『ル・リアン』 ~絆、それは奇跡を生み出す力!~


 1人当たりの面接時間は大体20分くらいだったが、その時間になっても小金井は部屋から出てこなかった。

 盛り上がっているのだろうか? 
 たった1人の正式採用に彼が選ばれるのだろうか?

 不安が押し寄せてきた。

 その後10分近く経ってから小金井が出てきた。顔が紅潮していた。やり切ったというような満足感を漂わせていた。

 彼が出て行くと、女性社員に名前を呼ばれた。「はい」と答えたが、声が震えていた。緊張がピークに達していた。口の中はカラカラなのに掌には汗をかいていた。

 ドアをノックしてから静かに入室した。丁寧にお辞儀をして、「須尚正です。よろしくお願い致します」と練習通りの言葉を口にして、直立不動で顎を引いた。着席を勧められたので、浅めに腰を掛けて膝の上に両手を置いた。

 面接官は2人だった。見比べて、その違いに驚いた。同じ会社の社員とは思えない対照的な外見をしていたのだ。

「バンドやってるって書いてるけど、どんなジャンル?」

 レイバン型の眼鏡をかけた30代くらいの面接官だった。ウェーブのかかったロングヘアが肩近くまで伸びていた。

「フォークロックです。主にオリジナル曲を演奏しています」

 ホー、というように口を突き出した。

「君が曲作ってるの?」

「はい」

 短く答えて背を伸ばし、顎をぐっと引いた。

「プロになる気はないの?」

「はい。プロとして飯が食えるようになるのはそんなに簡単ではないと思っています」

 今度は口に出してホーっと言って、レイバン男が横の面接官を見た。

 管理職のようなキチっとした髪型の面接官が口を開いた。

「卒論、楽しく読ませてもらったよ」

「ありがとうござます」

「『マーケティング的見地から見たロックビジネス』というタイトルだけど、参考文献か何かあるの?」

「いえ、ありません。レコード会社や放送局のディレクターにインタビューしてまとめました」

「ほう、たいしたもんだね。ところで、マーケティングの勉強は?」

「澤ノ上教授のゼミで勉強しています」

 すると、目が一瞬、大きくなった。

「あの澤ノ上教授?」

「そうです。その澤ノ上教授です」

 今度はキチっと髪型男がホーっと言ってレイバン男を見た。それを受けて、レイバン男が口を開いた。

「希望部署は企画部と書いてあるけど、例えば営業の仕事とかやる気ある?」

 キター。その質問を待ってました。

「僕は、いえ、わたしはまだ世間のことがよくわかっていない若輩者です。音楽業界の仕組みさえぼんやりとしか理解できていません。ですから、最初から企画部で活躍することは無理だと思っています。今わたしに必要なことは色々な経験を積むことだと考えています」

 そこで息を整えて言葉を継いだ。

「音楽が大好きですし、いつかは自分が手掛けたミュージシャンを世に送り出したいと思っています。それがわたしの夢です。ですから、それができる部門、企画部での仕事を希望しています。しかし、会社から営業の仕事を与えられれば、全力でその仕事に取り組みます」

 するとレイバン男が大きく頷き、キチっと髪型男を見た。

「東京ではなくて、地方の営業でも大丈夫かな?」

「大丈夫です。全国どこへでも行きます」

 キチっと髪型男の目をしっかり見つめて言い切った。