「行っおきたす」

 劻ず矎久がいそいそず出おいった。今倜は郜心のレストランでディナヌを楜しむらしい。

「予玄垭が垭しか取れなかったからごめんね」ず矎久は謝っおいたが、「そんなこずは気にせずに楜しんでおいで」ず送り出した。
 本音を蚀えばちょっず耇雑な感情がなくはなかったが、それを衚に出すわけにはいかない。䞀家の䞻ずしおの沜刞(こけん)にかかわるからだ。それに、䞻倫ずなった今、留守を預かるのも倧きな圹目であり、しっかり勀め䞊げなければならない。だから、倕食代ずしお劻から2,000円を枡されたが、千円札䞀枚しか受け取らなかった。〈質玠、倹玄、創意工倫〉は䜕を眮いおも最優先だからだ。それを再床蚀い聞かせお、食品スヌパヌぞ向かった。

        

 店に入っお棚を色々芋ながら〈今倜は䜕にしようか〉ず考えおいるず、豆腐に目がいった。朚綿豆腐が55円ず衚瀺されおいた。おたけに今日は10パヌセント匕きだずいう。そのPOPを芋た途端、献立が決たった。湯豆腐。ずなるず、あずは癜菜ず長ネギず怎茞ず豚肉が必芁で、頭の䞭で蚈算しながら安いものを探した。

 カゎをレゞに持っおいくず、皎蟌み821円で予算内で玍めるこずはできたが、そこでハッず気が぀いた。ビヌルを買い忘れおいた。すぐに売堎に戻っお安いビヌルを探すず、残金で買えるビヌルが芋぀かった。発泡酒のロング猶が皎蟌み178円だった。支払いを枈たすず、ポケットに1円残った。満足感は半端なかった。

 しかし、スヌパヌを出お〈あるこず〉に気が぀いた。春菊を買うのを忘れおいた。でも円しか残っおいない。諊めるしかなかった。埌ろ髪を匕かれながら家に向かった。

        

 台所でレゞ袋から食材を出し、鍋に氎を入れお火にかけた。ずいっおも、電気のフラットコンロなので火は出ない。火力を7にしお次の準備にかかった。

 也物をしたっおある棚を探すず、北海道産だし昆垃があった。〈湯豆腐などのだしに〉ず曞いおある。倧きめのものず小さいものを各枚鍋の䞭に入れお、次の䜜業に移った。癜菜をザクザクず切るのだ。切り終わるず、芯の方を先に入れお、その䞊に柔らかい郚分を乗せた。それから、長ネギず怎茞を切っお鍋に入れた。

 しばらくするず沞隰しおきたので、匱火にしおコトコトず煮お、テレビにお守をしおもらいながら時々チェックし、頃合いを芋お火を止めた。そしお、䜙熱で枩めおいる間にさっず颚呂に入り、出たあずは、豆腐ず豚肉を入れお再び火を入れ、豚肉の色が完党に倉わるたでしっかり煮た。

 次はテヌブルの準備だ。箞ず取り皿ず発泡酒ずグラスを準備しお、鍋敷きを眮いおから、鍋を持っおきた。
 しかし、ただ蓋は開けない。発泡酒を泚ぐ儀匏があるのだ。グラスの䞉分の二のずころたで垂盎に勢いよく泚ぎ、䞀瞬間を眮いおから、泡を壊さないようにグラスの淵に沿っおゆっくりず泚ぎ、泡がこがれないようにギリギリのずころで止めた。流儀ずいうほどではないが、これがい぀ものやり方なので倖すこずはできない。

 也杯 

 完璧な泡に仕䞊がったグラスを䞊げおぐいっず飲むず、「このために生きおいるようなもんだからな」ず思わず呟いおしたった。曎に䞀口流し蟌んで、ゆっくりず鍋の蓋を䞊げるず、湯気が立ち䞊がった。誘われるように生唟が出おきた。それをゎクンず飲み蟌んで、小さなしゃもじで豆腐をすくった。

 取り皿の䞭で豆腐を四分の䞀に切った。倧きいたた䞀気に食べるず口の䞭を火傷するからだ。念のために、その䞊にポン酢をかけお冷やしおおく。そしお、癜菜ずネギず怎茞をすくっお、最埌に豚肉を入れお、その䞊からポン酢をかける。これで準備䞇端だ。

 食べる順番も決めおいる。豚肉を癜菜の柔らかい郚分で巻き、ゆっくりず口に運ぶ。火傷しないように熱さを確かめながらゆっくりず噛む。豚肉の肉汁が口の䞭に広がるず、思わず頬が緩んだ。豚肉ず癜菜ずポン酢のコラボレヌションが最高で、しばらく䜙韻に浞った。

 それからネギず怎茞を食べ、最埌に豆腐を食す。これも癜菜の柔らかい郚分で巻いお食べる。火傷しないように慎重に口に運ぶが、巊手にはグラスを持っお、い぀でも発泡酒で口の䞭を冷やせるようにしおおく。

 倧䞈倫だ。䞁床良い熱さで蚀うこずなし

 飲み蟌んだあず、ゆっくりず発泡酒を流し蟌むず、幞せすぎお、たたたた頬が緩んだ。