その数時間前、意を決した玉留は救援装備服を身に着けていた。

「助けに行くわよ」

「それは無茶でございます」

 秘書が必死になって止めた。

「止めても無駄よ。あたしはフランソワを救い出す!」

 秘書の手を振り切って、ヘリコプターで飛び立ち、すぐさま無線で捜索隊長と連絡を取った。

「あなたの場所を教えて」

 返事はすぐに返ってきた。

「小笠原諸島近くの公海上空です。あの不思議な円を発見いたしました」

 何十頭ものシャチが直径1キロの円を描いて泳いでいる不思議な光景のことだった。

「わかった。すぐに直行する」

 成田のプライベート飛行場に着いた玉留は、アメリカ国防省からチャーターした完全自動操縦戦闘機『Xラプター』に乗り込み、一気に小笠原上空へ達した。
 すると、飛行機に備え付けられた高解像度カメラが捉えた映像がディスプレーに映し出された。隊長の報告通り、シャチが円を描いて泳いでいた。

「今よ!」

 叫ぶと同時に、玉留は緊急脱出し、捜索隊長がリモートコントロールする位置情報確認誘導パラシュートで救出に向かった。

        *

 天に向かって吠えるように笑っていた富裸豚の視力8.8の目に小さな点のようなものが飛び込んできた。

「なんだあれは!」

 尋常ではない富裸豚の声を聞いた護衛隊に緊張が走った。

「全員戦闘準備!」

 護衛隊長の声が響き渡った。その時、超高解像望遠装置を持った隊員が走り寄ってきた。

「女が一人でパラシュート降下をしております」

 その姿を捉えた受像機を富裸豚とフランソワが覗き込んだ。

「あっ、玉留様!」

 フランソワが驚きの声を上げた。

「知り合いか?」

「世界一の大富豪でございます」

「なんと、世界一の大富豪じゃと?」

 富裸豚が護衛隊長を手で制した。

「撃ち方準備止め!」

 それでも皆が警戒する中、玉留は優雅に着地した。

「フランソワ」

「玉留様」

 駆け寄った一人と一犬はヒシと抱き合った。

「元気だった?」

 頷いたフランソワは千切れるほどに尻尾を振った。しかし玉留は余韻に浸ることなく「帰るわよ」とフランソワに耳打ちして、口の中で何かを噛み砕いた。その瞬間、玉留の体が急激に膨張をし始め、一気に風船のようになった。

「破裂する~」

 フランソワが怯えた声を上げた瞬間、「行くわよ!」と叫んで、玉留が「ンッ」と顔を強張らせた。すると、

 プヘーーーーーーー!

 玉留の体からガスのようなものが超高速で噴射され、一直線に空へ上っていった。

        *

 一方、人工島では富裸豚たちが口をポカンと開けてそれを見つめていた。しかし、それは啞然としていたからだけでなく、口呼吸をするためだった。鼻で息が吸えないのだ。誰もが顔をしかめて鼻をつまんでいた。

 放屁と共に去りぬ!

 右手の指で強く鼻をつまんだ富裸豚が空に向かっていつまでも左手を振り続けた。