思いもかけぬ大ヒットになった。『言葉はいらない』以上のヒットになったのだ。切なく歌うキーボーの姿に若い女性ファンが心を震わせ、酔いしれ、ファンレターが段ボール箱で毎日届くようになった。
 しかし、キーボーの人気上昇の陰でタッキーとベスが腐っていた。単調なリズム、単調なベースラインにウンザリしていたのだ。生気のない顔で演奏するタッキーとベスの姿がテレビに映し出されていた。

        *

「4曲目は元の曲調に戻させてください」

 タッキーとベスが必死になって訴えた。

「ダメだ。次も『涙のベル』路線で行く」

 企画部長は聞く耳を持っていなかった。

「これだけの大ヒットになったんだぞ。ファンが求めている証拠じゃないか。元の曲調に戻すなんて、とんでもない」

 そして轟に向かって、「スナッチにもっと切ないバラードを作るよう依頼してくれ」と命令した。

        *

 部長がミーティングルームから出て行ったあと、部屋は険悪なムードに包まれた。

「やってられないよ」

 憤慨するベスにタッキーが同調した。「小学生でも叩けるような太鼓を」と言った途端、スティックを部屋の壁に投げつけた。キーボーがそのスティックを拾い上げて「もう1曲だけ辛抱してやってみようよ」となだめるように言ったが、返ってきたのは溜まりに溜まったベスとタッキーの不満だった。

「お前はいいよな。キャーキャー言われてさ」

「そうだよ。テレビでアップにされるのはお前の顔だけじゃないか。俺たちはまるでバックバンドみたいで、やってられないよ」

 2人は憤まんやるかたないというような表情でキーボーを睨んだ。

「そんなこと言うなよ」

 さすがのキーボーも気色ばんだ。

「ちょっと、落ち着いて」

 轟が割って入ろうとしたが、2対1の睨み合いを終わらせることはできなかった。

「とにかく、やってられない!」

 ベスがドアを乱暴に開けて出て行った。

「冗談じゃないよ!」

 ドアが壊れるかと思うくらい力いっぱい閉めて、タッキーが出て行った。