図書館からの帰り道。
 「大島高校天文部」のチラシが、どうにも蒼汰の脳裏にこびりついて離れてくれなかった。
 打ち消そうとしても、どうしても浮かんでくる。
(藁にもすがる気持ちっていうのは、今の自分の置かれているような感情を言うのかもしれないな)
 ふと……小学生時代に科学館を訪問した際に、父親に望遠鏡をせがんで買ってもらったことを思い出した。
「あの望遠鏡、どこに行ったんだろうな?」
 そんなことを思いながら帰宅したら、案の定というべきか、今度は望遠鏡のことが気になって仕方がなくなってしまい、自室の押し入れの中を探すことにした。
 真っ暗でかび臭い空間の中、漫画やゲームの類なんかを押しのけて、目的のものを探す。途中、埃が宙を舞って目に入って痛かったので、自棄になって部屋を散らかすのは今後は辞めようと決意する。重たいゲーム機の箱を退けて、さらに奥深くに顔を突っ込んだら、ようやく目的の品に辿り着くことができた。
「あった!」
 四角いツルツルした箱は、買った時と比べるとくすんでいた。けれども、取り出した望遠鏡本体は新品同様で綺麗なものだった。
 銀色の円筒はズシリと重い。丸いレンズがキラリと窓から差す光を反射する。
 触れると少しだけヒンヤリする無機物なそれが、なんとなく蒼汰の心を弾ませた。
「誰でも最初は初心者だ。やってみよう」
 どことなく水泳を始めた時の、なんとなく好きになれそうな、そんな淡い期待が胸の内に沸いてくる。
 蒼汰はさっそく望遠鏡を担ぐと、外に飛び出すことにしたのだ。