『人生ラン♪ラン♪ラン♪』~妻に捧げるラヴソング~


 おっ! 

 ガクンと電車が揺れた。駅に入る手前のレールの切り替え箇所で揺れたようだった。なんとか踏ん張れたが、もう一度大きな揺れが来た。それはいつもより大きく、揺れに耐えられなかったわたしは後方に足を一歩動かされた。

 あっ!

 踵で誰かの靴を踏んでしまった。すぐに振り返って謝ったが、憮然としたような表情で睨まれた。もう一度謝ったが、その人はフンというような顔をして電車を降りていった。

 謝っているのだから許してくれてもいいじゃないか、わざとじゃあるまいし、

 わたしは心の中でブツブツ言いながら残像が残るその人の後姿を見つめていたが、首都圏有数の乗降客を誇る駅だけあって多くの人が降りたので、再びつり革を握ることができた。すると、前に座っている人に目が行った。その人は鞄から新聞を取り出すと、四つ折りにした新聞を器用に広げて、両隣の人の邪魔にならないように読み始めた。見るともなくその新聞を見つめていると、首相の写真が目に入ると同時にその横の見出しが飛び込んできた。

『リーマン・ショック級の出来事がない限り予定通り消費税を引き上げ!』

 リーマン・ショックか……、

 わたしは10年ほど前のあの日に引き戻された。