ホムラ・シンカ。
 彼女が出身とするのはシンカ家。
 数ある魔法家の中でも優れた魔法家であり、魔法百家と呼ばれる厳選された百の魔法家に長らく君臨している魔法家だ。
 火属性魔法を極めた一族であり、その魔法は湖をも蒸発させる。

 そんな彼女は今、闘技場での一戦を終えた。

「さすがはホムラ・シンカ。圧倒的な力で高校生テイマーを完封!!」

 会場が彼女の勝利に盛り上がっていた。
 ホムラ・シンカはまだ中学三年生でありながら、既に高校生テイマーでは歯が立たないほどの強者だった。
 これまで何度も高校生テイマーとの試合があったが、その全てで勝利している。

 そんな彼女は、孤独だった。
 
 ホムラは腕輪についた三つの宝玉の内、一つに魔力を込めた指先で触れる。すると会場に君臨していた六尾火御は宝玉の中へ戻っていった。

 去ろうとするホムラへ、敗北したテイマーが声を荒くして言葉を掛ける。

「何が最強テイマーだ。たまたま強いモンスターを従えているだけじゃないか。そんなんで勝った気になるんじゃねえよ」

 ホムラはわずかに振り返り、一旦は口を開こうとする。だが悲しげな目を浮かべた彼女は黙って会場を去った。

「くそ……っ」

 会場を去るホムラへ、火御が脳内に語り掛ける。

【良かったのですか。反論せずとも】

「それ必要? もし強者の意味も理解していないのなら、語るにも及ばない」

【確かにそうかもしれませんね。そもそもテイムしたモンスターと主人の関係には魔力の束縛が生じてしまう。どれほど強いモンスターを使役したとしても、主人の魔力が少なければわずかな時間しか活動できない。それに主人の命令に従順な分、主人がいかにモンスターを動かすかという戦略面での知恵も必要。その上で、魔弾や回復魔法などによる支援も主人は行わなければいけない。それがすべてできるあなただからこそ、最強なのです】

「そんなことを言ったらオーバーキルだよ。私は彼にテイマーを辞めてほしいなんて思ってないからね」

【本当ですか? 本当はこう思っているんじゃありませんか。自分と対等に戦えるライバルがほしいと】

「…………」

 ホムラは言葉に詰まる。

【まあしかしそれは無理なことでしょう。なぜならあなたは強すぎる。だからこそ、大人ならともかく、同年代であなたに敵うテイマーは"存在しない"】

 ホムラも内心はそう思っている。
 だからこそ、もうため息は吐き尽くした。
 既に誰に期待をするでもない。ただ退屈に、最強テイマーへの道を駆け上がるだけ。

「誰でも良いから助けてよ」

 火御は何も言えず、ただホムラのそばに寄り添い続けた。
 けれど強者は、現れない。