからこれで最後にしたいと思った。
お父さんとお母さんに何か返すこと。
奏汰に何か言うこと。
莉穂と玲花に謝ること。
「創輝、、、」
私は創輝に言葉をかけたくてかけた。
本当は自分に言うべきことだったからスラスラと出てきたことだった。
創輝にとって何か力になれたのなら良いけど、結局自分は出来ていないから、あまりにも無責任だったと思った。
そんなこと分かっていたのに、1日を無駄にしていった。
「今、みんな何を思ってるんだろう、、、」
父と母はこの先のことを考えているのか。
奏汰も、莉穂も、玲花も、話すくらいの仲ではあったクラスメイトも、私をどんな人だとか思っていたのか。
創輝にとって私は、私は今もいるのか。
そしてあることに気付いた。
…音が聴こえない
感情や景色や雰囲気で感じていた音も、リズムも、旋律も何も感じなかった。
…いつから聴こえなくなったんだろう、、、
「バカだなー、私は、、、」
みんな、大切な人だったのに。
紛らわすように音楽をかけて、ただ聴いていた。
目に熱いものが浮かんだから、開くことはできなかった。
