水戸の言葉が会場へ響き渡る。
「俺がお前の言う“ご老公”、徳川光圀だ」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、会場が静まり返った。
だが次の瞬間。
どっと爆笑が巻き起こった。
「あははははっ!」
「おいおい!」
「マジかよ!」
誰も信じない。
当然だった。
三ツ葉グループの絶対権力者。
国内トップクラスの巨大企業を築き上げた創業者。
“ご老公”と呼ばれる存在。
そんな人物が、こんな若い平社員のはずがない。
それがこの場にいる全員の常識だった。
愛子は呆れたように肩を震わせる。
「あはははっ、邦光」
その目には軽蔑しか無かった。
「無能の上に、頭までおかしくなったの?」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
「そんな見え見えの嘘までついて。笑わせないで」
水戸は何も言わない。
ただ静かに愛子を見つめていた。
一方、今川はワイングラスを揺らしながら鼻で笑う。
「言うに事欠いて、ご老公様の名を騙るとはな……」
そして、わざと周囲へ聞こえるように言った。
「これはもう冗談では済まない問題ですよ」
久松も大笑いしている。
「水戸!嘘つくなら、もっと上手い嘘つけよ!」
「そうだそうだ!」
「無能のクセに話盛り過ぎだろ!」
会場は完全に水戸を笑い者にしていた。
すると愛子が冷たく言い放つ。
「あんたみたいな無能のクズで、しかも嘘つきは、もう降格じゃ足りないわ」
そして。
「クビね」
その言葉に会場がざわつく。
だが今川は満足そうに頷いた。
「そうだな」
そして視線を会場の奥へ向ける。
「幸い、渡辺本部長も牧野人事部長も来ている」
ニヤリと笑った。
「二人にお願いして、クビにしてもらおう」
愛子は嬉しそうに頷く。
そして壇上から声を張り上げた。
「渡辺本部長!牧野人事部長!」
会場の視線が二人へ集まる。
「この水戸邦光は、ご老公様の名を騙って騒ぎを起こしています!今すぐクビにして追い出して下さい!」
渡辺と牧野は、先程からステージ脇で成り行きを見守っていた。
渡辺は五十代後半の本部長。
牧野は人事部長である。
渡辺は少し困ったような顔をしながら言う。
「そうだな……。ご老公様の名を騙るのは不敬だ」
会場がざわつく。
だが渡辺は慎重だった。
「牧野君、いいな?」
しかし牧野は即答しなかった。
「い、いや、その……」
妙に歯切れが悪い。
「水戸君に関しては、榊原社長の許可が無ければ決められないんです」
会場がざわつく。
愛子が眉をひそめる。
「何でですか?」
「い、いえ、その……今、電話して確認しますので……」
牧野は額へ汗を浮かべながらスマートフォンを取り出した。
そして榊原へ電話を掛ける。
数秒後。
『……はい、榊原です』
電話が繋がる。
「榊原社長、実はプロジェクトチームの水戸が、ご老公様の名を騙って騒ぎを起こしております」
牧野は慎重に言葉を選びながら続けた。
「クビにすべきという意見も出ており、事態収拾のため解雇して追い出したいと思いますが、よろしいでしょうか?」
次の瞬間。
電話越しに怒鳴り声が響いた。
『馬鹿者ォ!!』
会場中に聞こえるほどの大声だった。
牧野が思わずスマートフォンを耳から離す。
『そんな事してみろ!!お前たち、ただじゃ済まないぞ!!』
会場の空気が変わる。
『もう少ししたら俺も行く!下手な真似するなよ!!』
ブツッ。
通話が切れた。
牧野は青ざめた顔でスマートフォンを下ろす。
そして隣の渡辺へ小声で言った。
「本部長……今の電話、聞こえましたか?」
「ああ、聞こえた……」
渡辺の表情も硬い。
「もしかして……本物のご老公様……?」
だが次の瞬間、自分でその考えを打ち消すように首を振った。
「いや……そんな訳ないか……」
そう言いながらも、声には迷いが混じっていた。
「どちらにしても、下手に首を突っ込まない方が身のためだな」
「そ、そうですね……」
完全に及び腰だった。
すると愛子が苛立ったように言う。
「本部長!何を迷ってるんですか!?明らかに嘘つきじゃないですか!」
だが渡辺は距離を取るように言った。
「悪いが、水戸君の進退に関しては我々では決められない」
「え……?」
「もう少ししたら榊原社長が来る。直接お願いしてみるんだな」
完全に逃げた。
火の粉が自分へ飛んで来ないように。
今川の顔が僅かに引きつる。
「本部長も人事部長もクビに出来ないなんて……まさか……?」
愛子は即座に否定した。
「いえ! そんな筈ないわ!」
久松も慌てて言う。
「そうだ! どうせ榊原社長の遠い親戚とか、その程度だ!」
その言葉に今川も少し落ち着きを取り戻す。
「……そうだな」
自分へ言い聞かせるように頷く。
「ご老公と呼ばれてる方が、こんな若造の訳ないな」
だが。
その言葉とは裏腹に、会場の空気は少しずつ変わり始めていた。
誰も笑わなくなっていた。
「俺がお前の言う“ご老公”、徳川光圀だ」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、会場が静まり返った。
だが次の瞬間。
どっと爆笑が巻き起こった。
「あははははっ!」
「おいおい!」
「マジかよ!」
誰も信じない。
当然だった。
三ツ葉グループの絶対権力者。
国内トップクラスの巨大企業を築き上げた創業者。
“ご老公”と呼ばれる存在。
そんな人物が、こんな若い平社員のはずがない。
それがこの場にいる全員の常識だった。
愛子は呆れたように肩を震わせる。
「あはははっ、邦光」
その目には軽蔑しか無かった。
「無能の上に、頭までおかしくなったの?」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
「そんな見え見えの嘘までついて。笑わせないで」
水戸は何も言わない。
ただ静かに愛子を見つめていた。
一方、今川はワイングラスを揺らしながら鼻で笑う。
「言うに事欠いて、ご老公様の名を騙るとはな……」
そして、わざと周囲へ聞こえるように言った。
「これはもう冗談では済まない問題ですよ」
久松も大笑いしている。
「水戸!嘘つくなら、もっと上手い嘘つけよ!」
「そうだそうだ!」
「無能のクセに話盛り過ぎだろ!」
会場は完全に水戸を笑い者にしていた。
すると愛子が冷たく言い放つ。
「あんたみたいな無能のクズで、しかも嘘つきは、もう降格じゃ足りないわ」
そして。
「クビね」
その言葉に会場がざわつく。
だが今川は満足そうに頷いた。
「そうだな」
そして視線を会場の奥へ向ける。
「幸い、渡辺本部長も牧野人事部長も来ている」
ニヤリと笑った。
「二人にお願いして、クビにしてもらおう」
愛子は嬉しそうに頷く。
そして壇上から声を張り上げた。
「渡辺本部長!牧野人事部長!」
会場の視線が二人へ集まる。
「この水戸邦光は、ご老公様の名を騙って騒ぎを起こしています!今すぐクビにして追い出して下さい!」
渡辺と牧野は、先程からステージ脇で成り行きを見守っていた。
渡辺は五十代後半の本部長。
牧野は人事部長である。
渡辺は少し困ったような顔をしながら言う。
「そうだな……。ご老公様の名を騙るのは不敬だ」
会場がざわつく。
だが渡辺は慎重だった。
「牧野君、いいな?」
しかし牧野は即答しなかった。
「い、いや、その……」
妙に歯切れが悪い。
「水戸君に関しては、榊原社長の許可が無ければ決められないんです」
会場がざわつく。
愛子が眉をひそめる。
「何でですか?」
「い、いえ、その……今、電話して確認しますので……」
牧野は額へ汗を浮かべながらスマートフォンを取り出した。
そして榊原へ電話を掛ける。
数秒後。
『……はい、榊原です』
電話が繋がる。
「榊原社長、実はプロジェクトチームの水戸が、ご老公様の名を騙って騒ぎを起こしております」
牧野は慎重に言葉を選びながら続けた。
「クビにすべきという意見も出ており、事態収拾のため解雇して追い出したいと思いますが、よろしいでしょうか?」
次の瞬間。
電話越しに怒鳴り声が響いた。
『馬鹿者ォ!!』
会場中に聞こえるほどの大声だった。
牧野が思わずスマートフォンを耳から離す。
『そんな事してみろ!!お前たち、ただじゃ済まないぞ!!』
会場の空気が変わる。
『もう少ししたら俺も行く!下手な真似するなよ!!』
ブツッ。
通話が切れた。
牧野は青ざめた顔でスマートフォンを下ろす。
そして隣の渡辺へ小声で言った。
「本部長……今の電話、聞こえましたか?」
「ああ、聞こえた……」
渡辺の表情も硬い。
「もしかして……本物のご老公様……?」
だが次の瞬間、自分でその考えを打ち消すように首を振った。
「いや……そんな訳ないか……」
そう言いながらも、声には迷いが混じっていた。
「どちらにしても、下手に首を突っ込まない方が身のためだな」
「そ、そうですね……」
完全に及び腰だった。
すると愛子が苛立ったように言う。
「本部長!何を迷ってるんですか!?明らかに嘘つきじゃないですか!」
だが渡辺は距離を取るように言った。
「悪いが、水戸君の進退に関しては我々では決められない」
「え……?」
「もう少ししたら榊原社長が来る。直接お願いしてみるんだな」
完全に逃げた。
火の粉が自分へ飛んで来ないように。
今川の顔が僅かに引きつる。
「本部長も人事部長もクビに出来ないなんて……まさか……?」
愛子は即座に否定した。
「いえ! そんな筈ないわ!」
久松も慌てて言う。
「そうだ! どうせ榊原社長の遠い親戚とか、その程度だ!」
その言葉に今川も少し落ち着きを取り戻す。
「……そうだな」
自分へ言い聞かせるように頷く。
「ご老公と呼ばれてる方が、こんな若造の訳ないな」
だが。
その言葉とは裏腹に、会場の空気は少しずつ変わり始めていた。
誰も笑わなくなっていた。



