最後に晒した醜態(しゅうたい)は、ただの真実。
 化けの皮を剥がしたら、ただ本来のわたしがあらわになったに過ぎない。
 これは決別だ。
 いまになって速見くんの言っていたことの意味が分かった。

 ────悔しかったら、この程度でめげないでよ。

 ────“終わり”じゃないから。

 そうだね、と心の中で思い直す。
 先ほど一花に言い捨てた台詞は、半分だけ撤回しよう。

 廊下を歩き出したわたしの背中に「天沢」と声がかかる。
 振り向くまでもなく正面に回り込んできた速見くんは、どことなく(うれ)うような表情をしていた。
 教室での騒ぎにも一花の弁解にもまるで無関心と言わんばかり。彼らしい。

「よかったの? あんな大胆なことして。今度こそ本当に孤立するんじゃない?」

 そうかもしれない。
 けれど、あれだけ恐れていた孤独の気配はいまのところ見えないくらい霞んでいる気がする。それに。

「いいの、もういい」

「いい、って……」

「後悔はしてないから。あのアカウントがバレたのも、むしろちょうどよかったなっていまは思う。もうわたしにOtoの仮面は必要ない」

 スマホを手にSNSを開く。
 想定以上に拡散され、いいねとコメントが押し寄せていた。
 通知を切っていなければ、鳴り止まないで震え続けていたことだろう。
 投稿は止まっているのに、最後に確認したときより1000人近くフォロワーも増えている。

 みんな、Otoへの幻想が打ち砕かれて非難しているか、面白がって高みの見物をしているか、いずれにしてももう関係ない。
 顔も名前も知らない彼ら彼女らの評価を恐れることなんてない。
 わたしがいるのはここだから。
 真正面から向き合うべきは、いま生きているこの世界。

「そっか。じゃあ言えたんだ、思ってたこと」

「うん、速見くんのお陰……ってことにしとく」

 そう言うと、彼はふっと笑った。
 素直になればいいのに、なんてぼやいている。
 随分と厚かましい。
 思わず笑ってしまいながら、メニューを開くと“アカウント削除”をタップした。

 “本当に削除しますか?”

 ほんの一瞬、躊躇が差す。
 でも結局それは1秒にも満たず、わたしの人差し指は確認のダイアログボックスで“はい”に触れていた。

 “アカウントを削除しました”

 肩から力が抜ける。
 Otoの息の根は、これで完全に止まった。