一方、心配そうな表情の玉留がフランソワの顔を覗き込んでいた。

「どうしたの? ホームシックにでもなったの?」

 フランソワは反応しなかったが、本心は椙子に会いたくてたまらなかった。
 それを察したのか、玉留がフランソワに寄り添うような声を出した。

「あなたのご主人ってどういう方?」

 フランソワは居ずまいを正した。

「美椙子様と言います。世界一美しい女性です」

「まあ、あなたのご主人があの……」

 目を見開いた玉留が絶句した。

「あの、って、もしかして椙子様のことをご存じなのですか?」

 頷いた玉留は、その訳を話し始めた。
 玉留は毎日鏡に2つの質問をするのが日課になっていた。1つは、「鏡よ鏡、この世で最も裕福な人を教えておくれ」という質問で、これに対しては、いつも「あなた様です」と答えてくれた。しかしもう1つの質問、「鏡よ鏡、この世で最も美しい女性を教えておくれ」に対しては、「美椙子様です。あなた様は2番目です」という答えしか返ってこなかった。だから、美椙子という名前は毎日聞いていた。だから、どんな女性か知りたかった。一度会ってみたいと思っていた。

「今から美椙子さんに会いに行きましょう」

 即決した玉留は秘書に日本行きの指示を出した。