いままで寄せられたファンからの賞賛コメントと手厳しいアンチコメント、その画面が脳裏を流れた。
 見ないようにしていたけれど、たぶんいまも増え続けているだろう。
 次の瞬間、砂を撒いたようにざらついて消える。

「ただの臆病者」

 顔を上げると、わたしはなぜか自然と笑っていた。

「現実で満たされない自尊心とか承認欲求を、SNSで膨張させてきただけ。現実逃避してただけ。才色兼備だとか運動神経抜群だとかお金持ちだとか、そんなのは嘘。彼氏がいるとか人気者だとかもぜんぶ嘘。ただ、劣等感から“リア充の勝ち組”って虚像に縋ってきただけの憐れな凡人。……Otoなんて、最初から存在しなかった」

 淡々と吐き出した。
 必死に踏みつけてきたリアルを、しわだらけでぐしゃぐしゃのまま突きつける。

 教室は囁くようなざわめきに包まれていた。
 一花たちもさすがに予想外だったのか、呆気に取られた様子だ。

「なに……いまさら言い訳?」

 ややあって一花が引きつったような笑みをたたえる。
 ペースを乱されたことが気に食わないらしい。
 怯むことなく言葉を返す。

「言い訳じゃなくてただの真実。もう他人の目ばっかり気にするのはやめる。わたしはわたしだから」

「はあ? ウケる、なに言っちゃってんの? もうみんなに嘘つきってバレてんだよ。いまさら何しても無駄。誰があんたなんかと友だちでいたいと思うの?」

 容赦なく刃を向けられる。
 一花としては、とことんわたしが気に入らないんだろう。

「誰も必要としてないって。目障りだからもう消えちゃえば?」

 けれど、何だか吹っ切れた、というか開き直ったわたしに怯む理由なんかなかった。
 一花の鋭い眼差しも移ろいやすい教室の空気も、恐れるに足りない。

 彼女たちの冷ややかな嘲笑を耳に、わたしは一花の机につかつかと歩み寄っていった。
 思わぬ行動だったらしく、みんながみんな目に見えて困惑をあらわに身構える。

「なに」

 鞄から水筒を取り出した。
 今日はまだひとくちも口をつけていないからたっぷり満たされている。
 蓋を開けると、ためらうことなく一花めがけてぶちまけた。