第四話 島の心臓(みなもと)

 島を包む雨は、夜の言葉をやわらかく噛み砕き、音の端だけをこちらへ渡してくる。社殿の屋根を叩く気配が、山の斜面で鈍くなり、入江では低い鼓動に変わる。湿りは骨にまで降り、刃の重さを少しだけ軽くした。人が集まる場所には、いつも火より先に息の密度が生まれる。今宵、毛利方の天幕の下で、息はひとつの図形に集まり、まだ名も持たぬ震えとして揺れていた。
 地図はもう湿りきっていた。滲みの中に書き足した線は、指でなぞれば消える。それでも、消えない筋がある。誰かの胸の奥に刻まれて、紙が破れても残る筋。沖田静は、濡れた手で紙の四隅を押さえ、白い小石を三つ、雨に濡れながら置いた。社殿の背の斜面にひとつ、そこから山道に沿ってひとつ、入江の喉にひとつ。三角ができた。
「ここが島の心臓です」
 飄々と、彼は言った。声は低く、雨に負けないほどの重さを持っているのに、どこか軽やかで、夜の端へするりと抜けていく。「社殿の背の斜面は、祈りのために人が踏み均した古い道。雨で音が消える。山道は風の向きを変える。入江は潮の息で膨らんだり痩せたりする。三つは別のようで、夜半にひとつの拍で動く。そこを抑えれば、伝令は切れる。切れたところから戦は崩れる」
 濡れた袖を絞りながら耳を傾けていた将のひとりが、口を開いた。年は上、腰は重い。重さは戦の場では信用だが、今夜のような夜には躊躇に変わる。「社殿へ近づくは穢れだ。祟りが立つ。兵が怖じる」
「怖じるのは、いいことです」
 沖田は笑った。笑っているのに、相手を逆なでする色がない。「怖じる兵は、足音を消します。足音の消えた列は、夜の刃に向いている。祟りは、済んだあとで受けましょう。今は息を合わせるだけです」
 別の将が、地図の上の小石を指で弾きたそうにして、思いとどまった。「伝令が切れても、奴らは目で動く」
「目は雨で濁る。耳は恐怖で鈍る。足は泥で重くなる。三つが重なると、人は見えないものに従い始める。見えないものは、こちらで用意できる」
「何を用意する」
「静けさを」
 たしかに笑った。飄々と、まるで今から酒を温める話でも始めるような、ひとの力を抜く笑いだった。「斬るより先に、静けさで包む。伝令が切れた先、斜面と山道と入江の喉元の間。そこに、音の薄い域がひとつできるはずです。人は薄い音に安心して、油断して、立ち止まる」
 立ち止まったものを、殺すのか、と誰かが問うた。問うた声の先には、血の匂いを好まぬ者の影があった。
「殺せるのに、殺さないこともできます」
 沖田は小石をひとつ、指の腹で押し、紙の上でほんの一分だけずらした。紙は擦れて破け、破れ目の繊維が雨水を吸って白く立った。「今夜、私は首を集めに来たわけではありません。声を集めるのです。声は、斬らなくても増える。増えた声を、相手は恐れて自分でほどく。そのほどけ目に、私たちの道は通ります」
 将のひとりが息を鋭く吸い、吐く間を誤って咳に変えた。咳はすぐに雨に飲まれた。誰かが、彼の笑いの奥に潜むものに気づいて、目を逸らした。嗜虐のきらめきが、刃よりも薄く、しかし確かにそこにあった。血に惹かれる心と、血を避ける理。二つを同じ掌に乗せ、重さを比べる癖が彼にはある。
「……失敗したらどうする」
 最大の躊躇は、いつも最後に口を開く。濡れた顎鬚の将が、唇の端に海の塩を白く浮かべたまま言った。「道が開かねば、ここで潰れる」
「失敗しても、私だけが死ねば良い構図です」
 沖田は、肩をすくめるように軽く笑って、皆の視線を受けた。雨音がひとしきり強まって、帳の天幕を打った。「斜面と山道と入江の三角は、夜が私に与えた耳の届く範囲にあります。見失ったら、私が消えるだけです。あなたがたは、標に沿って退けばいい。退く標は、もう誰かが打っている」
「誰か」とは誰だ、と問わない者たちの沈黙が、天幕の内側に溜まった。矢野の名は、ここでは呼ばれない。呼ばれぬものは、長く働く。沖田は、皆の沈黙を肯(うなず)きで受けて、白い小石に指を置いた。指の関節に古い傷が眠っている。眠っている傷は、今夜は目を覚まさない。
「丑寅の刻、潮が開く。風は山から降りる。鳥居の朱は薄くなる。音は、ひとつ減る」
 彼の言葉は、一種の祈りに似ていた。祈りの先に神は置かない。置かれたのは、潮と風と音の癖。人が嘘をついても、癖は嘘をつかない。嘘をつかぬものにだけ、刃を預けられる。彼は自分の刃を、夜の癖に預けるつもりでいた。
「お前は、祟りを怖れぬのか」と、また誰かが言った。
「祟りは、書きつけるものです」
「何に」
「記録に」
 笑いは、ほんの短く、雨に溶けた。将たちの顔には、納得と嫌悪の混じった色が交互に走った。人は祟りを恐れるふりをして、じつは記録を恐れる。名前が記されること、その重さと軽さ。沖田は、己の名が書かれない未来を、とうに見ていた。名を呼ばれぬ場所でだけ、生き延びられる者がいる。そういう種族が、夜にはいる。
 天幕の外で、潮の鳴りがわずかにおさまった。雨は弱くならない。弱くならないことが、逆に夜を薄くする。薄くなった夜の端で、人の躊躇いがひとつ、音もなく折れた。折れたものの代わりに、各人の胸に小さな硬さが生まれる。硬さは、命令よりも長い。
「よろしい」
 年長の将が、ようやく言った。声は疲れているが、退く方向ではない。「その三角、心臓とやら、叩け。伝令が切れ、敵がほどけるなら、そこから崩せ」
「崩すのは、雨です」
 沖田は、白い小石をもう一度押さえ、指先で雨を弾いた。弾いた水滴は、刃の上でだけ形を保つ。「我々は、ただ呼吸を合わせる」
 その時、天幕の端で斥候が身を屈め、合図の気配だけを置いて引いた。遠くの砂地で、低い呻きがひとつ途切れ、別の場所でまた始まった。噂はまだ生きている。白装束が首を持った、という噂。首のない死体は見つからず、声だけが増えていく。声は刃の代わりに働く。噂は刃の鞘だ。鞘の中で刃は錆びない。
 沖田は小石を拾い上げ、今度は懐に収めた。小石の冷たさが骨へ降りる。骨は冷たいほうが、折れにくい。「では、たしなみに行ってきます」
 飄々と、その言葉を置いて、彼は天幕の外へ出た。雨が肩に落ちる。白は濡れて重い。重い衣は、刃よりも先に彼の体を沈め、音を薄くする。薄い音が、今夜の彼の味方だ。
 道の向こうで、誰かが小さく笑い、誰かが小さく沈黙した。その二つが重なったところに、戦の核は生まれる。核は熱を持つ。熱は、雨で隠される。隠された熱だけが、夜を渡る。
 同じ夜、別の道。古い石畳が、山の腹を斜めに走っていた。木の根が石の隙から指を出し、落ち葉の下には湿気を含んだ黒い土が眠っている。人はいつからここを歩いているのか分からない。道の中央がわずかに凹み、雨が細い川を作っていた。矢野蓮は、その凹みの水を跨ぎながら、上へ向かった。
 背に担ぎ上げられた負傷兵の息が浅く、揺れるたびに呻きが漏れる。呻きは雨に似て、やがて雨にまぎれ、最後には雨になった。矢野は、担ぎ手たちの肩と肩の間に指を置き、歩幅を合わせさせた。合わせた歩幅は、声より早く群れに伝わる。伝わった歩幅の合奏が、見張り線の空気を一度だけ綺麗にした。綺麗にされた空気は、すぐに汚れる。汚れても、整えられた記憶だけは残る。
 古道の曲がりで、彼女は立っていた。背が曲がっているのか、夜がそう見せるのか、判断がつかない。薄い藍の布を頭にかぶり、足袋は泥を吸って重く、手の甲に張り出した骨は雨を受けて青白い。老女は、矢野を待つでもなく、ただそこにあった。道の一部のように。
「ここは神さまの島」
 会釈もなく、老女は言った。声は雨よりも古かった。古いものほど、重さを持たずに降りてくる。「死んでも名を呼ばれぬ」
 矢野は、軽く頭を下げた。名を呼ばれぬ、という言葉は、この島の空気のどこにでも触れている。天幕の内でも、鳥居の下でも、泥の上でも。彼の胸の中で、その言葉は、昼間から何度も反芻されて、骨に触れ始めていた。
 老女は、懐から小さなものを取り出した。濡れた紙に布を巻いた、掌の皮ほどの大きさ。結び目は藁で、節が二つ。潮除けの護符だった。老女の指がそれを持つと、薄い紙が雨を吸って色を変えた。矢野は、掌を差し出した。受け取りながら、掌の皺が護符の湿りを吸うのを感じた。吸った湿りは、掌の奥で祈りに変わる。
「これで、潮が道を塞いでも、足が迷わん」
 老女は、言葉より先に、彼の胸の前に護符を押しつけた。押される力は弱いが、抗えない種類の重さを持っていた。「名を呼ばん島で、名を置くな。置けば、どこにも届かん」
「ありがとうございます」
 矢野の声は、礼よりも低く出た。低いところに落ちた声は、長く残る。彼は護符を懐に入れ、布の内側で指を離さなかった。離さぬ指は、心の中で握ったまま、別のものを掴んでいる。兵の命、退く道、夜の秩序。掴むものが多いほど、握った手は軽く動かねばならない。
「おまえさん、誰の子や」
 老女は、矢野の目を見るようで見ないまま、問うた。名の代わりに血の筋を問うたのだ。矢野は答えなかった。名は呼ばれぬ、と彼女が言ったばかりだ。呼ばれぬ名を、わざわざ自分で呼び起こす意味はない。老女は、答えがないのを責めなかった。責めぬことこそ、問いの真意だ。
「誰でもない子で、ええ」
 老女は、雨を見た。「誰でもないまま、背負うもんは、誰より重(かさ)なる。誰でもない名は、道に残らんでな。ええ道じゃ」
 彼女はそう言うと、矢野の肩の泥を、指先で軽く払った。払われた泥が、雨の川に混じって流れていった。肩を払われるという行為が、どこか別の記憶と重なった。矢野は、さっき払った自分の肩の泥の重さを、遅れて思い返した。あの仕草が群れに伝わるのを、彼自身が見ていたのだ。老女は、それを見透かしていたのか、いないのか。どちらでもよかった。
 護符の藁は柔らかく、紙は硬いところと柔いところが交互にあった。雨水を吸って、冷たさが骨へ降りる。骨は冷え、心は澄む。澄んだところに、島の言葉が沈んだ。「名を呼ばれぬ」という響き。呼ばれない名は、誰かの掌で温まるまで、ただの沈黙だ。掌がそれを抱えたとき、沈黙は道標になる。
「ここで死ぬな」
 矢野は、護符を押さえたまま、担ぎ手たちに振り返らずに言った。声は小さい。小さい声ほど、近くの者へ深く届く。老女は、頷きもせず、否もせず、ただ雨の来た方を見た。雨はいつでも同じ方角から来る。違うのは、受ける側の膝の角度だ。膝の角度は、今夜、同じ方向へ揃いつつあった。
 老女は踵を返し、古道の影へ溶けていった。影に溶ける者は、名を呼ばれない。呼ばれないから、祟りにも恩にも触れない。彼女の背が消えるまで、矢野はそこに立っていた。消えたあと、護符の位置を少し上げた。心臓の上へ。心臓の拍は、雨よりもゆっくりで、しかし確かにそこにあった。
 山道の上から、潮の鳴りがひとつ変わった。丑寅の刻へ向けて、海は息を吸い、鳥居の朱は雨に滲んで薄れた。薄れた朱の向こうで、白い影が一度だけ、肩を傾けたように見えた。見間違いかもしれない。見間違いでよい。見間違いの中に、礼の気配が眠っていることがある。
 矢野は、標の位置を二つだけ修正した。修正は、名を呼ばれないままに行われるべきものだ。名を呼ぶと、修正は命令に変わる。命令になった瞬間、それは誰かの顔に縫い付けられる。顔に縫い付いたものは、夜に重い。重いものを多くぶら下げて夜を渡る者は、途中で沈む。
 入江のほうから、舟板の軋む音が聞こえた。漁師が潮を読むために板を蹴るのだろう。蹴られた板は、水に触れて、舌打ちのような小さな音を返す。舌打ちが三つ、間を置いて二つ、また一つ。沖田が言った「静けさの域」の輪郭が、音の欠落として現れ始めていた。
 天幕の下へ戻る途中、沖田は、雨の中で刃を一度だけ抜いた。刃の腹が、鳥居の朱の残りを薄く抱いた。抱いたまま、何も映さない。映らないことが、今夜は礼だった。濡れた手の甲の傷はもう閉じて、皮膚は少し白くなっていた。白は雨の色ではない。白は、名のない色だ。名のない色は、夜に長くいる。
「静殿」
 背後で、誰かが呼んだ。静、と。名を呼ばれたが、彼は振り返らなかった。名を呼ばれぬ島で、名は呼ばれたふりだけをすべきだ。ふりの中に、存在は隠れる。隠れた存在は、祟りに届かない。それでよい。祟りは、あとからまとめて受け取ればいい。今は、音の薄い場所へ、音の薄い足で入る。
 天幕の縁に、年長の将がまだ立っていた。濡れた顎鬚は雨を飽きて、静かに垂れている。彼は沖田の横顔を見、言う。「死ぬ気でいると、兵は怖れる」
「死なない気でいると、兵は死にます」
 沖田は、飄々と答えた。軽口の形だが、軽口の骨は硬い。「私は死ぬ気ではない。死んでも構わぬだけです」
 将は、鼻で笑うふりをして、笑わなかった。笑えば、祟りが寄る。笑わなければ、雨だけが寄る。「たしかに、祟りは記録に残る」
「記録は、雨に弱い」
 沖田は、天幕から外へ出て、夜を見た。夜は、彼のほうへ少しだけ傾いていた。傾いた夜は、彼を信じているわけではない。信じないまま、足場を貸す。足場がある間に、三角の心臓へ指を差し入れる。そこは、島の皮膚の最も薄いところだ。薄い皮膚ほど、刃は冷たさをよく覚える。
 矢野は、護符の紐が濡れて肌に張りつく感触で、夜の動きを測った。張りつく軽さが変わるとき、風の向きが変わる。風が変われば、狼煙は裂ける。裂けた狼煙のかわりに、彼は指で地面を撫でた。泥の縁が、予想よりも浅い。浅いところに、足を置く。浅いところに置かれた足は、次の一歩を深くしない。深くしない一歩は、長く続く。
 老女の言葉が、遅れて胸の中で重くなった。「名を呼ばれぬ」。呼ばれないことは、不在の肯定ではない。匿名の赦しだ。赦しは、戦に似合わない。似合わないものを胸に抱えて、なお刃を持つとき、人はようやく戦から半歩退くことができる。半歩退いた者だけが、全員の背を見られる。背を見る者だけが、背を守る。
 入江の向こう、島の心臓が、雨の膜越しにふくらんで見えた。社殿の背の斜面は、祈りの昇降で磨かれ、山道は獣の足で柔らかく、喉のような入江は潮を甘やかせていた。三つは、今、同じ速度で呼吸している。呼吸が合うとき、人は道を誤らない。誤らないときにだけ、奇襲は奇襲でなくなる。ただの歩行になる。歩くだけで、戦は崩れる。
 沖田は、白い小石を、地図ではなく地面に置いた。置いて、爪の先で軽く弾いた。石は泥に沈み、音は出ない。音が出ないところでこそ、心臓の拍は大きくなる。彼は、斜面の入口に耳を当てるように、肩を寄せて立ち、雨の向こうで一度だけ小さく頷いた。
「行こう」
 声は誰にも届かず、彼自身の骨にだけ入った。骨に入った合図は、足へ伝わる。足が一歩、夜へ沈む。沈んだ夜が、反対側から持ち上がる。持ち上がった夜の下で、三角の心臓が露わになる。
 矢野は、護符の結び目に指を当て、結びの硬さを確かめた。硬さは、ほどけるためにある。ほどけない結びは、祝言には似合っても、戦には向かない。向いているのは、ほどくことを前提に締めた結びだ。締め方が甘いのではない。ほどき方を先に知っている締め方。彼は、結びの位置を少しずらし、呼吸に合わせた。
 島は、深いところで、心臓の音をひとつ打った。雨は厚さを変えない。変えないまま、音を薄くする。薄くなった音の間に、人の息と刃の重さが滑り込む。滑り込んだものは、もう呼ばれない。名を呼ばれぬまま、彼らは心臓へ指を延ばす。
 その夜の、核は、祟りを忘れたふりをしていた。忘れたふりの中に、記録の影がうすく差している。やがて、誰かが言うだろう。あの夜、三角の心臓を押さえた白い影がいた、と。だが、名は呼ばれない。呼ばれぬほうが、長く残る。残ったものは、雨が洗い続ける。
「ここでは、死なせない」
 矢野は、声にせずに言った。彼の声は骨に沈み、骨は、標の木札のざらつきと同じ場所で鳴った。木札は濡れて重く、重さで地へ噛む。噛んだ場所は、明け方になっても動かない。動かないものがある限り、人はそこへ戻れる。戻ることを前提に進む。進むことを前提に退く。
「この島は、死がよく似合う」
 沖田は、声に出した。出した声は雨に薄められ、意味が骨だけになった。骨だけの意味は、刃より長い。長い意味を携えたまま、彼は三角の心臓へ、軽い足取りで、しかしためらいなく沈んでいった。白は重い。重い白ほど、夜に向いている。向いているものは、祟りを恐れない。恐れないふりをして、記録を恐れる。恐れの形が、彼の笑いの端で一度だけ光り、また消えた。
 雨は、島の上で丁寧に降り続けた。社殿の背の斜面、山道、入江。三つの拍が、同じ間で重なり合い、心臓の皮膚がうすく震えた。震えの上で、人の足が音を落とし、見えない合図が往復し、礼が言葉にならぬまま繰り返される。祈りは短い。命令も短い。長いのは、雨だけだ。
 その長さが、奇襲の核を覆っていた。覆われるものほど、よく働く。働きの終わりに、祟りは来る。来たとき、名は呼ばれない。呼ばれないまま、誰かの掌が護符の紙を温め、誰かの刃が濡れた鞘を開き、誰かの肩から泥が払われる。その一連が、はじまる前に、夜はもう少しだけ彼らのほうへ傾いた。傾いた夜の下で、心臓は、静かに、確かに、ここにあった。