私は前よりずっと、あの場所に行くのが楽しみになった。
あの裏山の上に行けば創輝がいる。
私が近づくとすぐにこちらに気づく。
「こんにちわ。明道さん。」
「こんにちわ。宮春君。」
相変わらず丁寧に挨拶する。
まあまだ友達と呼べるほどの関係なのかは怪しい。
でも、ただ一緒にいると心地よかった。
好きな色とか、本とか、空とか、何ともない話だった。

これがびっくりするほど趣味が合う。
淡い色が好きで、それ関連の空が好きだった。
特によく見るこの夕焼けが好きだと言うことも一緒だった。
小説なら青春恋愛系で、漫画だと戦闘系が好きだった。
「なぜかね、自分とは無関係の眩しいものばっか好きになるよ。」
そう言った創輝に凄く納得した。

だけど、この日は少し踏み込んだ事を聞いてしまった。
「学校は楽しい?」
「え?」
私が聞くと、創輝は驚いた。
そして私に言った。
「俺は嘘をつかないよ。」
「うん。正直な感想が欲しい。」
これは純粋に気になってしまっただけ。
創輝の学校での様子が知りたくなった。
私は学校にはしばらく行ってないし。
「勉強も運動も得意じゃないし、友達も少ない。部活も今はやってないし、楽しいとは思ってないよ。」
創輝は少し下を向いて言った。
その声は下がったような音で、悲しさを感じた。
「私と似てるって言うのはダメだよね、、、?」
考えるより先に言葉が出てしまった。
「え?」
驚く顔は本当に分かりやすい。
「学校、行ってた時の話。」
「明道さん、、、」
私はかなり踏み込んだことをしてしまったと少し後悔していた。
心の中では。
ても、創輝は言った。
「似ていたから、少しだけ似ていたから、ここで出会ったのかもしれないね。」
「似ていたから、出会った?」
私が聞くと創輝はまた、微笑むような顔をして言った。
「クラスも違うし、本来は顔を見たことがあるような気がするってだけだった。」
「うん。」 
「でも、一人同士、上手くやれるって運命やそれ関係のものが判断したのかもしれない。お互い、好きな場所でね。」
少し空を見上げる創輝は、この澄んだ風の響きによく合っていた。
だから私は言った。
「何だか、宮春君、名言っぽい。」
「えっ恥ずかしいからその言い方やめて。」
創輝は初めて照れたような顔をした。
雰囲気は明るくなって、そうゆう音が広がる感覚がした。
「宮春君は、優しいよね。」 
私が言うと、創輝は困ったような顔をした。

「優しくなんてないよ。とんでもなく捻くれてる。俺は、繰り返される人生に飽き飽きしていたのかも知れない。」

…本当によく似てる、、、
私もそうだった。
何にも出来ないくせに、ボーッと生きるようになっていた。
そんなことすら考えられない時代も場所もあるのに。
恵まれてない訳じゃないのに。
…でも、、、
いざ死ぬと分かれば、学校も、友達も、家族も、趣味も、全部もっとちゃんと大事にすれば良かったとか後悔した。
自分が何でこの声を忘れられることが悲しいのか考えるべきだった。
その意味を分かってもらう努力をすれば良かった。
…もし、宮春君も私と似ているなら、同じ後悔をしてほしくないし、ちゃんと意味を持って過ごせる日常があればいいのに
そう思ったけどすぐに思い直した。
…私の意見を押し付けるのも違うか

「明道さん?」
「あっごめん。宮春君の気持ち、少しだけ共感しちゃったから。」
私は少し笑みをこぼして言うと、創輝は少し真剣な表情になった。
「もっと子供の時は、人生に希望を持っていたよ。未来の怖さに気づいてしまったら、もう楽しくなくなっちゃうのかもね。」
「それは、、、」
「でも不思議だよね。明道さんみたいな人、見たことないよ。」
「私みたいな人?」
創輝は優しい笑顔になった。
「明道さんに会った時、その優しさや暖かさを持った声で話した時から。全部をボーっと生きるのはまだ早いと思ったんだ。」
その時私は、何か重いものが一つなくなった感覚がした。

そして創輝は聞いた。
「明道さんは、どう思う?」
…私は、、、
考えながら話した。
「宮春君とほぼ一緒だよ。」
「えー本当?」
「本当だよー。」
…そう、もしも人生が終わった時に後悔しないように
私は立ち上がって創輝に向き合った。
「もう一度、一つでもやっておくべき事をやろうと思うの。」
「やるべき事?」
「うん。人生終わる前にね。」
私が言うと、創輝の口が小さく開いた。
私は言葉選びが下手だと気づいた。

創輝が心配そうな顔をした。
「人生は、いつ終わるか分かんない物だから。」
そう付け足すと、創輝は納得したような顔をした。
「そうだね。何が起こるかなんて分かんないもんね。」
そう言った創輝に、私は続けて話す。
「人間は大半の人は、ない物ねだりだと思う。だからきっと、今ある物を当たり前に考えててそれ以上のものを求める。そしてそれが無くなってしまえば後悔する。よく聞く話で実感なんてなかったけど、やっと少し分かったよ。私は、無意識に諦めすぎてたよ。昔から、ずっと。日常が変わってからはもっと。」
…余命のことで分かった気になっていたけど、似ている人を見ることで、自分を客観的に見ているような気持ちになったなー

私が長々と言っている間に段々創輝の表情が変化していることに気づいた。
「ごめん、長かった?」
すると創輝は首を振った。
「いや、そうじゃなくて、俺も今までその言葉をよく分かってなかったんだ。でも、明道さんが話すと、その言葉に色がつくみたいで、風が音を纏っているみたいな感覚になったんだ、、、」
思っていたよりイキイキと話す創輝に少し驚いた。
そして創輝は我に帰ったようだ。
「ごめん。テンパって思ったこと変なこといっぱい、、、」
私は笑いかけて言った。
「そんなことないよ。でも、思ったより素直なんだね。」
「それどうゆう意味?」
「別にー。」
二人で本音まじりに話してから声を出して笑った。
創輝が思い切り笑ったその時は、その周りの雰囲気が全部集中するみたいな景色が広がった。

そして創輝も立ち上がった。
「俺ももっと、やるべき事をするよ。無意識に諦めようとしないように。だから、ありがとう。」
そう言う創輝に私は言った。
「ありがとうはこっちのセリフだよ。」

一つ思った。
…この人は本当によく聞いてくれる。
言葉の意味を考えてくれる。
重ね合わせて、理解しようとしてくれる人だった。

私の日常の音がもっと明るい音楽らしいものみたいになった。