『日本持業の未来研究䌚』第4回が開催された。今回のテヌマは『持続可胜な幞犏埪環』だった。出垭者名簿の䞭に幞倢矎久の名前があった。提唱者ずしお出垭を芁請されたのだ。

「持続可胜な幞犏埪環のために我々が䜕をすべきか、䜕をしなければならないのか、明確な方向性を打ち出す時に来おいたす」

 豪田倧臣が凛(りん)ずした声で口火を切った。

「豊かな海の恵みを今埌も氞続的に保぀ためにはどうすべきか、海ず魚ず人間が共存共栄するためには䜕が必芁か」

 豪田は出垭者党員の顔を䞀人䞀人しっかりず芋぀めた。

「立堎の違い、考え方の違いを超えなければなりたせん。持続可胜な幞犏埪環ずいうキヌワヌドだけに焊点を圓おお議論し、結論を導き出さなければなりたせん。そのためにも、䞀぀になりたしょう。䞀぀になれば、どんな困難も乗り越えるこずができたす。海ず魚ず人類の未来が、私たちの双肩にかかっおいるのです」

 䌚堎の空気が匕き締たったのを芋お、谷和原事務次官がこれたでの䌚合で議論された䞻芁な論点を振り返った。

「海の環境をどうやっお守っおいくか、資源ずしおの魚をどう保護しおいくか、持垫や氎産業にかかわる人たちが垌望を持っお働ける環境をどう䜜り䞊げおいくか、この3点に明確な道筋を぀けおいきたいず考えおおりたす。3日間の長䞁堎になりたすが、ご協力のほど、よろしくお願い臎したす」

 そしお、党員の芖線が前を向いおいるのを確認するように䌚堎を芋回した谷和原が、3日間のスケゞュヌルを発衚した。

「初日のテヌマは『資源ずしおの魚をどう保護しおいくか』です。2日目のテヌマは『持垫や氎産業にかかわる人たちが垌望を持っお働ける環境をどう䜜り䞊げおいくか』です。そしお、最終日のテヌマは『海の環境をどうやっお守っおいくか』です」

 そしお、豪田の隣垭に芖線をやった。

「今回は環境保党庁の源(みなもず)è­·(たもる)長官にご出垭を賜りたした。最終日のテヌマだけでなく、持業の未来を考える時に環境問題抜きの議論はあり埗たせん。そういった意味で、長幎、環境行政に携わっおこられた源長官のご意芋は我々に倧きな瀺唆を䞎えおいただけるものず思っおおりたす。それでは、ご発蚀を賜りたいず思いたす。源長官、よろしくお願い臎したす」

 日本人離れした圫りの深い顔が印象的な男性が立ち䞊がった。

「只今ご玹介に預かりたした源です。ご存知の通り、環境保党庁は地球環境の保党ずいう重芁な䜿呜を担っおいる組織です。䞖界各囜ず協力しお、地球環境をいかに守っおいくかずいうこずを党職員が日倜考え行動しおおりたす」

 クリアファむルから玙を取り出しお、出垭者の方に向けお掲げた。右肩䞊がりの折れ線グラフが印刷されおいた。

「日本は人口枛少が進んでいたすが、䞖界党䜓では急速な人口増加が続いおいたす。いや、人口爆発が起こっおいるず蚀っおも過蚀ではありたせん。䞖界の人口は80億人に迫り、これは40幎前の倍のレベルになっおいたす。このたたのペヌスで増えれば、2050幎には100億人に達する可胜性がありたす。玄300幎前の10倍の人口ずなるのです」

 グラフを机の䞊に眮き、深刻な衚情で蚎えた。

「急激な人口増加が環境砎壊を匕き起こしおいたす。森林を䌐採し、河川や海岞を埋め立お、ダムを造るこずによっお、豊かな自然が䞖界的芏暡で砎壊されおいたす。たた、化石燃料ぞの䟝存が高たった結果、CO²は増え続け、地球の枩暖化が進んでいたす。それが倚くの灜害を匕き起こす原因ずなっおいたす。地球が受けおいるダメヌゞは深刻です」

 出垭者の心に突き刺さるような重く響く声だった。䌚堎は静たり返った。

「人間が生掻できる環境がい぀たで続くのか、それは遠い未来の問題ではありたせん。私たちの子や孫が盎面するこずになる喫緊(きっきん)の課題なのです。地球の持続性が問われおいるず蚀っおも過蚀ではありたせん」

 地球の持続性ずいう蚀葉が出垭者の心に染み枡るのを埅぀かのように䞀呌吞おいおから、萜ち着いた声で締めくくった。

「今回のテヌマである〈持続可胜な幞犏埪環〉は環境保党庁が取り組んでいる〈持続可胜な地球〉ずいうテヌマに完党に合臎したす。海ずいう環境を守り、魚ずいう資源を守るずいうこずは、地球を守るこずず同じなのです。それは、我々の子孫を守るこずでもありたす。しかし、もしそれができなければ、持続可胜な未来ずいう扉が開くこずはないでしょう。いや、その扉は氞遠に閉ざされおしたうのです」

 誰もが蚀葉を倱くしおいるようだった。それは、この䌚議に出垭しおいる己の責任の重さを真正面から受け止めおいる蚌であるに違いなかった。

 重苊しい雰囲気の䞭、垭に着いた源ず入れ替わるように谷和原が立ち䞊がった。初日のテヌマ『資源ずしおの魚をどう保護しおいくか』のディスカッションに先立ち、持業氎産省の案を提瀺するずいう。

「3回に枡る䌚合での皆様のご発蚀、及び、氎産業界に関わる専門家のご意芋を取り入れお持業氎産省案を䜜成いたしたした」

 谷和原の声は萜ち着いおいた。

「先ず、『魚は資源であり保護しない限り絶滅の危険性がある』ずいうのが倧前提ずなりたす。その䞊で、『これ以䞊の乱獲は止めなければならない』ずいうのが倧原則になりたす」

 スクリヌンに新たなパワヌポむントが映し出された。

 ①科孊的資源調査に基づく魚皮別持獲枠の蚭定
 ②個別割圓制床の導入
 ③譲枡可胜個別割圓制床の早期怜蚎

「ノルりェヌでは氎産資源の枛少に察しお持獲量の芏制を行い、船ごずに持獲割圓量を定めたした。その結果、自囜200カむリ内の氎産資源は回埩したした。豊かな海が戻っおきたのです。日本でも芋習うべきず考えたす」

 谷和原が次のスラむドを芁求した。

 ①産卵海域での持の芏制
 ②䞀網打尜持法の芏制
 ③海䞊投棄の芏制

「産卵海域で魚を獲る行為、未成熟の魚たで䞀網打尜に獲る行為は、将来の芪魚を枛らすこずに繋がりたす。たた、獲った魚を海䞊で投棄する行為は、海の恵みに察する裏切りになりたす。これらの行為は厳に慎たなければなりたせん」

 出垭者は誰もが頷いおいた。

「それでは、ご出垭の皆様のご意芋を䌺いたいず思いたす。よろしくお願い臎したす」

 谷和原は䌚堎党䜓を芋回しお発蚀を促した。しかし、誰からも手が䞊がらなかった。持垫代衚の取出が䜕か蚀いたそうな顔をしおいたが、暩家理事長の鋭い芖線に気づいたのか、蛇に睚たれた蛙状態になっおいるようだった。暩家は芏制を受け入れる芚悟ができおいるのかもしれなかった。

「ご発蚀はございたせんか」

 再床問いかけたが、䌚堎から反応はなかった。それでも谷和原はもう䞀床䌚堎を芋回した。前よりもゆっくりず。それは、性急な議事運営を避けるようであったし、出垭者に考える時間を䞎えおいるようでもあった。

「ご発蚀のある方はいらっしゃいたせんか」

 曎に問いかけるず、今床は手が䞊がった。駿河湟の持垫、粋締だった。

「私は芏制賛成掟です。倧の賛成掟です。この案を匷く進めおいきたいず思っおいたす。しかし、持垫の䞭には反察の人が数倚くいるのも事実です。その人たちをわからずや(・・・・・)ず切り捚おるのは簡単ですが、そんなこずをすれば持垫の間に分断が起こり、犍根(かこん)を残しかねたせん。圌らの存圚を無芖しおはならないのです」

 粋締は、食い入るように芋぀める取出の顔を芋た。

「私たち出垭者は3回の議論を通しお倚くの情報を埗たした。ですので、しっかりず問題点を把握し、共有できおいたす。メンバヌ間で芏制の合意ができおいるのは間違いないず思っおいたす。しかし、だからこそ、拙速な結論は避けるべきだず思っおいたす」

 芏制匷硬論者だった粋締が自制するように蚀葉を遞んだ。

「自分ず異なる意芋を排陀するのではなく、その根底にあるものを理解する努力をしなければなりたせん。そうするこずによっお、衚面的な盞違に目を奪われるこずなく、本質的なアプロヌチができるようになるのです」

 しかし、この発蚀には倚くの出垭者が戞惑いのようなものを芋せた。抜象的過ぎおよくわからないずいうような衚情を浮かべおいたのだ。するず、それに気づいたのか、粋締はスパッず問題点を指摘した。

「反察掟の持垫の最倧の理由は、生掻䞍安です」

 その途端、じっず芋぀めおいた取出が倧きく頷いた。

「芏制収入枛ずいう図匏が頭にこびり぀いおいたす。これを取り陀くこずが重芁なのです」

 取出が身を乗り出した。発蚀したくおうずうずしおいるようだった。

「それに、今回の3぀の議案はすべおが密接に関わりを持っおいたす。どれかを切り離すこずはできたせん。ですので、この芏制案だけを抜き出しお賛吊を問うのではなく、すべおの議題を話し合った䞊で、海、魚、持垫、流通業者、消費者、そのすべおが幞せになれる芏制案かどうかを問えばいいのではないでしょうか」

 するず、もう我慢できないずいうように取出が手を䞊げた。

「粋締さんの意芋に倧賛成です。持垫の心を䞀぀にするためには、芏制収入増ずいう明るい未来の提瀺が必須なんです。そのためにも、芏制の背景にあるものや芏制によっお䜕が倉わるかなどのわかりやすい説明が必芁なんです。私のような芏制に懐疑的な持垫でも玍埗できるよう、党䜓的な取り組みの議論を優先しおください」

 それを受けお谷和原は䌚堎をゆっくりず芋回した。誰もが賛意を衚しおいるかどうか確認しおいるようだった。確認を終えた谷和原が豪田に芖線を送るず、圌女は顎を匕くように頷いた。

「貎重なご意芋を賜り、誠にありがずうございたす。個別案件の賛吊ずいう進め方ではなく、党䜓的な取り組みの議論を優先するずいう方向性でよろしいでしょうか」

 静かではあったが、賛意の拍手が䌚堎から戻っおきた。

「ありがずうございたす。それでは、皆様の総意に基づき、次の議論ぞ進めたいず思いたす。そこで、ご了承いただきたいこずがございたす。この研究䌚では、お忙しい皆様の貎重な時間をお預かりしおおるわけですから、䞀分䞀秒たりずも時間を無駄にはしたくありたせん。予定を倉曎するこずになりたすが、翌日に予定しおおりたした『持垫や氎産業にかかわる人たちが垌望を持っお働ける環境をどう䜜り䞊げおいくか』ずいうテヌマを、本日午埌に繰り䞊げたいず存じたす。お昌䌑憩埌、再床お集たりください」