本多は、水戸の前まで進むと静かに立ち止まった。
そして。
深々と一礼する。
「ご老公様」
会場の空気が凍り付く。
「専務取締役、本多忠信。お呼びにより参上仕りました」
静まり返った会場へ、本多の声だけが響いていた。
一瞬。
誰も理解出来なかった。
そして次の瞬間。
会場中の人間が言葉を失う。
「……え?」
「は……?」
「ご老公様……?」
空気が完全に変わった。
ステージ脇で様子を見ていた渡辺と牧野も、顔を引きつらせている。
「あの若者が……本物のご老公様……!?」
渡辺が呆然と呟く。
牧野は青ざめながら小声で言った。
「や、やはり深入りしなくて正解でしたね……本部長」
「ああ……」
二人は本気で安堵していた。
一歩間違えば、自分たちも終わっていたのだ。
一方。
今川と愛子だけは現実を受け入れられなかった。
「こ、これは何かの間違いだ!!」
今川が叫ぶ。
「こんな奴が、ご老公様の筈がない!!」
愛子も半狂乱だった。
「そうよ!!この本多専務が偽物なんだわ!!」
完全に取り乱している。
だが渡辺は静かに言った。
「私は一度だけ、専務にお会いした事がある」
その声は重かった。
「あれは間違いなく本物だ」
愛子の顔から血の気が引く。
牧野も憐れむように呟く。
「……今川部長と水野次長、終わりましたね」
二人は聞こえていない。
いや、聞こえていても理解を拒否していた。
「一体何の冗談だ!?」
今川が叫ぶ。
「寄ってたかって俺たちを騙して!!」
愛子も涙目で叫ぶ。
「こんな無能のクズが、ご老公様の筈ないわ!!何を企んでるの!?」
すると本多の目が鋭く光った。
そして二人を睨み付ける。
「お前たち……」
その低い声だけで、周囲が震え上がる。
「まさか、ご老公様へ無礼を働いてないだろうな?」
凄まじい威圧感だった。
今川と愛子は一瞬だけ怯む。
だが、もう後戻り出来なくなっていた。
「お、お前たち二人とも偽物だろ!!」
今川は半ば叫ぶように言った。
「俺たちを騙して何がしたいんだ!?」
愛子も水戸へ縋るように叫ぶ。
「邦光!!私の事を恨んで、こんな事してるんでしょ!?本物のご老公様に知られたら、ただじゃ済まないよ!?」
会場中が静まり返る。
そんな中、水戸――いや、徳川光圀は静かだった。
「二人とも……」
呆れたように小さく息を吐く。
「もう是非の判断すら出来ないところまで行ったか」
そして今川を見る。
「今川。お前、さっき青山へ電話してたよな?」
今川の顔が引きつる。
「本多が来た時、“青山から聞いている”と言った」
水戸は淡々と続ける。
「この本多が偽物なら、“青山から聞いている”なんて話になる訳がない」
今川の表情が凍る。
「そして、その本物の本多が、俺を“ご老公様”と呼んでいる」
静かな声。
だが、その言葉は絶対だった。
「つまり、俺がその“ご老公”――徳川光圀だ」
会場が静まり返る。
「理解したか?」
今川の膝から力が抜けた。
その場へ崩れ落ちる。
「そ……そんな……」
顔面蒼白だった。
「そんな馬鹿な……」
一方、愛子は震えながら水戸へ近付く。
「ど、どうして……?」
涙声だった。
「どうして最初に言ってくれなかったの!?私を騙してたの!?」
水戸は静かに愛子を見つめる。
「言ったじゃないか」
愛子の肩が震える。
「俺が老公、徳川光圀だと」
愛子は何も言えない。
「信じてくれたか?」
その言葉が突き刺さる。
「半導体も、広告費も、サードパーティー参入も、全部俺の功績だと言った」
水戸は静かに続ける。
「信じてくれたか?」
愛子の目から涙が溢れる。
「君は、俺の言う事を一つも信じなかった」
水戸の声は静かだった。
だが、その静けさが逆に重かった。
「そして今川の言葉は、何も疑わず鵜呑みにした」
愛子は崩れ落ちそうになりながら、水戸の袖を掴む。
しかし水戸は続けた。
「元々、横領犯を突き止めるための潜入だった」
会場がざわつく。
「君へ話せば、潜入が漏れる可能性もあった。だから言えなかった」
そして少し寂しそうに笑う。
「それに……君へ最初から正体を明かしていたら、“本当の君”を見る事も出来なかった」
愛子の涙が止まらない。
「幸い、結婚する前に本当の君を見れて良かったよ」
その言葉は、完全な決別だった。
愛子は崩れ落ちる。
「私は……」
声が震える。
「国内トップクラスの大企業社長夫人の座を……自分から捨ててしまった……」
泣き崩れる愛子。
その姿を見ても、水戸はもう何も言わなかった。
その時だった。
再び入口から声が響く。
「三ツ葉エレクトロニクス榊原社長、中根経理部長がいらっしゃいました!!」
榊原が真っ直ぐ水戸の元へ歩いてくる。
そして。
水戸を中心に、本多と榊原が左右へ並んだ。
その光景だけで、誰もが理解した。
この男が頂点なのだと。
榊原が声を張り上げる。
「こちらにおわす御方を、どなたと心得る!!」
会場全体が震える。
「恐れ多くも、ご老公――徳川光圀様にあらせられるぞ!!」
そして最後に叫んだ。
「頭が高い!!控えおろう!!」
次の瞬間。
会場中の全員が、一斉に平伏した。
そして。
深々と一礼する。
「ご老公様」
会場の空気が凍り付く。
「専務取締役、本多忠信。お呼びにより参上仕りました」
静まり返った会場へ、本多の声だけが響いていた。
一瞬。
誰も理解出来なかった。
そして次の瞬間。
会場中の人間が言葉を失う。
「……え?」
「は……?」
「ご老公様……?」
空気が完全に変わった。
ステージ脇で様子を見ていた渡辺と牧野も、顔を引きつらせている。
「あの若者が……本物のご老公様……!?」
渡辺が呆然と呟く。
牧野は青ざめながら小声で言った。
「や、やはり深入りしなくて正解でしたね……本部長」
「ああ……」
二人は本気で安堵していた。
一歩間違えば、自分たちも終わっていたのだ。
一方。
今川と愛子だけは現実を受け入れられなかった。
「こ、これは何かの間違いだ!!」
今川が叫ぶ。
「こんな奴が、ご老公様の筈がない!!」
愛子も半狂乱だった。
「そうよ!!この本多専務が偽物なんだわ!!」
完全に取り乱している。
だが渡辺は静かに言った。
「私は一度だけ、専務にお会いした事がある」
その声は重かった。
「あれは間違いなく本物だ」
愛子の顔から血の気が引く。
牧野も憐れむように呟く。
「……今川部長と水野次長、終わりましたね」
二人は聞こえていない。
いや、聞こえていても理解を拒否していた。
「一体何の冗談だ!?」
今川が叫ぶ。
「寄ってたかって俺たちを騙して!!」
愛子も涙目で叫ぶ。
「こんな無能のクズが、ご老公様の筈ないわ!!何を企んでるの!?」
すると本多の目が鋭く光った。
そして二人を睨み付ける。
「お前たち……」
その低い声だけで、周囲が震え上がる。
「まさか、ご老公様へ無礼を働いてないだろうな?」
凄まじい威圧感だった。
今川と愛子は一瞬だけ怯む。
だが、もう後戻り出来なくなっていた。
「お、お前たち二人とも偽物だろ!!」
今川は半ば叫ぶように言った。
「俺たちを騙して何がしたいんだ!?」
愛子も水戸へ縋るように叫ぶ。
「邦光!!私の事を恨んで、こんな事してるんでしょ!?本物のご老公様に知られたら、ただじゃ済まないよ!?」
会場中が静まり返る。
そんな中、水戸――いや、徳川光圀は静かだった。
「二人とも……」
呆れたように小さく息を吐く。
「もう是非の判断すら出来ないところまで行ったか」
そして今川を見る。
「今川。お前、さっき青山へ電話してたよな?」
今川の顔が引きつる。
「本多が来た時、“青山から聞いている”と言った」
水戸は淡々と続ける。
「この本多が偽物なら、“青山から聞いている”なんて話になる訳がない」
今川の表情が凍る。
「そして、その本物の本多が、俺を“ご老公様”と呼んでいる」
静かな声。
だが、その言葉は絶対だった。
「つまり、俺がその“ご老公”――徳川光圀だ」
会場が静まり返る。
「理解したか?」
今川の膝から力が抜けた。
その場へ崩れ落ちる。
「そ……そんな……」
顔面蒼白だった。
「そんな馬鹿な……」
一方、愛子は震えながら水戸へ近付く。
「ど、どうして……?」
涙声だった。
「どうして最初に言ってくれなかったの!?私を騙してたの!?」
水戸は静かに愛子を見つめる。
「言ったじゃないか」
愛子の肩が震える。
「俺が老公、徳川光圀だと」
愛子は何も言えない。
「信じてくれたか?」
その言葉が突き刺さる。
「半導体も、広告費も、サードパーティー参入も、全部俺の功績だと言った」
水戸は静かに続ける。
「信じてくれたか?」
愛子の目から涙が溢れる。
「君は、俺の言う事を一つも信じなかった」
水戸の声は静かだった。
だが、その静けさが逆に重かった。
「そして今川の言葉は、何も疑わず鵜呑みにした」
愛子は崩れ落ちそうになりながら、水戸の袖を掴む。
しかし水戸は続けた。
「元々、横領犯を突き止めるための潜入だった」
会場がざわつく。
「君へ話せば、潜入が漏れる可能性もあった。だから言えなかった」
そして少し寂しそうに笑う。
「それに……君へ最初から正体を明かしていたら、“本当の君”を見る事も出来なかった」
愛子の涙が止まらない。
「幸い、結婚する前に本当の君を見れて良かったよ」
その言葉は、完全な決別だった。
愛子は崩れ落ちる。
「私は……」
声が震える。
「国内トップクラスの大企業社長夫人の座を……自分から捨ててしまった……」
泣き崩れる愛子。
その姿を見ても、水戸はもう何も言わなかった。
その時だった。
再び入口から声が響く。
「三ツ葉エレクトロニクス榊原社長、中根経理部長がいらっしゃいました!!」
榊原が真っ直ぐ水戸の元へ歩いてくる。
そして。
水戸を中心に、本多と榊原が左右へ並んだ。
その光景だけで、誰もが理解した。
この男が頂点なのだと。
榊原が声を張り上げる。
「こちらにおわす御方を、どなたと心得る!!」
会場全体が震える。
「恐れ多くも、ご老公――徳川光圀様にあらせられるぞ!!」
そして最後に叫んだ。
「頭が高い!!控えおろう!!」
次の瞬間。
会場中の全員が、一斉に平伏した。



