「よし!今日は行ける!!」
…でもたまには裏山以外も行ってみようかな。
まだ昼前なので町を散歩することにした。
「音葉。」
母の声がした。
「一人じゃ危ないって何度行ったら分かるの?」
その言葉は正論だ。
だけど母も父も仕事があるんだから仕方ない。
そして今日は休日だから尚更外に出たい。
「一人じゃないもん。」
…あっ言ってしまった、、、
「誰と?」
せめて夕方、創輝と合う時間にすれば良かったと後悔した。
「友達!何かあったら連絡するから!!」
「あっちょっと走らないでよ!?」
「分かったから!」
勢いに任せて出てきてしまった。
…どこ行こう、、、
ブラブラと町を歩く。
田舎なので人通りは少ない。
今日は比較的あったかくて過ごしやすい。
…久々に宮春君と話したいなー
「あれ、明道さん?」
「え!宮春君!?」
偶然、家の近くの道で翔太に会った。
いつもと違ってパーカーを羽織ったジーパン姿で私服だった。

「久しぶりだね。」
創輝は歩きながら言った。
「うん。今日は遊びに行く途中?」
「いいや。ぼーっと散歩だよ。明道さんは?」
「私も、そんなところだよ。遊びに行く友達もいないし。」
私がそう言うと、創輝は少し考えてから言った。
「なら、一緒にどこか行かない?」
「え!?」
初めて裏山以外で会った創輝と出かけることに。
行き先は高校生っぽいところをメインで行こうと言う話になった。

「やっぱ海でしょ!」
私たちは少し電車に乗って遠出をした。
着いた時、創輝は言った。
「確かにと思ってついてきたけどさ、今冬だよね?」
「、、、」
私は内心やらかしたの気持ちでいっぱいだった。
でも、創輝は言った。
「冬の海も、綺麗だね。」
「え?」
私が聞き返すと、創輝は笑った。
「寒くて入れなくてもさ、この冬でしか見られない景色もあるし!」
私はその言葉を聞いた時、冬という季節への感覚が変わったような気がする。
自分にとっての冬は、命が尽きてしまう、寒く、冷たく、終わってしまう季節なんだと。
他の季節が戻ってほしいとか、次の季節も生きてみたいとか、とにかくこの季節を好きになれなかった。

でも、目の前の創輝の表情に釣られた。
…本当に、優しく笑うんだなー
冬も綺麗、そんな単純なことも忘れていたなんて。
この冬も、どうせ最後ならもっと一生懸命幸せに生きたい。

私は声を出した。
「私ね、やるべきこと、全然出来なかったよ。」
それを聞いた創輝は、私を見た。
でもまだ私が話そうとしているから何も言わなかった。
「私、悩んできたことも、どう解決するべきことなのかも分かってるの、、、時間だって、いつ終わるかわからないのが人生だって自分で言ったのに、いつまでも行動できない、変わらないまま、、、」
それ以上言えなかった私は、同時にこんな話をまたしてしまったという後悔をした。
だけど、黙ってよく聞いてくれた創輝は口を開いた。
「時間は、確かに有限で、でも、やらなきゃいけないことなら、もっといっぱい考えていいと思うんだ。」
…考えていい
その言葉を、その表情がまた、頭から離れなくなる。
「人生の終わりは次の瞬間かも知れないし、逆に案外長く続くかも知れない。」
「そう、なのかも知れないね。」
私は思わず笑みを溢した。
「宮春君は本当に凄いよ。」
「え?」
「本当にその通りな気がしてきた。」
私が言うと、創輝は少し迷った表情をした。
「そんな事はないよ、、、明道さんの方がよっぽど凄いと思うよ。」
「宮春君、、、今はまだ、心の準備ができるまでは、このままでも良いかな?」
創輝はあの優しい笑顔を見せた。
「俺は良いと思うよ。」
私は思った。
多分この人には、他の人とは違う何かがある。
だからきっと何度も会いたいと思って、話したいと思ってしまうんだ。

だけど、凄さや優しさと同じくらいあるのは、悩み顔。
創輝は明るく落ち着いたように言おうとしているのに、分かりやすいくらい迷うような、悲しいような顔もしている。
…聞いてあげられたら一番良いんだけどな、、、
一歩の勇気も出せないまま。
私だって笑って誤魔化すことが日課だから。
…宮春君から私はどう見えているんだろう
そう思ってしまうほどに。
そしてこの人なら分かってくれるんじゃないかという淡い期待さえ抱いていた。
…何考えているんだろう、私は、、、

「そろそろ日が暮れるし、帰ろっか。」
創輝が言った。
「うん。」
私を見て、また何か思ったような顔をしていた。
もしかしたら言いたいことがあったのかも知れない。
だけど、すぐに元の表情になった創輝は言いたくないと思ったのかも知れない。
無理に聞くのも何だか嫌な気がした。
…私にできることって何だろう
一言声に出た。
「またどこか行こうよ。」
それが今の私に言える言葉だった。
「うん。行こう。」
そう返す創輝と、また電車に乗って帰った。

「今度はどこ行きたい?」
別れる時、創輝に聞かれた。
「今回は私が決めたから翔太の行きたいところに行ってみたい。」
「えー俺のー?」
「うん!」

そう話してから、私たちは出かけるようになった。
お互いの行きたい場所を巡って。


ご飯を食べに行った。
「おいしーね。」
「うん。凄く。」
カフェにも行った。
「おしゃれー!でも、」
「たっか、、、」
勉強をした。
「うーん、、、」
「ちょっとリタイアしたい、、、」
そうゆう時間を過ごしていた。

結局あの裏山に行く回数が一番多かった。
「いつも見てるのに、何でこんなに綺麗なんだろうね。」
私は夕焼けを見ながら言った。
創輝も続けて言う。
「そうだね。空のグラデーションとか、、、」
「あの雲とか、光の当たり方とか!」
楽しく話してしまう。
私がこの空が好きなのは、多分沈んでいく陽と自分を重ねているからかもしれない。
こんな風に綺麗に落ちていけたら良いとか、そう見えていて欲しいとか思っていた。
空や自然のように、そうゆう最後を迎える事を望んでいたのかもしれない。
そんなことを思っている、それも含めて私の声だった。

隣にいる創輝を見た。
この人は本当に優しくて、欲しい言葉を自然とかけてくれる人だった。
ふと、思ってしまったことがあった。
…その深い瞳の奥には何が見えていて、その表情に秘めた寂しさや心で思っていることはどんな事なんだろう、、、
創輝は私に気づいて私を見た。
口につい出てしまった。
「ねえ、宮春君、、、」
「なに?」
にっこりと微笑んでいる。
「私の声を覚えていてくれないかな、、、?」

そう口にしてしまった瞬間気づいた。
…やってしまった、、、
絶対に言わないと決めていたのに。
創輝は目を見開いて驚いていた。
そしてそっと呟いた。
「それってどうゆう、、、」
「なーんてね。」
「え?」
自然と誤魔化した。
「ほら、私って話すこととか好きじゃん?顔とかよりよぽど自信あるし、だから何となく、話してる時間が長い宮春君に、今の私の声覚えてて欲しいなーって。」
創輝は不安そうな顔をしていた。
「そんなに深い意味はないよ?」
私が言うと、考えながら言葉にした。
「大人になったら、声が変わっちゃうから?それとも、この町からいなくなったり、、、」
言いかけて創輝はやめた。
私の目を見て、きっと深入りしない方がいいと思ったのかもしれない。
ただ、大丈夫だと思ってもらえる笑顔を見せることしか出来なかった。
創輝は少し悩んだ後、私の目をまっすぐ見た。

…やっぱ綺麗な目、、、
音が聞こえた。
混ざりながらも真のある音だった。
「その意味を、探しても良いかな、、、?」
私は驚いて顔に出てしまった。
だけど、少し笑みが浮かんできた。
「深い意味なんてないよ。」
それだけ伝えた。
何としてでも病気のことは、残りの時間のことは伝える気にはなれなかった。
その意味を知って欲しいとか、叶えて欲しいとか思ってはいけないと感じた。
これ以上の願いはしまっておこうと思ったから。
落ちていく陽の光が差し込んだ時だった。

そんな一件があった後も、変わらずに会って過ごしていた。
体調は本当に運が良くて、調子の良い日は本当に問題なく過ごせてる。
だから、創輝にも気づかれないようにできている。
そうやって過ごしていたら、12月も終わりが近づいていた。
出会ってからわずか一ヶ月で本当に友達みたいで、青春みたいな気がしていた。
同時に、私の寿命はどんどん短くなっていく。
突然、創輝の前から消えてしまうかも知れない。

いつしか、母に言われた。
「誰と会っているのかは知らないけど、仲の良い子なら尚更、言うべきじゃない?」
いつ死ぬか分からないのだから、と伝えたかったのかも知れない。
それは私が一番よく分かっていた。
それでもあの、かつての友人のような、親戚や先生から向けられてきたような反応を、何とも言えない表情をもう見たくない。
声を出してくれない、欲しい言葉をくれないことが嫌だから。
私は我儘だから。
「今だけは、、、」
そう小さく呟いた。
この青春に近づいた日々が、大切だった。