5話
映画館を出て、トイレに行くと言う南波を壁に寄りかかって待っていたら、「あ!!」と大きな声が聞こえて、驚いてそちらを見る。そこには、映画を観る前に声を掛けてきた、派手な女の子――ミサキちゃんの姿があった。
「南波くんのお友達じゃん!」
「あ、どうも」
「もしかして同じ映画観てた?」
「どうだろ」
「ってかさ! ちょっと協力してよ!」
「きょ、協力?」
ギャルは圧が強い。
そもそも男子校生は、生身の女の子に慣れていないんだ。
中学の頃は普通に話せていたはずなのに、たじたじになってしまう。
「そ! サヤはさ、まだ南波くんのこと諦めきれてなくって!」
「あ、そうなんだ」
やっぱり、サヤちゃんのあの様子は、そういうことだったらしい。
「ここで会ったのも運命じゃん? この後、四人でお茶でもしない?」
「は!?」
「いいっしょ?!」
「いや、南波いないし――」
肝心のその二人の姿がないんじゃ、俺が勝手に決められない。
俺が目を逸らすと、ギャルはじっと俺を見つめ、ずいっと近付いてくる。
「ってか、拒否権ねーから! サヤの未練、断つべし!」
ぎゃ、ギャルってこわい……。
見た目はかわいいのに、声にはドスが聞いている。
「浅木?」
泣きそうになっていると、ふっと南波の姿が現れて、「な、南波~!」と俺は駆け寄ってその後ろに隠れた。この子、怖いんです……。
「何、どういう状況?」
「あは、南波くんの友達と仲良くなりたくって~!」
「ちょ、ちょっと、美咲?!」
トイレに行っていたらしいサヤちゃんもやって来て、この状況に驚いている。
「んじゃ、四人揃ったし、茶ァしばきに行こ!」
ミサキちゃんだけが、超強引だ。
「は?」と温度のない声を発した南波と、「はわわわわ」と青褪めているサヤちゃん、何故かご機嫌に先頭を行くミサキちゃん、何故か巻き込まれた俺、という構図で、断りきれなくてカフェに入った。ショッピングモール内のカフェは、休日で賑わっていたが、たまたまテーブル席が空いていて、四人で座ることができた。
それぞれ、南波はブラックコーヒー、俺はピーチソーダ、サヤちゃんはホットココア、ミサキちゃんはクリームソーダを自分の前に置いている。
「で、最近どお?」
ギャルって、強い……。
俺からしたら気まずすぎるこの四人なのに、臆した様子もなく切り込んだのはミサキちゃんだ。南波は、小さく息を吐き出して「普通」とだけ答えた。うわっ、塩対応!
「あっは、浅木くんだっけ? 学校の南波くんってどんな感じ?」
「どんなって……えー、ふ、普通……?」
「何それ! 仲良しかよ~!」
南波に倣って答えたら、ギャルが爆笑している。
その間も、ミサキちゃんの隣に座ったサヤちゃんは、気まずそうにもじもじしていた。
「サヤも、なんか聞きたいことあったら聞きなよ」
ミサキちゃんが促しても、サヤちゃんは「い、いいよ」と首を振っていた。
南波は何も言わない。表情も、何を考えているのか、読めなかった。
「じゃあ、あたしが聞くけどいい?」
「み、美咲……」
「なんでサヤと別れたの?」
いやいやいや、それ、ここでぶっこむ!?!
気まずすぎて持っていたままだったソーダを吹き出しそうになって、慌てて飲み込んだ。
中学の頃って、二年前っしょ? 引きずりすぎじゃね?
――と、内心思うものの、ぎゅっと拳を握って瞳をうるうるさせているサヤちゃんからしたら、きっと、死活問題なんだ。
ミサキちゃんも、大事な友達のために、必死なんだろう。
完全なる部外者の俺は、黙って成り行きを見守ることしかできない。
「言ったはずだけど」
やっと口を開いた南波の声は、冷たい。
「やっぱり付き合えない、って」
その一言に弾かれたように顔を上げたサヤちゃんが、また顔を俯かせた。
「だから、その理由を聞いてんじゃん! はっきり理由がわかんないとさ、」
ミサキちゃんは、一度言い難そうに口を閉じ、それから、続きを言った。
「サヤだって、次に進めないんだよ」
未練を、断ち切る。
さっき、ミサキちゃんが言ったのは、こういうことだったんだ。
南波とよりを戻すことが目的じゃなくて、サヤちゃんの気持ちを切り替えることが目的。
なるほど、いい友達だなあ……。
「小川の問題じゃなくて、俺の問題だから」
南波ははっきりと言って、ちらりと俺を見た。
いや、俺のことは気にしないでくれ。壁だと思ってくれ。
そういう意味を込めて目を逸らし、ひたすらソーダを啜る。
つーか今日水分取りすぎて、流石にトイレに行きたくなってきた。
「あ、俺、ちょっとトイレに……」
「うん、行っておいで」
あ、よかった。
ここで引き留められたらどうしようかと思った。
もう少し早くこうしておけばよかったな、と反省しつつ、俺は席を立った。
◇◇◇◇◇
浅木がトイレに向かってから、南波が口を開いた。
「――小川のことは、友達として、好きだった」
その言葉に、サヤとミサキが息を飲む。
「だから、告白されて、付き合えると思った。……でも、駄目だった」
「手、つなぐのも、キスも、できなかったって」
「うん。俺、」
――女の子のこと、恋愛対象として見られないんだ。
南波の声に、サヤの瞳が大きく見開かれた。ミサキも眉を上げている。
「だから、小川は何も悪くない。――こんな俺を好きになってくれて、ありがとう。あの時、素直に理由を言えなくてごめん。自分でも、すぐに受け入れられなかったから」
南波が頭を下げると、サヤの瞳から溢れた涙が、頬を伝った。
そして、謝罪の声に、大きく首を横に振る。
「ううん、伝えてくれて、ありがとう……」
涙に掠れた声でそう言うサヤの震える手を、ミサキが握った。
「な、なにそれ、もー、責められないじゃんー!」
「責める気だったの」
「そりゃあもう! 他に好きな子が出来たとかって理由だったらさー、バチボコやってやるつもりだったけどさ!」
肩を震わせるサヤを隣から抱きしめながら、つられて泣き出したミサキが大声で言った。
「でも、その気もないのに付き合ったのは最悪だから! 謝って!」
「ごめん」
「も、もういいよ、美咲、」
「でも!」
ぐず、と鼻を啜ったサヤが、ヒートアップする美咲を止める。
涙を拭って、赤い鼻で、南波を見た。
「南波くん、幸せになってね」
涙声でそう言うサヤに、南波は面食らった。そして、笑う。
「うん。小川もね」
「サヤはあたしが超ウルトラスーパー幸せにしてあげるんだから!!」
横から入ったミサキがサヤを強く抱きしめて宣言するのに、サヤも笑っていた。
南波はコーヒーを一口飲んで、一息吐く。
◇◇◇◇◇
――も、戻れねえ……。
トイレから戻ろうとしたら、サヤちゃんが泣いていて、ミサキちゃんがサヤちゃんを強く抱きしめて、南波が悟った顔でコーヒーを飲んでいる。
とてもじゃないが自分の席に戻れる気がしなくて、これはもう少しどこかで時間を潰して来たほうがいいんじゃないかと踵を返そうとしたら、うろうろしている俺に気付いた南波が、立ち上がった。
二人になにか話して、こちらに向かってくる。
「浅木、ごめん」
「あ、いや、え、いいの?」
「うん、話は終わったから」
「そ、そっか」
ちらりと二人の方を見ると、俺に気付いたサヤちゃんとミサキちゃんが、頭を下げたり手を振ったりしているから、ぺこりと頭を下げた。
「なんか、修羅場だった?」
流石に聞かないわけにはいかなくて、ちらりと南波を見て尋ねると、南波は笑った。
さっきの無表情ではない、いつもの南波の表情に、無意識にほっとして胸を撫で下ろす。
「いや、解決したよ」
「そっか、よかったな」
確かに、最後に見た女子ふたりの顔は、なんだかスッキリした顔をしていた。
心の底からそう思って笑うと、南波が少し瞳を丸くした。
「歩きながら話していい?」
「あ、うん」
そう断って、ショッピングモールの中を歩き出す。
ここは、駅に直通で、電車に乗ればお互いの最寄り駅まですぐに着いてしまう。
バスのとき同様、路線は反対だけれど。
「小川とは中学三年の時、付き合ってたんだ」
「小川ってサヤちゃん?」
「あ、そう。お互い図書委員で、本の趣味が合って」
きっと、サヤちゃんは、図書室で本を読む南波の姿を見て、好きになったんだろう。
う、なんだか、ザワザワする。
「卒業近くになって、告白されて。友達として好きだったから付き合ったんだけど」
夕方の図書室、真っ赤になって健気に告白するサヤちゃんと、それに頷く学ランの南波。
そんな二人の姿が頭を過ぎって、ズキリと胸が痛くなった。なに、なにこれ?
図書室で過ごす南波の姿は、俺だけのものじゃないなんて、当たり前のことに気付かされた。
「でも、どうしても合わなくてさ」
南波の声が、右から左に流れていくようだ。
「別れたんだけど、」
「なっ、南波!」
これ以上聞きたくなくて、俺は思わず、足を止めていた。
「浅木?」
「お、俺、買い物あったの忘れてて、」
「付き合うよ」
「いやっ、ひとりで買いたいから! じゃあ! また学校でな!」
良いお年を!!
なんて大声を出して、手を振った。
「いや、浅木、」
俺を引き留めようとする南波は珍しく焦った声をしていたけれど、走り出してしまってもう止まらない。
めちゃくちゃダサいけれど、聞きたくなかったものは、仕方ない。
『久遠、合コン誘って』
部屋に帰って、まずしたのは、そんなメッセージを友人に送ることだ。
南波から『大丈夫?』とメッセージが来ていたけれど、既読すらつける気にならなくて、返事が出来ていない。ごめん、南波。お前は悪くない……。
サヤちゃんは、清楚ですごくかわいかった。
本を読む姿が、自然とイメージできる。
きっと、南波の隣に立つのは、あんな女の子がお似合いだ。
じゃあなんで別れたんだろう……。
でも、もしかしたら、俺がいないところで、復縁の兆しがあったのかもしれない。
サヤちゃん、泣いてたし。
ミサキちゃんも抱きついていて、ある意味お祝いしていたのかもしれないし。
男だらけの高校に通っていたら、女の子が恋しくなるよな。
俺も、女の子と暫く関わっていなかったから、南波の言動に一喜一憂しちゃうのかもしれないし!
『いいけど、好きな子大丈夫なん?』
『好きな子とかいねーから!!』
久遠からの返事はこの間の会話を引きずったもので、強く突っ込んだ。
そう、そうだ。
南波は、友達だ。
見誤るな、俺!
『じゃあ、聞いてみるわ』
お願いワン、と犬がお願いしているスタンプを押して、スマホを閉じる。
あーあー、スッキリしねえなあ。
机の上に置いてある、図書館で借りた小説をちらりと見る。
まだ三分の一しか読み進められていなくて、二人の宿題である感想文は、まだ送れない。
映画館を出て、トイレに行くと言う南波を壁に寄りかかって待っていたら、「あ!!」と大きな声が聞こえて、驚いてそちらを見る。そこには、映画を観る前に声を掛けてきた、派手な女の子――ミサキちゃんの姿があった。
「南波くんのお友達じゃん!」
「あ、どうも」
「もしかして同じ映画観てた?」
「どうだろ」
「ってかさ! ちょっと協力してよ!」
「きょ、協力?」
ギャルは圧が強い。
そもそも男子校生は、生身の女の子に慣れていないんだ。
中学の頃は普通に話せていたはずなのに、たじたじになってしまう。
「そ! サヤはさ、まだ南波くんのこと諦めきれてなくって!」
「あ、そうなんだ」
やっぱり、サヤちゃんのあの様子は、そういうことだったらしい。
「ここで会ったのも運命じゃん? この後、四人でお茶でもしない?」
「は!?」
「いいっしょ?!」
「いや、南波いないし――」
肝心のその二人の姿がないんじゃ、俺が勝手に決められない。
俺が目を逸らすと、ギャルはじっと俺を見つめ、ずいっと近付いてくる。
「ってか、拒否権ねーから! サヤの未練、断つべし!」
ぎゃ、ギャルってこわい……。
見た目はかわいいのに、声にはドスが聞いている。
「浅木?」
泣きそうになっていると、ふっと南波の姿が現れて、「な、南波~!」と俺は駆け寄ってその後ろに隠れた。この子、怖いんです……。
「何、どういう状況?」
「あは、南波くんの友達と仲良くなりたくって~!」
「ちょ、ちょっと、美咲?!」
トイレに行っていたらしいサヤちゃんもやって来て、この状況に驚いている。
「んじゃ、四人揃ったし、茶ァしばきに行こ!」
ミサキちゃんだけが、超強引だ。
「は?」と温度のない声を発した南波と、「はわわわわ」と青褪めているサヤちゃん、何故かご機嫌に先頭を行くミサキちゃん、何故か巻き込まれた俺、という構図で、断りきれなくてカフェに入った。ショッピングモール内のカフェは、休日で賑わっていたが、たまたまテーブル席が空いていて、四人で座ることができた。
それぞれ、南波はブラックコーヒー、俺はピーチソーダ、サヤちゃんはホットココア、ミサキちゃんはクリームソーダを自分の前に置いている。
「で、最近どお?」
ギャルって、強い……。
俺からしたら気まずすぎるこの四人なのに、臆した様子もなく切り込んだのはミサキちゃんだ。南波は、小さく息を吐き出して「普通」とだけ答えた。うわっ、塩対応!
「あっは、浅木くんだっけ? 学校の南波くんってどんな感じ?」
「どんなって……えー、ふ、普通……?」
「何それ! 仲良しかよ~!」
南波に倣って答えたら、ギャルが爆笑している。
その間も、ミサキちゃんの隣に座ったサヤちゃんは、気まずそうにもじもじしていた。
「サヤも、なんか聞きたいことあったら聞きなよ」
ミサキちゃんが促しても、サヤちゃんは「い、いいよ」と首を振っていた。
南波は何も言わない。表情も、何を考えているのか、読めなかった。
「じゃあ、あたしが聞くけどいい?」
「み、美咲……」
「なんでサヤと別れたの?」
いやいやいや、それ、ここでぶっこむ!?!
気まずすぎて持っていたままだったソーダを吹き出しそうになって、慌てて飲み込んだ。
中学の頃って、二年前っしょ? 引きずりすぎじゃね?
――と、内心思うものの、ぎゅっと拳を握って瞳をうるうるさせているサヤちゃんからしたら、きっと、死活問題なんだ。
ミサキちゃんも、大事な友達のために、必死なんだろう。
完全なる部外者の俺は、黙って成り行きを見守ることしかできない。
「言ったはずだけど」
やっと口を開いた南波の声は、冷たい。
「やっぱり付き合えない、って」
その一言に弾かれたように顔を上げたサヤちゃんが、また顔を俯かせた。
「だから、その理由を聞いてんじゃん! はっきり理由がわかんないとさ、」
ミサキちゃんは、一度言い難そうに口を閉じ、それから、続きを言った。
「サヤだって、次に進めないんだよ」
未練を、断ち切る。
さっき、ミサキちゃんが言ったのは、こういうことだったんだ。
南波とよりを戻すことが目的じゃなくて、サヤちゃんの気持ちを切り替えることが目的。
なるほど、いい友達だなあ……。
「小川の問題じゃなくて、俺の問題だから」
南波ははっきりと言って、ちらりと俺を見た。
いや、俺のことは気にしないでくれ。壁だと思ってくれ。
そういう意味を込めて目を逸らし、ひたすらソーダを啜る。
つーか今日水分取りすぎて、流石にトイレに行きたくなってきた。
「あ、俺、ちょっとトイレに……」
「うん、行っておいで」
あ、よかった。
ここで引き留められたらどうしようかと思った。
もう少し早くこうしておけばよかったな、と反省しつつ、俺は席を立った。
◇◇◇◇◇
浅木がトイレに向かってから、南波が口を開いた。
「――小川のことは、友達として、好きだった」
その言葉に、サヤとミサキが息を飲む。
「だから、告白されて、付き合えると思った。……でも、駄目だった」
「手、つなぐのも、キスも、できなかったって」
「うん。俺、」
――女の子のこと、恋愛対象として見られないんだ。
南波の声に、サヤの瞳が大きく見開かれた。ミサキも眉を上げている。
「だから、小川は何も悪くない。――こんな俺を好きになってくれて、ありがとう。あの時、素直に理由を言えなくてごめん。自分でも、すぐに受け入れられなかったから」
南波が頭を下げると、サヤの瞳から溢れた涙が、頬を伝った。
そして、謝罪の声に、大きく首を横に振る。
「ううん、伝えてくれて、ありがとう……」
涙に掠れた声でそう言うサヤの震える手を、ミサキが握った。
「な、なにそれ、もー、責められないじゃんー!」
「責める気だったの」
「そりゃあもう! 他に好きな子が出来たとかって理由だったらさー、バチボコやってやるつもりだったけどさ!」
肩を震わせるサヤを隣から抱きしめながら、つられて泣き出したミサキが大声で言った。
「でも、その気もないのに付き合ったのは最悪だから! 謝って!」
「ごめん」
「も、もういいよ、美咲、」
「でも!」
ぐず、と鼻を啜ったサヤが、ヒートアップする美咲を止める。
涙を拭って、赤い鼻で、南波を見た。
「南波くん、幸せになってね」
涙声でそう言うサヤに、南波は面食らった。そして、笑う。
「うん。小川もね」
「サヤはあたしが超ウルトラスーパー幸せにしてあげるんだから!!」
横から入ったミサキがサヤを強く抱きしめて宣言するのに、サヤも笑っていた。
南波はコーヒーを一口飲んで、一息吐く。
◇◇◇◇◇
――も、戻れねえ……。
トイレから戻ろうとしたら、サヤちゃんが泣いていて、ミサキちゃんがサヤちゃんを強く抱きしめて、南波が悟った顔でコーヒーを飲んでいる。
とてもじゃないが自分の席に戻れる気がしなくて、これはもう少しどこかで時間を潰して来たほうがいいんじゃないかと踵を返そうとしたら、うろうろしている俺に気付いた南波が、立ち上がった。
二人になにか話して、こちらに向かってくる。
「浅木、ごめん」
「あ、いや、え、いいの?」
「うん、話は終わったから」
「そ、そっか」
ちらりと二人の方を見ると、俺に気付いたサヤちゃんとミサキちゃんが、頭を下げたり手を振ったりしているから、ぺこりと頭を下げた。
「なんか、修羅場だった?」
流石に聞かないわけにはいかなくて、ちらりと南波を見て尋ねると、南波は笑った。
さっきの無表情ではない、いつもの南波の表情に、無意識にほっとして胸を撫で下ろす。
「いや、解決したよ」
「そっか、よかったな」
確かに、最後に見た女子ふたりの顔は、なんだかスッキリした顔をしていた。
心の底からそう思って笑うと、南波が少し瞳を丸くした。
「歩きながら話していい?」
「あ、うん」
そう断って、ショッピングモールの中を歩き出す。
ここは、駅に直通で、電車に乗ればお互いの最寄り駅まですぐに着いてしまう。
バスのとき同様、路線は反対だけれど。
「小川とは中学三年の時、付き合ってたんだ」
「小川ってサヤちゃん?」
「あ、そう。お互い図書委員で、本の趣味が合って」
きっと、サヤちゃんは、図書室で本を読む南波の姿を見て、好きになったんだろう。
う、なんだか、ザワザワする。
「卒業近くになって、告白されて。友達として好きだったから付き合ったんだけど」
夕方の図書室、真っ赤になって健気に告白するサヤちゃんと、それに頷く学ランの南波。
そんな二人の姿が頭を過ぎって、ズキリと胸が痛くなった。なに、なにこれ?
図書室で過ごす南波の姿は、俺だけのものじゃないなんて、当たり前のことに気付かされた。
「でも、どうしても合わなくてさ」
南波の声が、右から左に流れていくようだ。
「別れたんだけど、」
「なっ、南波!」
これ以上聞きたくなくて、俺は思わず、足を止めていた。
「浅木?」
「お、俺、買い物あったの忘れてて、」
「付き合うよ」
「いやっ、ひとりで買いたいから! じゃあ! また学校でな!」
良いお年を!!
なんて大声を出して、手を振った。
「いや、浅木、」
俺を引き留めようとする南波は珍しく焦った声をしていたけれど、走り出してしまってもう止まらない。
めちゃくちゃダサいけれど、聞きたくなかったものは、仕方ない。
『久遠、合コン誘って』
部屋に帰って、まずしたのは、そんなメッセージを友人に送ることだ。
南波から『大丈夫?』とメッセージが来ていたけれど、既読すらつける気にならなくて、返事が出来ていない。ごめん、南波。お前は悪くない……。
サヤちゃんは、清楚ですごくかわいかった。
本を読む姿が、自然とイメージできる。
きっと、南波の隣に立つのは、あんな女の子がお似合いだ。
じゃあなんで別れたんだろう……。
でも、もしかしたら、俺がいないところで、復縁の兆しがあったのかもしれない。
サヤちゃん、泣いてたし。
ミサキちゃんも抱きついていて、ある意味お祝いしていたのかもしれないし。
男だらけの高校に通っていたら、女の子が恋しくなるよな。
俺も、女の子と暫く関わっていなかったから、南波の言動に一喜一憂しちゃうのかもしれないし!
『いいけど、好きな子大丈夫なん?』
『好きな子とかいねーから!!』
久遠からの返事はこの間の会話を引きずったもので、強く突っ込んだ。
そう、そうだ。
南波は、友達だ。
見誤るな、俺!
『じゃあ、聞いてみるわ』
お願いワン、と犬がお願いしているスタンプを押して、スマホを閉じる。
あーあー、スッキリしねえなあ。
机の上に置いてある、図書館で借りた小説をちらりと見る。
まだ三分の一しか読み進められていなくて、二人の宿題である感想文は、まだ送れない。


