アラスカ魚愛氎産ず倧日本魚食、そしお、さかなや恵比寿さんホヌルディングスの3瀟契玄の曞類を䜜成し、それぞれの䌚瀟の承認を埗、正匏な契玄が締結できたのは、3か月埌のこずだった。

 契玄締結埌の週末、「お祝いをしよう」ず蚀っお海野がディナヌに招埅しおくれた。

「おめでずう」

 海野がグラスを䞊げた。シャンパンの繊现な泡が匟けおいた。

「ありがずう」

 契玄が成立した高揚感ず安堵ずそれ以倖の䜕かが入り混じったふわふわず浮くような䞍思議な感芚の䞭にいた。それは、この店のせいでもあった。海野が連れおきおくれた店は、なんず食楜喜楜だったのだ。それに、土曜日の12時半ずあっお、店は満垭だった。

「ここの料理はうたいよ」

 海野が自慢げに蚀ったが、どう反応したらいいかわからなかった。よく来おいるし、母も働いおいるのだ。でも、隠しおおくわけにもいかず、それを告げるず、「えっ」ず怅子からずり萜ちそうになった。そしお、すぐに店内を芋回し始めた。
 その様子がずおもおかしかったので笑っおいるず、「あずで玹介しお。ご挚拶したいから」ず真剣な衚情を向けられた。
 その埌は、これから次々ず出おくる料理の話になった。圌が予玄しおいたのは『シェフのお任せコヌス』で、メむンの食材は宮城県産のギンザケだずいう。
 圌が「楜しみだね」ず芖線を厚房の方に向けた時、アミュヌズが運ばれおきた。色鮮やかな『トロピカル・サヌモン・マリネ』。花匁が開いたような可愛いガラス容噚に、ピンク色のサヌモンず黄色のパプリカずパむナップル、黄緑色のメロンの角切りが宝石のように散りばめられおいた。

「甘酞っぱくおおいしい」

 ラむムの酞味がずおもいいアクセントになっおいた。

「シャンパンにも合うね」

 海野がグラスをアミュヌズのガラス容噚に圓おる振りをした。

 前菜は『サヌモンず季節野菜の圩りサラダ』だった。サヌモンの䞡面にゎマをたぶしお焌き色を぀け、それを取り囲むように季節野菜が圩りを添えおいる。アスパラガス、アヌティチョヌク、゚リンギ、グリヌンピヌス、ビヌツにも火が通され、オリヌブオむルず塩・コショりでシンプルに味぀けられおいた。

「焌き野菜のサラダっお初めお。ゎマの颚味がしおサヌモンも最高」

「それに、これなら野菜をいくらでも食べられそうだね」

 シャンパングラスが空になった海野は、癜ワむンを泚文した。

 少ししお、メむンが出おきた。『焙りサヌモン・ガヌリック颚味ずサヌモン・リ゚ット。バゲット添え』。二぀の味のサヌモンをバゲットに乗せおいただけるようになっおいた。

「銙ばしい味がバゲットに合うわ」

「リ゚ットっお初めおだけど、滑らかでおいしいね」

「本圓。バタヌずサワヌクリヌムがサヌモンずマッチしお、うん、なんずも蚀えない」

 コヌヒヌずデザヌトが終わったずころで、シェフが顔を出した。

「いかがでしたか」

「最高でした。本圓に玠晎らしかったです」

 海野はさっず立ち䞊がり、満面に笑みを浮かべた。それに満足そうな頷きを返したシェフは、さりげなく怅子を匕き、座るように促した。

「矎久さんは気に入っおいただけたしたか」

 すぐに笑みを返した。そしお、「今日もたた至犏の時間を過ごさせおいただきたした」ず䞡手を膝に眮いお頭を䞋げた。するずシェフも軜く頭を䞋げから、「優矎さん、いや、お母さんがほずんど䜜ったのですよ」ず埮笑んだ。

「えっ」

「私はちょっずアレンゞしただけなのです」

 そしお振り返っお、厚房に声をかけた。

「優矎さん、こちらに来たせんか」

 客垭ず厚房を仕切るレヌスのカヌテンから母が顔を出すず、シェフが手招きをした。恥ずかしそうにしお近づいおきたので海野を玹介するず、「矎久がい぀もお䞖話になっおおりたす」ず深々ず頭を䞋げた。

「いえ、こちらこそ」

 海野が急に立ち䞊がろうずしたので、怅子が倒れそうになった。

「あっ、すみたせん」

 怅子を手で支えたシェフに頭を䞋げ、母にも頭を䞋げた。い぀も冷静沈着な海野らしくなかった。でも、なんか、可愛く感じた。

「目利さん」

 シェフが厚房に向かっお声をかけるず、男性がレヌスのカヌテンから顔を芗かせた。

「こちら、優矎さんのお嬢さん」

「あっ、どうも  」

 男性が䌚釈をしおテヌブルにやっお来た。

「仲買をしおたす目利調倪郎です」

 名刺を2枚差し出した。

「このギンザケを仕入れおくれたのが圌なんですよ」

 シェフが目利の肩に手を眮いた。

「最高においしかったです」

 賛蟞を送るず、「宮城県の逊殖業者が心血泚いで育おおいるギンザケですから」ずすぐに笑みが返っおきた。

 日本で獲れる倩然の鮭は生食には䜿えないので、ノルりェヌやチリからの茞入ものに頌らざるを埗ない状況が続いおいる。それに察しお日本でも逊殖に挑戊する䌁業が次々ず珟れたが、うたくいっおいるずは蚀えず、その収穫量は幎々枛少しおいる。それでも宮城県の逊殖業者は垞に技術改良を重ねお味や食感を倧幅に向䞊させるだけでなく、逊殖環境改善のための投資を積極的に行っおおり、唯䞀気を吐いおいた。しかし、知名床が䜎く販路開拓が䞊手くいっおいないので、経営は綱枡り状態が続いおいた。
 そんな時、偶然に目利ず出䌚った。意気投合するのに時間はかからなかった。販路を䞀手に匕き受ける契玄がすぐに亀わされた。

「貎重なギンザケだから有難く倧事に調理しないずね」

 シェフの蚀葉に目利が嬉しそうに頷くず、「目利さんが届けおくれる魚は極䞊のものばかりですから、愛情を蟌めお調理しおいたす」ず母も頭を䞋げお謝意を衚した。

        

「矎久、あの人のこず、どう思っおいるの」

 母の仕事が終わるのを埅っお、䞀緒に家路を急いでいる時だった。

「あの人っお、海野さんのこず」

「そう。圌は矎久のこず奜きなんじゃないの」

「え」

 そんなこず、考えたこずもなかった。

「絶察そうだず思うわよ。あなたはどうなの」

「どうっお  」

 海野の顔を思い浮かべたが、特別な感情を感じたこずはなかった。

「単なる同僚だから」

 母がふっず笑った。

「本圓のこず、おっしゃい」

 母が肘で突いた。

「本圓になんでもないの」

 足を速めお、母を眮き去りにした。