『人生ラン♪ラン♪ラン♪』~妻に捧げるラヴソング~


 翌朝出社すると、乾からメールが届いていた。件名は『昨日のメルマガの反応です』だった。確認すると、メルマガに対する返信が24通あったと記されていた。それは予想以上に多い数であり、その理由は苦情だとしか思えなかった。

 メールに添付された〈返信一覧〉というエクセルファイルを恐る恐る開けた。〈好意的なご意見〉と〈好意的ではないご意見〉という二つのシートに別れていた。〈好意的ではないご意見〉を最初に見る勇気はなかった。〈好意的なご意見〉のシートに目をやった。

 いっぱいあった。好意的なご意見数:23通と記されていた。返信のほとんどが好意的だと知り、体からす~っと力が抜けた。安心して読み始めることができた。

「メルマガを読んで、とても嬉しくなりました。私の実家は農家です。お米を作っています。両親はいつも忙しく働いています。苗を植えてから刈り取るまで、色々な事に対応しなければならないからです。しばらく雨が降らないこともあれば、台風などの強風で稲が倒れることもあります。お米を収穫するまでの苦労は半端ではないのです。そういうことを見てきたので、『お米は一粒も残してはいけない』という両親の言葉は当然のことだと思いましたし、自分の子供にも食べ物の大切さについて口を酸っぱくして言い続けています。でも、それ以上のことは何もしていませんでした。今回、三木田支社長様のメルマガを拝見して、それではいけないと思いました。米農家の娘として、自分の家族以外にも発信しなければいけないと思ったのです。微力ですが、私も『もったいない』を友人や知人に伝えていきます」

「私の実家はラーメン屋を営んでいます。結婚してからも店の手伝いをしておりますが、いつも気になっていることがあります。お客様の食べ残しです。食べ残しはすべて捨てるのですが、その量が半端ないのです。本当に『もったいない』と思います。特に、大盛を注文したお客様がかなりの量を残されているのを目にすると、なんとも言えないやりきれない気持ちになります。何故食べきれない量を注文するのでしょうか。自分が食べ残したものがどうなるのかを真剣に考えてもらいたいと思います」

「夫婦でコンビニをやっています。昼は私が、夜は夫がアルバイト社員と共に店に出ています。毎日多くの食品を仕入れますが、残念ながら弁当や食品の廃棄が発生してしまいます。売れ残って消費期限が迫ったものはレジを通らなくなるので、売ることができないのです。仕方なく家に持ち帰って自分たちで食べていますが、食べきれないものを毎日廃棄しています。もったいないですよね。支社長様のメルマガを拝見して自責の念に駆られています。廃棄を減らすためにどうしたらよいか、夫と話し合うつもりです。気づきを与えていただき、ありがとうございました」

 良かった。多くの方が共感していただいた。本当に良かった。

 一気に肩が軽くなったので、〈好意的ではないご意見〉に目を通した。

「ご立派なご意見だと思います。しかし、御社は食品会社として廃棄ゼロを目指していますか? 言っていることとやっていることの整合性は取れていますか? 私はそうは思いません。御社の決算資料を拝見すると、かなりの在庫を抱えていることがわかります。この在庫はすべて出荷されていますか? 作り過ぎて出荷されないまま廃棄されているものはありませんか? 返品はどうですか? スーパーマーケットからの返品がたくさんあるのではないですか? その返品はどうしていますか? 廃棄されているのではないですか? 会社の中に無駄がいっぱいあるのではないですか? ご立派なご意見を発信されるのも結構ですが、まずは足元を見つめられることをお勧めします。辛口でごめんなさい」

 う~ん、参った。その通りだった。会社で廃棄している製品は少なくなかった。偉そうなことを言う前に、自分で出来ることをやらなければならないと悟らされた。

 もちろん、支社長の立場で出来ることは限られている。それでも、支社員への啓発など、自分で出来ることをやり切っていただろうかと考えると、首を縦に振ることはできなかった。明日の朝礼で〈もったいない〉を支社員と共有し、支社内で完結できることは率先してやり切ることを決めた。更に、本社にも掛け合って廃棄ゼロへの挑戦を促すことにした。厳しいご意見に真摯に耳を傾けて少しでも良くしていかなければならないと覚悟を新たにした。

 その後は第1回の反省を踏まえて内容や言葉遣いに気をつけながら、週1回のペースで発信を続けた。すると、嬉しいことに毎回反応数が増え、遂に100通を超える返信をいただけるようになった。しかも、〈好意的なご意見〉が95パーセント、〈好意的ではないご意見〉が5パーセントという望外の結果までついてきた。
 それでも、自惚れることを戒めた。5パーセントとはいえ、気づかなかった問題点が数多く指摘されていたからだ。わたしは〈好意的ではないご意見〉こそが重要だと思い、それを日々の行動に反映させ、それをメルマガで発信していった。すると、更に返信数が増えていった。それと共に通販の売り上げが増えていった。すべてが順調に思えた。しかし、