「ただいま」

 玄関の電気を付けながら居間の方へ向かって声をかけたが、返事はなかった。

「お父さん?」

 音楽が聞こえるのに、父の声は返ってこなかった。母と顔を見合わせたあと、そ~っと足を忍ばせて廊下を歩いて居間の扉を開けると、ソファにもたれかかって……父は寝ていた。とても幸せなそう顔だった。また顔を見合わせると、母が近寄って寝顔を覗き込んだ。

「かわいい」

 顔が綻ぶと同時に母はコートを脱いで、父の体を包むように掛けた。すると、父は幸せそうな顔になって、〈むにゅむにゅ〉というような声を発した。寝言だった。

「この人たちと共演している夢でも見ているのかしら」

 画面を見ながら母が笑った。

「このままにしておいてあげましょう」

 灯りだけ消して、居間のドアをそう~っと閉めた。