まだ島で暮らす前、母がほのかを妊娠中で、本土の海岸で遊んでいた時のことだ。
どうしてだか七色にキラキラと輝く幻想的な砂浜だった。
幼い頃の蒼汰は砂浜にあるキラキラした石を拾うと太陽に翳した。
『すごい、おほしさまのかけらみたい』
まだ生存していた頃の母が息子に向かって微笑みかけてくる。
『ふふ、蒼汰にはお星さまの欠片に見えるのね』
『うん!』
『これはね……と言って、人魚の涙とか浜辺の宝石だって呼ばれることもあるのよ』
……のところは思い出せなかった。
幼い頃の蒼汰は尋ねる。
『にんぎょ?』
『そうなの、人魚の涙……助けた王子の身代わりに海に還る』
すると、母はふっと頬を綻ばせると同時に少しだけ泣きそうだった。
『蒼汰、強い想いや願いは、必ず貴方の力になって、奇跡だって起こせるわ。だから、蒼汰、あなたの願いも絶対に……』
『ママ……?』
そうして、掴んだ石ごと蒼汰の手を母がぎゅっと握りしめる。
『蒼汰、だけどね、願い事には……』
***
蒼汰の意識が現在に引き戻される。
母が最期に何か訴えてきたような気がしたが聴こえなかった。
(願い事か)
流れ星の欠片とやらに祈ったから、美織は蒼汰と再会できたとはしゃいでいたのだ。
(だったら……もしもその流れ星の欠片とやらを発見できれば、美織が生存できる可能性が高くなる?)
それとも人魚姫の話のように、別の何かの犠牲や代償が必要なのだろうか?
(美織は自分のこと人魚姫みたいに思ってる節があったな)
蒼汰の頭の中には色んな仮説が浮かんでは消えていく。
「俺に会いたいとかでおかしな行動に出たりしないだろうな? ああっ、くそっ、考えばっかりじゃあ埒があかねえ……」
どうせ明日にでも未練を捨てるために海に向かうつもりなのだ。
(最後に美織が前向きに手術に臨めるように、流れ星の欠片とやらを探してやるよ)
美織と過ごして思い出したことがある。
(考えるよりも行動に移すべきだ!)
何も考えずに海に身体を委ねていた時のように、身体を動かすべきなのだ。
蒼汰の胸の内に決意が滾る。
ソファに座ったままのほのかが恭平に向かって声を掛けた。
「そもそもお兄ちゃんはさ……」
「蒼汰がどうしたんだよ?」
「って、きゃあっ、何々!?」
蒼汰がソファの間に置いてあるテーブルの上に置いてあったノートをめくると二人への伝言を書き記す。
ほのかと恭平の目には突然ノートに文字が急に浮き始めたように見えるに違いない。
「この字……!」
「こいつは……!」
残されたほのかと恭平はノートに記された言葉を目にして二人して顔を見合わせていた。
(生者に関わりすぎたら良くないみたいだが、これぐらいは神様も許してくれるだろうさ)
何が起こったのか困惑している二人を家に残して、蒼汰は外に向かって駆け出したのだった。



