帰宅してからも、先見さんとの楽しい議論の余韻はいつまでも続いた。それは1週間経っても2週間経っても醒めなかった。
 もっと話がしたかった。先見さんとの議論を渇望していた。しかし、前回、夕食をご馳走になって、遅くまで話し込んで、その上、すぐにまた伺いたいとは言いづらかった。じりじりと日にちだけが過ぎていった。

 そんなもどかしい思いが続いていた時、先見さんからメールが届いた。『チェコの美味しいビールを入手したので飲みに来ませんか?』という誘いだった。

 ヤッター! 

 わたしはスマホを持って小躍りした。いくつか候補日が挙げられていたので、その中から7月2日を選んで返信した。

 喜んだのも束の間、手土産のことを考えると気が重くなった。お菓子ではなく、もっと気の利いたものを持っていきたいと考えたが、良いアイディアが浮かばなかった。ビールに合うツマミにしようかとも考えたが、料理が得意な奥さんが極上のツマミを用意されるはずなので、この考えは即座に却下した。

 ではどうする? 
 ビールのあとに飲むワインか食後酒はどうだろう? 

 しかし、その考えも却下せざるを得なかった。先見さんのお酒の蘊蓄を聞いていると、わたしが考えているようなお酒はなんでも揃っていそうだからだ。

 ん~困った。

 袋小路に入って抜け出せなくなってしまった。と諦めかけた時、不意にガムテープが貼ってあったスピーカーが脳裏に浮かんできて、それでピンときた。

 そうだ、CDにしよう。

 どういうものがいいかと思いを巡らせていると、会話の邪魔にならない演奏がいいのではないかという気がしてきた。

 とすれば……、

 そうだ、ピアノトリオの穏やかなジャズはどうだろう? 
 悪くない。そうしよう。
 でも、CDだけだと物足りないかもしれない。
 今回も散々ご馳走になるだろうから、それに釣り合うものを持っていきたい。
 では、何がいいだろう? 
 チェコのビールを飲みながら楽しめるものは……、
 そうだ、DVDはどうだろう? 
 チェコの街並みや風景を映したDVDがいいかもしれない。
 それもナレーションのない字幕と音楽だけのものがあれば最高だ。

 早速ネットで検索を始めて、しばらくサーフィンをしていると良さそうなものが見つかった。『プラハの四季』と『ドナウの調べ』。前者がチェコで後者がスロバキアだから、2つがあれば旧チェコスロバキア両方の旅情を満喫できる。即注文した。

 これで良し。

 準備は整った。