深海のアトランティス国防基地から発射されたロケットパラシュートにしがみついたフランソワは、急速な水深変化に対応するため、エラの形態を変化させ続けていた。

 プハ~、

 海面に飛び出したフランソワはエラを消滅させて肺呼吸に切り替えた。

 あっという間に東京上空に差し掛かった。その途端、パラシュートがロケットから切り離され、それが大きく開いた。そして、呂嗚流が日光浴する美家のプールサイドへ向けてゆっくりと降下を始めた。

 しかし、あと500メートルとなって着地態勢に入った時、降下スピードが急に速まった。

 何? 

 不安になったフランソワはパラシュートを見上げた。

 えっ? 

 穴が開いていた。10センチ四方の穴が2つ。その周りに何かが張り付いていた。

 なんだ? 
 もしかして海藻か? 
 まさか……、

 でも、そうだった。ロケットから切り離された時、ロケットに付着していた海藻が何故かパラシュートに張り付いたようなのだ。それが太陽の熱を集め、その部分だけ焼け焦げていた。

 すぐに下を見た。泡をいっぱい口に貯めて白目を剥いた呂嗚流の姿が確認できた。

 ヤバイ! 
 ぶつかる!

 フランソワは下半身に力を入れた。

 ジャーーー!

 猛烈な勢いで尿を噴射した。それが逆噴射効果となって、降下スピードが緩くなった。

 よし、いいぞ、
 ジャーーーーーー!

 更に力を入れて噴射した。すると、一気にスピードが落ち、

 トン。

 2本の後ろ脚で椅子の笠木(かさぎ)に無事着地した。
 フランソワの股の間には呂嗚流の顔があった。
 彼の口の中はフランソワの尿で溢れんばかりになっていた。

 スリー、ツー、ワン、ゴー!

 フランソワがカウントを数えると、呂嗚流がゴクンと飲み込んだ。

 効いてくれ!

 フランソワは肉球を合わせて必死になって祈った。すると、それが聞き入れられたのか、呂嗚流の体に変化が起こり始めた。白目が黒目に変わり、肌に血色が戻ってきた。99パーセントの細胞を再生したフランソワの尿に含まれる強力な生理活性物質『スーパーZ』が呂嗚流の細胞を賦活化しているようだった。

 取り囲む全員の視線が呂嗚流に注がれる中、椙子が彼の手に触れた。そして、祈りを込めるように強く握った。その途端、彼の顔が思い切り歪んだ。

「マズッ!」

 唇に付いたフランソワの尿を手で拭った。

「呂嗚流様!」 

 目を輝かせた椙子が彼の首に抱きついた。余りに嬉しかったのか、ギュッと抱き締めた。

「グヘッ」

 呂嗚流がまた白目を剥き始めた。

「あっ!」

 椙子が慌てた様子で呂嗚流から離れた。

 ふ~~、

 呂嗚流が大きく息を吐いた。その瞬間、両手に繋がれていた点滴チューブが弾け飛んだ。

「絶好調だぜ!」

 呂嗚流が空に向かって吼えた。