「瞬間ガス発生カプセルだったの」

 体中のガスが抜けて元のスタイルに戻った玉留が笑った。

「でも、なぜ僕のいる場所がわかったのですか?」

 世界最高レベルのステルス技術と透明化技術で守られているため、可動式人工島の場所は絶対にバレないと豪語していた富裸豚の顔が思い浮かんだ。

「シャチよ。シャチが何十頭も円を描くように泳いでいたの」

 シャチが発する超音波はあらゆるものを把握できるという。人間には見えないものでも、その輪郭はもとより組成物までわかってしまうらしい。

 ウソだろ? 
 ヤバイヤバイ! 

 このことを一刻も早く教えなくてはならないと富裸豚の身の安全を気にかけた時、捜索隊長が玉留に耳打ちした。

「えっ? 富裸豚が危ない?」

 しまった、遅かったか、

 唇を噛んだフランソワだったが、状況は考えていることとはまったく違っていた。

「ゴンドワナ大国とムー大国、そして、アトランティス大国の定例首脳会談が明朝に行われるようです。そのため、ゴンドワナ大国の自己中(じこちゅう)駄王(だおう)とムー大国の眠優王(みんゆうおう)がアトランティス大国の首都オスシーラに滞在しておりますが、自己中駄王による富裸豚暗殺計画を我々は察知したのです」

 フランソワの首から飛び立ったてんとう虫型探査ロボットは、その後もアトランティス大国内を飛び回って多くの情報を収集していた。そうする中で、自己中駄王の陰謀を嗅ぎつけたのだ。更に捜索隊長の報告が続いた。

 ゴンドワナ大国は先代の他己中(たこちゅう)大王(だいおう)時代に大繁栄したが、長男である自己中駄王に禅譲(ぜんじょう)して以来、急速に国力が落ちていた。他己中大王が老年期になってできた初めての子供ということもあり、これ以上はないというほど甘やかせて育てたため、自己中駄王は度を超えた我儘(わがまま)な性格になっていた。なんの努力もしないで他人の物を欲しがるのだ。そして、欲しいと思ったものはどんな手段を使ってでも手に入れようとするのだ。自分の代になって国力が落ち、国民の幸福度調査においてアトランティス大国に大差で離されるようになると、国民の不満が高まり、それが彼への批判となって退陣論が出始めた。本来なら謙虚に自らの治世力の無さを反省すべきところだが、そんなことに気づくはずもなかった。それどころか、国民に愛されている富裸豚覇王を妬むようになった。うまいことやりやがって、と富裸豚の努力を見習おうともせず、彼の成し遂げた成果を単なる幸運と片づけていた。
 そんな自己中だったから、横取りすることを思い付くのに時間はかからなかった。富裸豚が死ねばアトランティスが自分のものになると思ったのだ。それは余りにも安直な考えだったが、躊躇いもなく側近に富裸豚暗殺命令を出した。 
         
「で、その方法はなんなの?」

 玉留は捜索隊長を問い詰めた。

「それが……」

 まったく聞き取れなかったのだと言う。

「う~ん、困ったわね」

 玉留の顔に苦悩の色が浮かんだ。

「とにかく、その側近を徹底的にマークして。探査ロボットを彼に張り付かせて。そして、何かわかったらすぐに報告して」