満天の星の下、消えゆく君と恋をする


 数日後、美織の入院先にほのかが面会に現れた。
『ほのか、蒼汰お兄さんのこと、ごめんなさい』
 ベッドの上、ほのかに顔向けできずに、美織はぎゅっとシーツを握りしめる。
 すると、ほのかがケラケラと笑った。
『蒼汰お兄ちゃんのことは、ほのかが気にすることないよ。むしろさ、感謝してる』
『え? どうして?』
『周りの大人たちはさ、無断離院して海に向かった美織のことを悪く言うこともあるけど……』
 笑うほのかの瞳には涙が光っていた。
『お兄ちゃん、あれだけ活発だったのに、最近はずっと引きこもっててさ。もう選手として活躍できないって苦しんでたの知ってたけど、私とお父さん、何にも出来なかった。だけどさ、台風の海にわざわざ海に行ってたわけじゃん。ふつうは行かないよね、そんな時、だからさ、お兄ちゃんはきっと……』
 ほのかの唇が戦慄いた。
 きっと、美織と同じような想像をしたのだろう。
 それ以上、彼女が何かを口にすることがなかった。
『兄ちゃん、あんななったけど、なんだか幸せそうな顔していたし……海の中に入って、あんた助けて本望だったと思う』
 けれども、結局は今の話だって、ほのかの想像でしかない。
 蒼汰が何を考えて台風の海に近づいていたのか、今となっては知る由もない。
 泣きそうになりながら話すほのかが泣かないから……
 ……結局、彼の未来を奪う原因になった自分には泣く権利なんてないと思った。
 それから病気のために入退院を繰り返した。
 病気のことと彼の時間を奪ったことに因果関係はないのだけれど、抱えた罪悪感を誤魔化すのにはちょうど良かった。
『どうせ私の方が先に死ぬのに……なんで、海で死んだのは私じゃなかったんだろう……』
 なんだか胸にぽっかり穴が空いたような気持ちで過ごした。
 そうして、十六歳の夏、主治医から余命一年と告げられた。
 ……ああ、やっと死ねる。
 やっと、彼のいる場所に行ける。
 それまでずっと海に近づくのを避けていたのだけれど……
 きっと最後の夏になる。
 彼が飲まれた場所に行って、別れを告げるのだ。
 たまたま目撃した流星にいつもの願いを投げかける。
『どうか、彼を自由にしてあげてください』
 そうして、もう最後になるだろう海へと近づいたら、衝撃的な出来事に遭遇してしまった。
『嘘……』
 もうすぐ死ぬから、自分にとって都合の良い幻覚を見ているのだろうか?
 それとも、本当に流れ星が見せた奇跡なのか?
 美織の瞳からは涙が溢れ出す。
 そこにいたのは、彼女に生きる希望を与えてくれていた蒼汰の、高校生時代と変わらない姿。
『どうして?』
 ……どうして、あんなところに、あの人がいるの……?
 他人の空似?
 それにしたって似ている。
『あ……』
 忘れるはずがない、忘れてはいけない。
 なぜ五年前と同じ姿で相手が浜辺にいるのか?
 分からなかったけれど、だけど、もうなんでも良かった。
 ずっとずっと胸の中でもう一度会いたいと願っていた彼が目の前にいるのだから。
『また会えた』
 名前を尋ねたら、やっぱり本人だった。
 しかも、五歳年上だった彼と同い年になって過ごすことが出来るなんて奇跡だ。
 もしかすると、自分の死期が近いから、しばらくは幻覚かなって思ってたけど、神様が優しいから蒼汰の魂と会話ができるようにしてくれたのかもしれない。
 だとしたら、身体が弱かった自分でも良かったんだと思えた。
 憧れの蒼汰と一緒に過ごせて、心底嬉しかったけれど、再会してからは「君」としか呼ばなかった。
 ……というよりも呼べなかったのだ。
 だって、名前を呼んだら、今度こそ消えてしまうんじゃないか?
 そんな風に思っていたから……
『消えないで欲しい』
 美織なりの願掛けのようなものだった。
 だんだん一緒に過ごす内に欲が出てきた。
 ……ずっとずっと一緒に過ごしたい。
 彼が他の人には視えなくたって良い。
 それでも、一緒の時を過ごすことが出来るのなら……
 だったら成功の確率の低い手術だって受けてみよう。
 そう覚悟を決めたはずだったのに……