思いもかけぬ大ヒットになった。『言葉はいらない』以上のヒットになったのだ。切なく歌うキーボーの姿に若い女性ファンが心を震わせ、酔いしれ、ファンレターが段ボール箱で毎日届くようになった。
しかし、キーボーの人気上昇の陰でタッキーとベスが腐っていた。単調なリズム、単調なベースラインにウンザリしていたのだ。生気のない顔で演奏するタッキーとベスの姿がテレビに映し出されていた。
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「4曲目は元の曲調に戻させてください」
タッキーとベスが必死になって訴えた。
「ダメだ。次も『涙のベル』路線で行く」
企画部長は聞く耳を持っていなかった。
「これだけの大ヒットになったんだぞ。ファンが求めている証拠じゃないか。元の曲調に戻すなんて、とんでもない」
そして轟に向かって、「スナッチにもっと切ないバラードを作るよう依頼してくれ」と命令した。
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部長がミーティングルームから出て行ったあと、部屋は険悪なムードに包まれた。
「やってられないよ」
憤慨するベスにタッキーが同調した。「小学生でも叩けるような太鼓を」と言った途端、スティックを部屋の壁に投げつけた。キーボーがそのスティックを拾い上げて「もう1曲だけ辛抱してやってみようよ」となだめるように言ったが、返ってきたのは溜まりに溜まったベスとタッキーの不満だった。
「お前はいいよな。キャーキャー言われてさ」
「そうだよ。テレビでアップにされるのはお前の顔だけじゃないか。俺たちはまるでバックバンドみたいで、やってられないよ」
2人は憤まんやるかたないというような表情でキーボーを睨んだ。
「そんなこと言うなよ」
さすがのキーボーも気色ばんだ。
「ちょっと、落ち着いて」
轟が割って入ろうとしたが、2対1の睨み合いを終わらせることはできなかった。
「とにかく、やってられない!」
ベスがドアを乱暴に開けて出て行った。
「冗談じゃないよ!」
ドアが壊れるかと思うくらい力いっぱい閉めて、タッキーが出て行った。



