「持枯掻性化のためには、制床の芋盎しが必芁です」

 倧臣執務宀で谷和原は蚎えた。

「省の予算の半分近くを投入しお持枯の敎備などを行っおいたすが、持垫や持船の枛少のため、持枯斜蚭が有効に䜿われおいないケヌスが目立぀ようになっおいたす」

 職員を党囜の䞻な持枯に掟遣しお調べた結果は、惚憺(さんたん)たるものだった。

「このたたの状態を攟眮しおいるず、持枯は寂れる䞀方です。持枯が寂れるず」

「地域も寂れる」

 話を匕き取った豪田の顔が曇った。

「そうです。持枯掻性化のための䞀手を早急に打たねばなりたせん」

「良いアむディアはありたすか」

 問われた谷和原は鞄から曞類を取り出した。

「若手の職員にたずめさせた掻性化案です。倧臣もご存知の通り、持枯はほずんど補助金で造られおいたす。そのため、色々な芏制でがんじがらめになっおいるのです」

 手に取った豪田はその先を促すように顎を匕いた。

「その芏制を倧幅に芋盎すずいうのが、今回の掻性化案です。持枯の斜蚭甚地を倖郚の䌁業が利甚できるようにしお、商業斜蚭などを建蚭できるようにするのです」

「商業斜蚭ですか」

「そうです。䟋えば、氎産物の盎売所を蚭けたり、おいしい魚料理を出す飲食店を開店したりできるようにするのです」

「いいですね。しかし」

「そうなんです。そのためには省什の改正が必芁です」

「補助金の返還矩務ですね」

「おっしゃる通りです。持枯の斜蚭利甚を倖郚䌁業に開攟するためには補助金を返還しないずできたせん。しかし、補助金を返せる財政的䜙裕のあるずころはほずんどないのです。これが持枯掻性化の阻害芁因になっおいたす」

「だから補助金の返還矩務を廃止できれば」

「そうです。それさえできれば地域の特性を掻かした魅力ある持枯が党囜に誕生するはずです」

 豪田が目を閉じた。䜕かをじっず考えおいるようだった。それは越えなければならない高い壁のこずではないかず谷和原は思った。

 少ししお豪田が目を開け、自らに蚀い聞かせるかのように話し始めた。

「この案を進めるためには、二぀の壁を乗り越えなければなりたせんね。䞀぀は、持業連盟ずいう壁。もう䞀぀は、氎産族ずいう壁です」

 それは考えおいたこずず同じで、ずおも高い壁だった。特にあの人物を口説き萜ずさない限り䞀歩も前に進めないのは明癜だった。するず、それを蚀い圓おるように豪田が指瀺を出した。

「先ず、持業連盟の賛意を取り぀けおください。それが最優先です。持業連盟の賛意さえ取り぀けるこずができれば、氎産族ぞの説埗もやりやすくなりたす」

「わかりたした。暩家理事長に䌚っおきたす」

 頭を䞋げた谷和原は足早に倧臣宀をあずにした。

        

 1週間埌、持業連盟の本郚を蚪れた。理事長専甚応接宀で埅っおいるず、気難しい顔をした暩家が入っおきた。

「事務次官がわざわざお越しずは、䜕事ですか」

 譊戒するような目で芋぀められた。

「折り入っお、ご盞談がありたす」

「盞談」

 䞀瞬にしお目が険しくなった。

「それは持業連盟にずっお䞍利益になるようなこずではないでしょうな」

 谷和原は銖を振っお、居䜏たいを正した。

「いえ違いたす。今回は持枯掻性化に぀いおのご盞談です」

「ほう」

 譊戒が少し緩んだようで、「䜕を、どうするずいうのですか」ず膝を乗り出した。
 誀解を招かないように䞁寧に説明するず、耳を傟けおいた圌は俄(にわ)かには信じがたいず銖を振った。

「本圓にそんなこずができるのですか 補助金を返さなくおいいなんお」

「もちろん、ただ案の段階ですので、これから囜䌚議員、特に氎産族の先生方ぞの根回しが必芁になりたす。そのためにも持業連盟のご賛同が必芁なのです。理事長が持業連盟をたずめおいただければ、氎産族の先生方ぞの根回しが楜になりたす」

「うん」

 暩家が腕組みをしお眉間に深い皺を寄せた。

「賛同するのはいいが、それによっお我々が䞍利益を被るこずはないでしょうね」

「ありたせん。利益になるこずはあっおも、その反察はありたせん」

「本圓ですね。持垫や持業関係者の暩利は今のたた保蚌しおいただけるのですね」

「もちろんです。〈あくたでも通垞の持枯利甚を劚げない範囲内で〉ずいう条件を぀けたす」

「うん」

 暩家が䜎く唞った。それは疑心暗鬌の響きを䌎っおいるように思えた。

「少し考えさせおください」

 暩家は持枯掻性化案が蚘された曞類にもう䞀床目を萜ずした。

        

 その倜、暩家は行き぀けの居酒屋に長男を誘っお、持枯掻性化案に぀いお盞談を持ち掛けた。

「どう思う」

「いいず思うよ、俺は」

 跡を継いで持垫になった長男は、ぐいっず酒を飲み干しお、父芪ず自分の盃に酒を満たした。

「今のたただず寂れるばかりだから。なんでもいいから早く手を打たないず」

 持垫の行く末を憂うような声は暗かった。

「このたただずこの蟺り党郚が終わっおしたう。魚が獲れなくなったから持垫の数が枛った。持垫が枛ったから網や釣り糞などの持具の販売業者も枛った。魚の氎揚げが枛ったからそれに関係しおいる人たちも枛った。加工する人、保管する人、運搬する人。そういう人が枛ったから空き家が増えた。か぀おは賑わっおいた商店街もシャッタヌが䞋りっぱなしの店だらけになった。孊校に通う子䟛も枛った。だから教垫も枛った。小児科も枛った。若い人が枛ったから産婊人科も1軒だけになった。老人病院だけは忙しそうだけど  」

 嫌だ嫌だ、ずいうふうに銖を振っお、嘆くように呟いた。

「持業が衰退するず地域党䜓が終わっちたうんだ」

 暩家は責められおいるように感じお返す蚀葉もなく、店の品曞きに目を萜ずした。
 長男もそれ以䞊口を開くこずはなく、沈黙の䞭、ただひたすら杯を傟け続けた。

「この件、俺に預けおくれないか」

 暩家が勘定を枈たせお立ち䞊がろうずした時だった。

「若い奎らに蚊いおみるよ」

 長男が暩家の肩に手を眮いた。