プレジデント水戸老公

 数日後。
水戸邦光こと、徳川光圀は三ツ葉ホールディングス本社ビルの屋上に立っていた。
眼下には巨大な都市が広がっている。
その背後から、本多が静かに歩み寄った。
「ご老公様、こちらでしたか。もうすぐ月例会議が始まります」
「もうそんな時間か……」
光圀は小さく息を吐く。
本多は少し不思議そうに聞いた。
「何か悩み事ですか? ご老公にしては珍しいですね」
すると光圀は苦笑する。
「俺さぁ……学生時代から言われてたんだよ」
本多が首を傾げる。
「『お前は他の事は全部完璧なのに、女を見る目だけは絶望的だ』って」
本多は思わず吹き出しそうになる。
「俺、一生独身なのかなぁ……」
国内トップクラスの巨大企業を束ねる男の悩みとしては、あまりにも俗っぽかった。
本多は笑いを堪えながら言う。
「そのうち、きっと良い縁がありますよ」
「でもなぁ……」
光圀は空を見上げる。
「金や地位目当てで寄って来る女は嫌なんだよ」
 本多は少し考えてから言った。
「でしたら、またどこかのグループ会社へ平社員として潜入してみては?」
光圀は一瞬きょとんとした後、笑う。
「それも良いかもな!」
先程までの悩みが嘘のように吹き飛んでいた。
「よし!悩んでてもしょうがない!」
そして踵を返す。
「会議に行くぞ!」
「はい!」
 巨大企業“三ツ葉グループ”。
その絶対的支配者、“ご老公”徳川光圀。
今日もまた、誰にも知られぬまま日本経済の頂点で暗躍するのだった。