会場の空気が張り詰める中――。
突然、入り口付近でホテルスタッフの声が響いた。
「天野電子渉外部長、安倍様がいらっしゃいました!」
会場の視線が一斉に入り口へ向く。
そこへ現れたのは、天野電子渉外部長・安倍だった。
高級スーツに身を包み、周囲を見渡しながら歩いてくる。
今川はそれを見て僅かに顔をしかめた。
(まさか、天野電子の安倍部長まで呼ばれているとは……)
安倍は真っ直ぐ水戸の前まで歩いていく。
そして、その場で深々と頭を下げた。
「この度はお招きいただき、ありがとうございます」
周囲がざわつく。
天野電子ほどの企業の部長が、一介の平社員へ頭を下げているのだ。
「今後もゲーム・ステーション用半導体に関しては、ぜひウチにお任せ下さい」
水戸は落ち着いた様子で頷いた。
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
そして軽く頭を下げ返す。
そのやり取りを見て、周囲からざわめきが広がっていく。
「あれ……?」
「半導体って、今川部長が根回ししたんじゃなかったのか?」
「だったら何で、水戸にだけ挨拶して今川部長を完全無視なんだ?」
「まさか……水戸の言ってた事が本当で、今川部長の話が嘘……?」
ざわめきが広がる。
空気が変わり始めていた。
すると愛子が慌てて前へ出た。
「そんな筈ないです!」
必死だった。
「安倍部長!半導体供給の件は、ウチの今川部長の根回しがあったからですよね!?」
会場の視線が安倍へ集まる。
だが安倍は首を傾げた。
「今川部長?」
そして、あっさりと言った。
「いえ。今回の件には何も関わっておりませんが」
静寂。
会場の空気が凍った。
「え?」
愛子の顔が固まる。
久松も蜂屋も、周囲の社員たちも同じ顔をしていた。
一方で、今川だけが露骨に顔を引きつらせている。
愛子はゆっくりと今川を見る。
「今川部長……どういう事ですか?」
だが今川はすぐに表情を立て直した。
そして逆に怒鳴り返す。
「外部の人間まで巻き込むとは、随分大掛かりな嘘だな!!」
会場が再びざわつく。
「そこまで計画済みとはな! 無能かと思ったが、嘘をつく能力と演技力だけは大したもんだ!」
今川は水戸を指差す。
「嘘をつくための計画性を、仕事にも活かせれば良かったのになぁ!!」
無理矢理押し切ろうとしていた。
愛子もすぐに今川へ同調する。
「……そういう事ね」
愛子は呆れたように溜息を吐いた。
「わざわざ見栄を張るために、部外者まで巻き込んで。本当にみっともない」
そして冷たい視線を水戸へ向ける。
「その上、自分がご老公様だなんて嘘までついて……。そこまでして自分を大きく見せたいの?」
一方、安倍は完全に空気の異常さを察していた。
(え? “自分がご老公様”だなんて嘘までついて……? どういう事だ?)
嫌な汗が背中を流れる。
(と、とにかく巻き込まれない方が良さそうだ……)
そう判断した安倍は、慌てて一歩下がった。
「わ、私はご挨拶に来ただけですので……」
ぎこちなく笑う。
「この後、用事がありますので、これにて失礼致します」
そして逃げるように会場を後にした。
その背中を見送りながら、久松が勝ち誇ったように笑う。
「ははっ!たった一人の味方も帰って行ったぞ!」
そして水戸を指差す。
「もう観念して謝れよ!」
愛子も腕を組みながら言った。
「そうよ!」
その目には完全な軽蔑が宿っている。
「土下座して謝りなさい! そうすれば、許さない事もないわよ」
そして鼻で笑う。
「ご老公様は、それでも許さないと思うけど」
だが水戸は一切怯まなかった。
むしろ冷たく笑った。
「俺がお前らに土下座して謝る?」
その声には静かな威圧感があった。
「お前ら如きじゃ、百年早いよ」
一瞬、空気が止まる。
今川が眉をひそめる。
「この二人で足りないなら、俺を加えればどうだ?」
「足元にも及ばない」
即答だった。
今川の顔が引きつる。
「……じゃあ、渡辺本部長と牧野人事部長も加えればどうだ?」
「全然足りない」
会場がざわつく。
愛子が怒鳴った。
「いい加減にしなさい!!」
完全に怒り狂っていた。
「あんたは、ここにいる全員より高みにいるとでも言いたい訳!?」
すると水戸は静かに答える。
「そうだ」
会場が静まり返る。
そして、水戸――いや、徳川光圀は全員を見渡しながら言った。
「ここにいる全員の進退は、俺の一言で決まる」
突然、入り口付近でホテルスタッフの声が響いた。
「天野電子渉外部長、安倍様がいらっしゃいました!」
会場の視線が一斉に入り口へ向く。
そこへ現れたのは、天野電子渉外部長・安倍だった。
高級スーツに身を包み、周囲を見渡しながら歩いてくる。
今川はそれを見て僅かに顔をしかめた。
(まさか、天野電子の安倍部長まで呼ばれているとは……)
安倍は真っ直ぐ水戸の前まで歩いていく。
そして、その場で深々と頭を下げた。
「この度はお招きいただき、ありがとうございます」
周囲がざわつく。
天野電子ほどの企業の部長が、一介の平社員へ頭を下げているのだ。
「今後もゲーム・ステーション用半導体に関しては、ぜひウチにお任せ下さい」
水戸は落ち着いた様子で頷いた。
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
そして軽く頭を下げ返す。
そのやり取りを見て、周囲からざわめきが広がっていく。
「あれ……?」
「半導体って、今川部長が根回ししたんじゃなかったのか?」
「だったら何で、水戸にだけ挨拶して今川部長を完全無視なんだ?」
「まさか……水戸の言ってた事が本当で、今川部長の話が嘘……?」
ざわめきが広がる。
空気が変わり始めていた。
すると愛子が慌てて前へ出た。
「そんな筈ないです!」
必死だった。
「安倍部長!半導体供給の件は、ウチの今川部長の根回しがあったからですよね!?」
会場の視線が安倍へ集まる。
だが安倍は首を傾げた。
「今川部長?」
そして、あっさりと言った。
「いえ。今回の件には何も関わっておりませんが」
静寂。
会場の空気が凍った。
「え?」
愛子の顔が固まる。
久松も蜂屋も、周囲の社員たちも同じ顔をしていた。
一方で、今川だけが露骨に顔を引きつらせている。
愛子はゆっくりと今川を見る。
「今川部長……どういう事ですか?」
だが今川はすぐに表情を立て直した。
そして逆に怒鳴り返す。
「外部の人間まで巻き込むとは、随分大掛かりな嘘だな!!」
会場が再びざわつく。
「そこまで計画済みとはな! 無能かと思ったが、嘘をつく能力と演技力だけは大したもんだ!」
今川は水戸を指差す。
「嘘をつくための計画性を、仕事にも活かせれば良かったのになぁ!!」
無理矢理押し切ろうとしていた。
愛子もすぐに今川へ同調する。
「……そういう事ね」
愛子は呆れたように溜息を吐いた。
「わざわざ見栄を張るために、部外者まで巻き込んで。本当にみっともない」
そして冷たい視線を水戸へ向ける。
「その上、自分がご老公様だなんて嘘までついて……。そこまでして自分を大きく見せたいの?」
一方、安倍は完全に空気の異常さを察していた。
(え? “自分がご老公様”だなんて嘘までついて……? どういう事だ?)
嫌な汗が背中を流れる。
(と、とにかく巻き込まれない方が良さそうだ……)
そう判断した安倍は、慌てて一歩下がった。
「わ、私はご挨拶に来ただけですので……」
ぎこちなく笑う。
「この後、用事がありますので、これにて失礼致します」
そして逃げるように会場を後にした。
その背中を見送りながら、久松が勝ち誇ったように笑う。
「ははっ!たった一人の味方も帰って行ったぞ!」
そして水戸を指差す。
「もう観念して謝れよ!」
愛子も腕を組みながら言った。
「そうよ!」
その目には完全な軽蔑が宿っている。
「土下座して謝りなさい! そうすれば、許さない事もないわよ」
そして鼻で笑う。
「ご老公様は、それでも許さないと思うけど」
だが水戸は一切怯まなかった。
むしろ冷たく笑った。
「俺がお前らに土下座して謝る?」
その声には静かな威圧感があった。
「お前ら如きじゃ、百年早いよ」
一瞬、空気が止まる。
今川が眉をひそめる。
「この二人で足りないなら、俺を加えればどうだ?」
「足元にも及ばない」
即答だった。
今川の顔が引きつる。
「……じゃあ、渡辺本部長と牧野人事部長も加えればどうだ?」
「全然足りない」
会場がざわつく。
愛子が怒鳴った。
「いい加減にしなさい!!」
完全に怒り狂っていた。
「あんたは、ここにいる全員より高みにいるとでも言いたい訳!?」
すると水戸は静かに答える。
「そうだ」
会場が静まり返る。
そして、水戸――いや、徳川光圀は全員を見渡しながら言った。
「ここにいる全員の進退は、俺の一言で決まる」



