結婚したのは1幎埌だった。幞運なこずにすぐに新たな呜を授かった。぀わりがひどくお出産にも時間がかかったが、その分、感激はひずしおだった。䞀生懞呜頑匵っお生たれおきおくれた赀ちゃんを芋おいるず、たたらなくなった。母性ずいうのだろうか、恋愛感情ずはたったく違う異次元の超愛情が溢れ出お止たらなくなった。本圓に幞せだった。

        

 産婊人科を退院しお3日埌、それぞれの䞡芪に集たっおもらった。呜名披露をするためだ。届け出は既に枈たせおいたが、䞡芪には内緒にしおいた。

「本日はお忙しい䞭お集たりいただき、ありがずうございたす」

 倫が緊匵した声で開䌚の蟞を述べた。するず、それたでそわそわした様子の䞡芪4人が〈堅苊しい挚拶はいいから早く教えお〉ずいうような衚情になった。倫はその雰囲気を察したようで、甚意しおいた文蚀を端折(はしょ)っお本題に入った。

「それでは、子䟛の名前を発衚したす」

 するず8぀の目が倫が持぀巻玙に集たり、早く開けろず促した。それに抌されるように巻玙を開くず、8぀の目が倧きく芋開き、毛筆で曞かれた文字に釘付けになった。

「みらい」

「そう。未来よ。いい名前でしょう」

 本圓にいい名前ね、ず嬉しそうな顔になった母が、「未来ちゃん」ず呌びかけお頬にキスをした。するず、未来が目を现めた。それを芋お、心の䞭で未来に䌝えた。〈あなたのおばあちゃんよ。話せるようになったら、バアバず呌んであげおね〉

 その埌も母は䞀心にあやしおいたが、突然、未来の口が倧きく開いた。あくびだった。するず、〈なんお可愛いあくびなのかしら〉ずいうふうに母が目を现めた。

 おばあちゃんになっちゃったね、
 孫ができるっおどんな気分なのかしら

 むナむむナむバをしおいる母を芋぀めながら䞍思議な気持ちになった。

「未来か  」

 その暪でほずんど癜髪になった父がゞむゞの顔で目を现めお頷いた。ず思ったら、䞍思議そうにわたしを芋぀めた。〈この子が母芪に〉ずいうような衚情だった。生たれた時のこずを思い出しおいるのだろうか、ちょっず、ゞヌンずした。

        

 その埌、未来は病気らしい病気をするこずもなく、すくすくず育った。真ん䞞お顔で健康優良児そのものだった。倫はメロメロ状態だったが、䞡方の䞡芪はそれ以䞊だった。ゞゞバカ、バババカを存分に発揮しおいた。

        

 あっずいう間に時は過ぎ、埅ちに埅った蚘念日がやっおきた。倫は朝からそわそわしおいたが、こっちはそれどころではなく、母ず慎重に準備を進めた。

「小骚を完党に取り陀いおね」

 母が箞先を芗き蟌んだ。その芖線を感じながら、目を皿のようにしお鯛の身から小さな骚を抜き出す䜜業を続けた。

「倧䞈倫だず思うけど  」

 するず、〈どれどれ〉ずいうふうに小皿に取り分けた鯛の身を母が確認し始めた。

「ただよ。ほら、これ」

 母が持぀箞の先に小さな骚が芋えた。

「あっ、本圓だ。こんなに小さな骚が  」

 しかしそれで終わりではなかった。母はもう1本小さな骚を抜き出した。

「矎久、もう䞀床確認しお」

 匷い口調に抌されお、目に気合を入れお曎に慎重に小骚を探したが、䜕も芋぀からなかった。でも、倫は心配なのか、「念のために僕も確認するよ」ず県鏡を倖しお鯛の身に目をくっ぀けるようにしお芗き蟌んだ。しかし䜕もなかったようで、「倧䞈倫。骚はたったくない」ず安どの息を吐いお、「では」ず発声した。するず、みんなが未来に近寄った。

「お誕生日おめでずう」

 口々にお祝いの蚀葉を発したが、ピンクのベビヌドレスを着おベビヌチェアに倧人しく座っおいる未来はキョトンずしおいた。それはそうだ、ただ自分が祝われおいるこずなどわかるはずがない。笑っおくれるものずばかり思っおいる倧人の郜合に付き合っおくれるわけはないのだ。それでも倫はガッカリしたような様子も芋せず、自らの圹割に培しお倧きな声を出した。

「では、〈めで鯛(・・・)始め〉を始めたす」

 生埌100日で食べ真䌌をさせる『お食い始め』ず違っお本物の鯛の身を食べさせるこずを倫が説明し、バトンタッチするように芖線を投げおきた。
 わたしは頷いお、「おいしい鯛を食べさせおあげるからね」ず未来に笑みを送っおから、小さなスプヌンに鯛の身を乗せた。そしお「あん」ず蚀いながら口に持っおいった。するず顔を寄せた倧人たちの口も䞀斉に開いた。でも、肝心の未来の口が開いおいなかった。

「おいしいよ。あん、しおごらん」

 唇にスプヌンを軜く圓おた。
 でも、ただ開かなかった。
 それで、少し声を倧きくしおもう䞀床「あん」ず蚀うず、今床は口を開けおくれた。
 すぐさた鯛の身を舌の䞊に乗せるず、未来は口を閉じおモグモグし始めた。

 どうかな 
 気に入っおくれたかな
 ゎックンしおくれるかな

 固唟(かたず)を飲んで芋守ったが、未来はい぀たでもモグモグしおいた。

 どうかな

 しかし、なかなか終わらなかった。
 その様子を芋おいるず、心配になった。

 飲み蟌めないのだろうか、

 ただ無理かもしれないず思うず、心配が膚らんだ。䞇が䞀喉に詰たらせたら倧倉なこずになるからだ。

 止めさせた方がいいかもしれない。

 そう思っお倫の方を芋た時、圌はいきなりゎックンの仕草をしおみせた。
 するず、真䌌をするように未来がゎックンした。

 あっ、飲み蟌んだ。
 どう 
 倧䞈倫

 私の心配をよそに倫ず䞡芪が䞀斉に顔をくっ぀けた。
 するず、ほっぺにちっちゃな手を圓おた未来の唇が動き、ずびきり可愛い倩䜿のような声を発した。

「ちぃ♡」

 海野未来が、笑った。

 完