3通目が届いてから3日目を迎えた。今日捕まえなければ、明日写真をばら撒かれる。そうなれば、本部長の弟の生活は破綻する。会社にはいられなくなり、妻からも見捨てられるだろう。その影響は桜田にも及ぶに違いない。3人は頭を抱えた。

        *

 その頃、警察は枯田と選挙参謀とパソコンショップのオーナーの近親者に動機がないかどうか調べていた。選挙違反で捕まったことに大きな影響を受けた人物の存在を探っていたのだ。
 すると、刻々と期限が迫る中、一人の男が浮かんできた。その男は就職が内定していた企業から取り消しを受けていた。理由は親の逮捕であり、復讐を考えるのに十分すぎる動機と思われた。
         
 その男は当時大学4年生で、第一志望のIT企業から内定通知を受け取り、天にも昇る気持ちになっていた。
 しかし、親の逮捕で一変した。地獄へ突き落されたのだ。彼は父親を恨んだが、それ以上に、父親を(おとし)めた選対本部長の弟を恨んだ。いや、憎しみを持った。自分の人生を無茶苦茶にしたこの男の人生を破滅させてやると決めた。それだけでなく、この男に指図したであろう桜田に復讐することも決めた。

 男は選対本部長の弟の行動を観察するために、探偵事務所に素行調査を依頼することにした。浮気など他人には言えないような行動を掴むためだ。金額を聞くと、30万円から50万円くらいを考えておいてくださいと言われた。その上、状況によっては上乗せもあるという。それを聞いてちょっと高いと思ったが、「二人一組で行動するのが基本なので」と言われて納得した。卒業旅行のために貯めた金が60万円ほどあったので、なんとかなると思ってその場で依頼した。弟の顔写真と住所を記した紙を置いて事務所を出た。

 3週間後、報告を受けた。尾行した結果、家と会社の往復以外、ほとんど寄り道をすることがなかったし、早朝に家を出て夜遅く帰っていたが、週に一度、特定の場所に寄っていることがわかった。それは、駅の北口の薄暗い路地裏の古ぼけたビルの4階にある小さな店だった。看板も無く、隠れるようにひっそりと佇む店、SMクラブだという。

 更に1週間後、弟が指名しているSM嬢を突き止めたと報告を受けた。その上、その女が客らしき男とラヴホテルに入っていくところと出て行くところを写真に収めたという。「確証はありませんが、売春をしている可能性もありますね」と探偵が言った。

 男はすぐに行動を起こした。そのSM嬢を指名した上で脅迫したのだ。売春をばらすと。女は青ざめ、男の言いなりになった。次回、弟が来た時に醜態を写して、その写真を提供することに同意したのだ。

 父親を陥れた奴の醜態写真を手に入れ、それが桜田を脅すに値すると確信した男は、復讐をするために写真付きの手紙を桜田に送りつけた。そして、町中にばら撒くための準備を始めた。

        *
          
 内偵を進める中、警察は容疑者に事情徴収をすることに決めた。夕闇が迫る中、パソコンショップに踏み込み、長男に任意同行を求めた。しかし、断固として拒否したので、警察はすぐさま家宅捜索に切り替えた。証拠隠滅の恐れがあるという理由からだった。
 事前に準備していた礼状を見せて彼の部屋に押し入り、隅々まで調べ尽くした。すると、押入れの一番上の奥から布袋が見つかった。その中には発送準備が整った封筒が何十通も入れられていた。
 それだけではなかった。報道各社に発信するための準備も終わっていた。あとは送信ボタンを押すだけになっていた。
 警察はその場で彼を逮捕し、署へ連行した。すぐに指紋を取り、桜田に送りつけた手紙の指紋と照合した。完全に一致した。