私は、少し速歩きをしていつもの裏山へ向かっていた。
私の名前は明道音葉(あけみちおとは)。
徒歩で行ける距離にある高校の2年生。
この時は11月の最後で凄く寒い。
ブレザーにカーディガンを着ているだけだと満足いかなくなってきた。
日も暮れ始めていて、徐々に暗くなってきている。
もう秋も終わりだ、とか季節を感じたりしていた。
裏山は比較的登りやすく、人けもないことや町全体を見渡せる場所なのでこうしてよく登りに来ている。
ついこの間まで紅葉で溢れていた木も、もう寂しい印象になっていた。
私はふと思った。
前より少し登るのが遅くなったということを。
「ま、登る過程も好きだから良いんだけど。」
独り言で呟くけど実は内心嫌な気がしていたので、歌を歌うことにした。
木々や川の微かな音に音程やリズムが作られていくみたいに歌に合わさる。
私にはそうゆう風に聴こえている。
他の人とは少し違っていると言われた。
歌っていると頂上の近くに着く。
その横の茂みをくぐって、その先の岩がお気に入りの場所だった。
歌いながらくぐった時、そこに誰かがいるのが見えて口を閉じた。
日が当たっていてよく見えない。
…えっ先約なんて初めて、、、
そう思っていたら振り向いてきた。
驚くとそれは同じ学校の制服を着た男の子だった。
髪はまっすぐの短めでしっかりとした黒で、よくハイライトの入った目だった。
目があった時、私は風が吹いたような景色になったことを感じた。
今まで聞いた事のないような綺麗な音が一音響いた。
私を見て驚いた顔をしていたけど、たぶん私の方が顔に出ていた。
一瞬固まってしまったことに気付いて、何か言おうとした。
「あっ、えっと、、、」
ただの変人になってしまいそうだけど気まずいから立ち去ろうとした。
足を動かした時、声がした。
「待って!」
男の子が叫んでいた。
「えっ、、、」
驚いて足を止めて振り返った。
男の子が岩から立って、こちらに近づいてくる。
「あのさ、、、俺、もう帰るから、、、」
もう自分はどくからどうぞと言っているのだと分かった。
「いや、それは申し訳ないよ、、、」
流石に帰らせるのは申し訳なかったから言った。
「本当に、帰るつもりだったから!」
「えっあっちょっと、、、」
男の子は走って行ってしまった。
すれ違った時に少しだけはっきり見えた姿。
顔を見ると、どこかで見たことあるような気もしたので、同級生の可能性が高い。
…私と同じでここを居場所にしていたのかな
なんて思ったりした。
多分それは、深い奥のある目と、どこか寂しそうな音が聞こえた気がしたから。
主旋律だとかメロディーだとか言われる音を、周りの音が隠しているような気がしたから。
私は岩に座った。
この場所は町全体を見渡せる。
田舎町だけど眺め良さがあって好きだった。
空が綺麗で、日が沈んでいった。
ふと思った。
さっきの男の子に日が差し掛かった姿を思い出した。
背はすごく変わるわけじゃないし、強そうと言うよりは優しそうな見た目だった。
…何か、綺麗だったっていうか、かっこよかった?
私は我に返った。
「何思ってんの私!」
また独り言を言ってしまった。
…まあ、歌うか、、、
と理屈もなく歌った。
小さく口を開けて呟くように歌っていたけど、段々気持ちが入って思いっきり歌ってしまうのが日課だ。
歌って周りの音を拾って演奏のようになる。
特にこの場所は人目を気にせず歌えるから。
「ん?でも人いたし、会ったよね。」
そう、以外と人けのない見渡しのいい場所には人がいるものなのかもしれない。
「まあいい場所は意外と知られてるってことだよね。」
気を紛らわせた。
その時、胸の奥に痛みが出て慌てて抑えた。
…帰るか、、、
降りることにした。
もうすっかり辺りは暗い。
…また行けば会うのかな?
そんなことを思いながらまた、あの男の子の姿を考える。
あれは夕暮れ時だった。
