『人生ラン♪ラン♪ラン♪』~妻に捧げるラヴソング~


 久々に原稿に向かうと、気持ちがグッと引き締まった。背筋を伸ばして顎を引いて、赤いボールペンを持って推敲を始めた。
 誤字脱字を直していると、漢字の使い方が気になってきた。簡単な漢字なのだが、色々な読み方がある漢字だ。例えば、『何』。訓読みで『なに』と『なん』があり、音読みで『か』がある。問題は訓読みだ。『(なに)かおかしいと思った。しかし、それが(なん)なのかわからなかった』という場合の『何』の使い方がしっくりこないのだ。もちろん、ルビを振れば問題はないのだが、こんな簡単な漢字にルビを振るのはどうかな、と思ってしまうのだ。
 それから、『後』。訓読みで『のち』『あと』『うし(ろ)』『おく(れる)』があり、音読みで『ご』と『こう』がある。『その後、1時間ほどかけて一人で公園を散歩した』という場合、『ご』でもいいし『のち』でもよいように思う。しかし、作者がどちらの読みで使ったのか読者にはわからない。『そのご』と読む人もいれば、『そののち』と読む人もいるだろう。これもルビを振れば問題ないのだが、それでいいのかといえば、そうとも思えない。〈勝手に読んでもらったらいいんだよ〉という意見もあるかもしれないが、それはちょっと違うような気がする。

 さて、どうしたものか……、

 しばし沈思黙考した。しかし、結論は出なかった。何冊か本を調べたが、そんなことを書いているものは見つけられなかった。でも、モヤモヤして落ち着かなかった。そのままにしておくことはできなかった。自己満足になるかもしれないが、ルールを作ることにした。
 先ず『何』。これは『なに』という読みで使う場合のみ、漢字を使用することにした。それ以外はひらがなにするのだ。『何かおかしいと思った。しかし、それがなん(・・)なのかわからなかった』とした。但し、〈何人〉とか〈何十人〉とか〈何か所〉というように一塊(ひとかたまり)になっているものはそのままにした。
 次は『後』。これは、『ご』の場合だけ漢字にすることにした。『のち』や『あと』の場合はひらがなにするのだ。『その後、1時間ほどかけて一人で公園を散歩した』『そののち(・・)、1時間ほどかけて一人で公園を散歩した』『そのあと(・・)、1時間ほどかけて一人で公園を散歩した』とすることにした。他の読み方に『後ろ』や『後れる』があるが、これは送り仮名がつくのでそのままでいいと思った。『こう』の場合も、『後頭部』『後期試験』のように他の漢字と一緒になって使われる場合が多いので、そのまま使うことにした。これですっきりした。このルールに従って再度推敲することにした。