蒼汰は暗闇の中にいた。
真っ暗だが、なんとなく自分が幼い頃の姿に戻っていることに気付いた。
(ここは?)
キョロキョロしていると、目の前に女性が姿を現わした。
柔和な笑顔を浮かべ、緩やかな髪をサイドに流しており、紺色のワンピースに身を包んでいた。
暗闇だが、彼女の姿だけが輝いて見える。
「母さん!」
声に出した瞬間、周囲が明るくなる。
気付けば本土の七色に光る不思議な砂浜にいた。
幼い蒼汰の掌には、キラキラした流れ星の欠片のような石――シーグラスがあった。
(これは俺の小さい頃の記憶だ)
「蒼汰、強い想いや願いは、必ず貴方の力になって、奇跡だって起こせるわ。だから、蒼汰、あなたの願いも絶対に……」
「ママ……?」
そうして、掴んだ石ごと蒼汰の手を母がぎゅっと握りしめる。
「蒼汰、だけどね、願い事には……」
「ねがいごとには?」
「代償がつきものだっていう話もあるのよ」
蒼汰の母がそっと伏し目がちになった。
「だいしょう?」
「そう、代償。代わりの何かね。願い事を一人で叶えようとしても難しいし、何かの犠牲を払わないといけないかもしれない。一人で願い事を叶えるのは大変なのよ……だけどね」
彼女がふっと頬を綻ばせる。
「もしも、他の誰かと一緒なら、一人だと難しい願いでも、一緒に願えば叶いやすくなるかもしれない」
「誰かといっしょに?」
「そうよ。もちろん、一人だけでも強い願いなら叶うかもしれない。だけど、とてつもなく大きな願いだったとしたら、一人では叶えきれない願いでも――二人なら――誰かと一緒なら叶えることができるかもしれない」
そうして、母が慈しむような笑顔を蒼汰に向けた。
「蒼汰、どんな時でも、母さんは星になって貴方を見守っているから。だから、さあ、まだ貴方が星になるのは早いわ。いいえ、そうね」
母と一緒に握る掌がやけに熱を帯びていた。
「蒼汰、彼女の星になってきなさい。母さんがちゃんと彼女を貴方のそばに送り届けるから」
その時、蒼汰の掌の石が光を放ちはじめたのだった。



