2日ほど体調がすぐれなかったけど、今日は大丈夫。
でもまた夕方になってしまった。
「あの子いるかな、、、」
男の子とまた被ってしまったら申し訳ない。
でもどうしても行きたかった。
どんどん坂を登っていく。
…あ、、、
案の定、あの男の子はいた。
…うーん、どうしよう
後ろ姿は本当に景色に夢中なんだと分かる姿だった。
その時、こちらの気配に気づいたようで振り向いた。
「あ、、、」
男の子が言う。
私も声を出した。
「あー、いや、私、邪魔をしようとは思ってなくて、私もただ景色と音を楽しみにしてるだけで、一人が良いって訳でもないし、だから帰る必要はないから!」
…やっば、話しすぎた
男の子は少し驚いていたけど、一言呟いた。
「なら、少しだけ話せないかな?」
「え、うん、、、」
驚きながらも頷いた。
岩に座って話し始めた。
「まず俺の名前は、宮春創輝(みやはるそうき)。高校二年。」
自己紹介をしてきた。
私も名乗ろうと声に出した。
「宮春君?私の名前は、、、」
「明道、音葉さんだよね?」
「え!?どうして、名前、、、」
自分の名前を知られていることに驚いた。
だって恐らくこの宮春創輝との面識はなかった。
「別に前から知ってた訳じゃないよ。ただ、この前会った時にどこかで見たことあるって顔してたし、制服が同じだから。だから君を少し探したんだ。」
「学校を見て回ったの?」
「同学年だけね。」
淡々と話しているけど、私はその文に違和感を覚えた。
だから聞いた。
「なら尚更、、、」
言いかけた先の言葉が見つからなくて悩んでいたら先に創輝が言った。
「この数日はまだ分かるけどさ、今日会って確信したよ。」
その言葉に、私は目を見開いた。
「、、、君はどうして制服を着てここに来るの?」
続く言葉に口も開けっぱになってしまった。
その言葉の意味がわかったから。
私は頭にあった言葉を言う。
「可愛い制服を、毎日着るのも高校生らしいと思ったから。その行き先が学校じゃなくても。」
そう答えると創輝は正面を向いて言った。
「そうなんだ。」
それ以上は聞かなかった。
そう、私は学校には通っていない。
確かに学校に行ってないのに制服を着て不登校なんて不自然にもほどがある。
でも学校で倒れるのもまずいし、余命のこともあるからそこで死ぬ可能性だってある。
二年の春が終わってからは全く。
先生以外はただの不登校だと思っている。
誰が不登校なのかはクラスと名簿と人の口から簡単にわかるんだろう。
…にしても名前と一致させられるなんて顔が広いのか、ただ一度裏山で会った人を調べる時間があるほど暇なのか、よく分かんないな
そんな事を思いながら景色を見ていた。
ふと思いついた事を言った。
「宮春君はここにずっと通ってたの?前はこの時間帯にいなかったよね?」
創輝は少し間を開けて言った。
「部活を、やめたから。」
「そうなんだ。」
沈黙が流れてたから、創輝に思いついた言葉を言った。
「私、この場所が好きなんだー」
私が言うと、創輝は微笑んだ。
「俺も好きだよ。君と同じで、景色も、音も、こうゆう空間が好きなんだ。」
楽しそうに話す姿は、何だか心があったまる。
あったかい音が伸びやかに広がる
「私、学校行ってないから、家族以外の人と話すの久しぶりだったんだ。」
家にこもってばっかりの私は本当に友達がいないから。
「俺も、そんなに友達いないから。」
「え?そうなの?」
「うん。あんま目立つほうじゃないし。」
…結構話しやすいタイプだから仲のいい友達くらいいそうなのになー
居心地とか、温かさを持つこの子は、今まで出会った人達と違うのかもしれない。
そして私は、無意識に呟いた。
「また会わない?」
「え?」
「また、この場所に来るんでしょ?だからまた話したい。」
私は我に返った。
…こんなこと急に聞いたら困るよね
「でも、無理にとは言わないから!1人を楽しみに来てるのかもだし。」
慌てて訂正した。
その時、創輝は言った。
「一人が良いなら、わざわざ会うと分かってる時間に来ないよ。」
「宮春君、、、」
創輝はまた笑った。
「また会おう。俺は毎日来てるから、都合の合う日は来てよ。」
「うん!」
…都合の合う日ねー、、、
「よろしくね、明道さん。」
「うん。宮春君。」
この場所で、会う約束をした。
いつか会えなくなるのは分かっている。
…それでも、今だけは、、、
せっかく見つけた同じ景色が好きな人を失いたくなかった。
本当は人と話すのが好きだったから。
友達のような存在が欲しかったから。
