美織は堤防の上から蒼汰のことをそっと眺めていた。
 夜風が彼女の黒髪を揺らす。月の光の仄明るさが、白い頬を輝かせた。
「夢じゃない」
 最初は自分が見せた願望かと思った。
 だけど、もう何度か顔を合わせている。
 だからきっと夢じゃないのだろう。
「また会えるなんて……」
 そうして、彼女は自身の胸の前でそっと両手を重ね合わせる。
 伏し目がちになると、やや明るい茶色の瞳に漆黒の影が落ちた。
 そうして、一筋の涙が零れる。
「ごめんなさい、私の……」
 桜色の唇が戦慄いた。
「私のせいで……蒼汰……」
 蒼汰が砂浜から消えるまで――美織はその場に立ち尽くしていたのだった。